緋文字
原題:THE SCARLET LETTERS
作者:エラリイ・クイーン(Ellery Queen)
訳者:青田勝(あおた・かつ)
初刊:1953
出版:ハヤカワ文庫
装丁:カバー 北園克衛
定価:505円+税
ISBN4−15−070102−4

[あらすじ]
 探偵小説家ダークと女流演出家のマーサは誰もが羨むおしどり夫婦だったが、いつしか仲が悪くなり、やがてトラブルを起こすようになった。
 ダークの暴力に耐えかねたマーサから相談を持ち掛けられたエラリイは、自らの秘書ニッキーをダークの秘書として雇わせることで問題を解決しようとする。
 しかし、事態は泥沼化の一途をたどり、ついに「緋文字殺人事件」と呼ばれる悲劇に発展していくことになる……。


〔Caution!! ネタばれ注意〕

「あなたがそれは象徴だとおっしゃるのかと思っていたのよ」
「象徴だって?」
「ナサニエル・ホーソーンの緋文字のAよ」
(p72より)


 「不文律によれば、ある種の犯罪行為の罪に問われた者に対しては刑罰免除の処置が認められるのであります。特に、ある者が、誘惑または姦淫によって自身の名誉を毀損された場合、その名誉に対して報復しようとする自然にして崇高な欲求に基づいてかかる行為がなされた場合は、これに該当するのであります」(p252より)って本当ですか?
 江戸時代の日本じゃあるまいし、そんな不文律というか法理というか、とてもじゃないですが信じられません。
 これが本当だとすれば、本書のケースは完全犯罪の一試論といえると思いますが、実際のところかなり疑問です。まあ、陪審制だとこういうのもアリなのかも知れませんが、それにしても……。

 本書は、ホーソーンの同名小説『緋文字』をモチーフにしたものです。
 てなわけで、物語中の描写の大部分はダークとマーサとの夫婦関係に割かれています。まあ、最初から元ネタの存在を考えればこの展開は予想範囲なので、余裕を持って読み続けることができましたが、万一コテコテのミステリを期待するようなことがあったら我慢がならなかったでしょう(笑)。

 本書のミステリとしてのテーマはダイイング・メッセージです。
 せっかくホーソーンの『緋文字』をモチーフにしたのですから、『A』をダイイング・メッセージのお題として扱って欲しかったように思います。ちょっと残念です。
 ホーソーンの『緋文字』の場合、『A』はAdulty(姦通)のAなのですが、その後、ヒロインであるへスターの生き方によって、Angel(天使)、あるいはAble(力ある)というように、その意味が変化し、多様性を持つようになっていきます。
 それに対して、本書のダイイング・メッセージの場合には、いくつかの解釈が考えられる中で、その真の意味を確定させていくという、反対方向の思考順序が要求されてるわけで、この点は面白いです。
 ただ、クロスがふたつで、ダブルクロス、それが裏切りを意味する、っていうのは一般的な知識としてどこまで通用するもんでしょうか?
 確かに辞書を見てみますと、俗語として double cross =二枚舌、裏切り、寝返りという意味が載ってます(ライトハウス英和辞典より)。
 まあ、要するに、サッパリ分からなかったという言い訳がしたいだけです(笑)。

 その他にも、手紙の暗号なんかもありますし、『靴に棲む老婆』(の最後の方)に登場したニッキー・ポーターが登場(設定が全然違ってますが・笑)などと、読みどころは多いはずなのですが、正直なところそんなにオススメはできません。何といいますか、色々工夫してあるなあとは思いますけど。
 ですから、その辺りの作者クイーンの苦悩を感じとるという読み方が、勝手ながらオススメだったりします(笑)。


『国名シリーズその他』TOPへ