悪の起源
原題:THE ORIGIN OF DEVIL
作者:エラリイ・クイーン(Ellery Queen)
訳者:青田勝(あおた・かつ)
初刊:1951
出版:ハヤカワ文庫
装丁:カバー 北園克衛
定価:680円+税
ISBN4−15−070109−1

[あらすじ]
 ハリウッドに小説を書きにきていたエラリイは突然女性の訪問を受ける。彼女は、恐怖によって父を殺した犯人を探して欲しいとエラリイに頼んできた。正直、あまり乗り気のしないエラリイだったが、彼女の父のもとに脅迫状と一緒に送られたものが犬の死体だったことに好奇心を刺激される。
 やがて、その父親の共同経営者である男のもとにも意味不明の脅迫が行なわれていることを知ったエラリイは、地元警察と協力を得て調査を開始するが……。


〔Caution!! ネタばれ注意〕

 犯罪というものはすべて、普通の世間の人々が夢みているような事がらを実現してみせるという点において、幻想的といえるのだ。(p145より)


 本書は、『悪魔の報酬』『ハートの4』に続いての、15年ぶりのハリウッドものです。

 冒頭の文章には焦りました。年増の女の死体を見ながら、素っ裸で酒を飲むエラリイ……変態になってしまったのか!(笑)
 比喩的表現(歳をとった女の死体=ハリウッド)だと気付くのに時間がかかった私の読解力のなさゆえ、と言われればそれまでですが、しかし、本書ではこの「比喩」という技法がそこかしこに使われてます。
 そもそも、チャールズ・ダーウィンの『種の起源』をモチーフにしてミステリを書こうなんて発想自体が凄過ぎます。これだけで、たとえ本書がダメダメだったとしても擁護したくなってしまいます(笑)。
 脅迫の内容は、『種の起源』のモチーフであることを想定すれば、進化論の比喩であることは事前に何となく分かります。しかし、だからといって何の意味があるのかと思いきや……よくもこんな入り組んだプロットを考え出したものです。
 プロットといえば、私は『種の起源』そのものや進化論などの学説、それにまつわる学者について全く知らなかったので、真相を知って「へぇ〜」と思いましたが、知ってた人にはすぐに犯人が分かってしまうかもしれませんね。
 ……いや、分かんないかも。手紙の問題がありますからね。
 あからさまに怪しいのは誰の目にも明らかでしょう。だって、英語の原文がそのまま載ってるんですから(笑)。で、一応考えてはみたんですよ。でも、そんなの分かるかよ。海藤か(※註1)

 比喩といえば、本書の法的な意味での犯人と真犯人の関係が、朝鮮戦争の南北朝鮮とアメリカ・ソビエトとの関係のメタファである、というのは考えすぎでしょうか?
 いや、多分考えすぎなのでしょう。でも、本書の3年後に刊行された『ガラスの村』ではかなり痛烈な戦争批判をしていますし、これ以前の作品、例えば『フォックス家の殺人』などでも、戦争の悲惨な現実を直視した描写が頻繁に見受けられます。それに、本書でも「世の中がこんな大騒ぎになったら、あたしたちの事件などばかばかしい下らないことのように思われてきたわ。ある意味からいえば、ほんとうはそうかも知れないわね。でも決してばかばかしくも、くだらなくもないと思うのよ。侵略戦争っていうものはやっぱり殺人じゃないの。それをただ何もしないで甘んじて受けている法はないでしょう?」(p234より)とかなり熱く語っています。ですから、あながち的外れな読みでもないように思うのですが……。
 しかし、私がそんな妄想を抱くほど、本書での原水爆や朝鮮戦争の扱いがかなりクローズアップされてますし、しかも事件解決後、本書のカップル2人は軍属して戦地に赴く、という終わり方をしています。ハリウッドもの前2作は華やかな舞台に相応しい、どこかユーモラスなところがあったのですが、本書はかなり暗く陰鬱な雰囲気が感じられてなりません。

 原水爆といえば、p135で「原子時代」という表記(15刷参照)があるのですが、これって「原始時代」の誤記ですよね、多分。いや、ちょっと気になりまして(※註2)。これが狙った比喩(というかシャレ)だったらスゴイですが、英語でこんなことができるとは思えませんから(笑)。

 『悪の起源』というタイトルですが、「悪」というものを歴史的に遡って検証しているわけではありません。検証しているのは現在の「悪」です。つまり、犯罪と戦争、そして、それらの枠内で計ることのできない「悪」。これって、時代が進んでも決して色褪せないテーマであるだけに、今読んでも全然古臭いと感じませんでした。



※註1
 マンガ『幽遊白書』(冨樫義博・著 ジャンプ・コミックス全19巻)に出てくる登場人物で、特定領域内で禁じられた言葉を発した人間の体から魂を抜き取る、『禁句』(タブー)という力を持った能力者です。
 それと、本書に登場する手紙とどんな関係があるかといえば……分かる人にだけ分かるということで(笑)。

※註2
 なぜ気になるかといえば、こんな自作ショート・ショートを書いているからです(笑)。


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