悪魔の報酬
原題:THE DEVIL TO PAY
作者:エラリイ・クイーン(Ellery Queen)
訳者:尾坂力(おさか・つとむ)
初刊:1938
出版:ハヤカワ文庫
装丁:カバー 巽亜古
定価:640円+税
ISBN4−15−070121−0

[あらすじ]
 ハリウッドの別荘で大富豪が殺された。
 その男は会社を倒産させ、投資家や共同経営者に損害を与えながらも、自らは大金を稼いで世間の非難を浴びていた。
 動機を持つ人間が多数存在し、当事者たちが互いを庇い合う中で、エラリイは現場の不可解な状況から容疑者を限定していき、ついに意外な犯人を告発する……。


〔Caution!! ネタばれ注意〕

本書の中のある登場人物が名前、外観、性格、心的能力、背景としての教養もしくは職業、または般的考え方において実在のある人間に類似しているとしても、この嘆かわしい相似は作者にはいかんともしがたい神の御技であると解釈されるべきであるという自明のことを述べなければならなくなったのである。(p3より)


 えーと、タイトルと内容の関係が全く分からないは私だけでしょうか?
 ハリウッド生活が私にもたらしたのはこの小説のアイデアだけだ、という作者の皮肉でしょうか?(ホントのところは知りません・笑)

 それはともかく、1930年代後半、作者クイーンはハリウッドで脚本家としての生活をすごしていたみたいですが、かなり不本意なものだったらしいです(本書の解説参照)。そのあたりの不満の一端と思われることが本書では描かれていて、それは素直に笑えて楽しめます。大変でしたね(笑)。
 もともと、ミステリと映画って相性が良いとは思えませんし、クイーンが本格的に手掛けたミステリ映画というのも見てみたかった気もしますが、しかし、半端な出来でクイーンが満足するとは思えません。もしそうだとすれば、脚本家としてのクイーンがつまずいてしまったのも頷けます。

 作品の感想ですが、ハリウッドへはエラリイだけで来ていて、父親であるクイーン警視は来ていません。
 てなわけで、エラリイの知らない警察官が捜査を担当してます。しかも、この警察官は珍しくエラリイのことをあまり良く思ってはいません。実のところ当然の反応だとは思います(笑)。
 しかも、この警察官の捜査が杜撰なので困ったもんです。もっとしっかり捜査しててくれれば事件はもっと分かりやすくなったのですが、クイーンパパはやっぱり偉大です。
 その代わりと言っては何ですが、本書のポイントは、当事者の庇い合いという、悪意はないのですが結果として探偵であるエラリイ、ひいては読者を欺こうとしているところでしょう。それによって作られたアリバイが無駄なものかそうでないのか、この辺りはサスペンスですが、しかし、もっときちんと捜査していらば分かったはずの物証・証言によってあっさりと解決されてしまう点がちょっと残念です。
 でもまあ、本書はハリウッドという華々しい舞台とその厚さから見て中量級の作品ですし、これくらいの軽妙さもバランスがとれていると評価して良いように思います。
 解決には物足りなさを感じましたが、その前提となる問題提起(第一〜第三の疑問)は面白かったですし、そこそこ満足です。

 ビックリなのはエラリイのキャラクタの変化でしょう。
 国名シリーズを順番どおりに読んできて、ようやく本書を手にとってみると軽いカルチャーショックに襲われます。
 それまでのエラリイは端的に言ってしまえば推理機械で、豊富な知識と論理的思考が鼻につくええカッコしいでした。
 それが本書では、そうした傾向がなくなってるわけではないのですが、変装したみたり、ださださの服を着てみたり、かなりお茶目になってます。どうしたエラリイ?(笑)
 こうした作風の変化を感じることができるというのも、本書のおいしいところでしょう(キャラ萌えの趣味はありませんが)。


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