| 日本庭園の秘密 | |
| 原題:The Door Between 作者:エラリイ・クイーン(Ellery Queen) 訳者:大庭忠男(おおば・ただお) 初刊:1936 出版:ハヤカワ文庫 装丁:スタジオ・ギブ 定価:780円+税 ISBN4−15−070149−0 |
|
[あらすじ] 10年以上の月日を日本で過ごし、ワシントンスクエアの自邸に日本庭園を持ち、日本人の老女をメイドに雇う流行作家カレン・リース。彼女は文学賞を受賞し、結婚を間近に控え、まさに幸せの絶頂だった。 その彼女が、密室としか思えない状況下で怪死を遂げる。その部屋にはふたつの扉があったが、どちらからも現場への侵入は不可能なように思われた。唯一進入可能だったと思われるエヴァ・マクルーアに容疑がかかるが、彼女は犯行を否認する。エラリイは事件の真相を解明することができるのか? 〔Caution!! ネタばれ注意〕 「しかし、あなたがすぐに行動するといわれるので、わたしも手を打たざるを得なくなりました。論理的にいえば、この事件にはただ一つの正しい解決しかありません。しかし、あなたが急がれるので、法的証拠はしばらく後まわしにして、まず論理的な証拠を取り上げなけれななりません」(p357より) 日本語訳では国名シリーズっぽいですが(ちなみに、創元推理文庫版では「日本樫鳥の謎」と訳されています)、原題は「THE DOOR BETWEEN」となっており、国名は入っていません。それに、シリーズ恒例の「読者への挑戦状」もありません。つまり正式な国名シリーズではありません。 もっとも、《コスモポリタン》という雑誌に掲載されたときには「The Japanese Fan Mystery」、つまり『日本扇の秘密』だったのですが…。 どうしてこうなってしまったかといえば、本書の刊行時期が、1936年という第二次世界大戦へ向かって日本が国際的な印象を最悪なものにしている時期に当たったからだと考えられています。 でも、設定もトリックも日本のエッセンスがふんだんに盛り込まれていて存分に楽しめまし、解説の霞流一も述べていますが、「国名ミステリ」としてもっともふさわしい作品となっています。 また、海外小説ならではの、日本や日本人に対する愉快な誤解・偏見・奇妙な記述も楽しいです。 キヌメという名前の日本人メイドがでてきますが、そんな名前の日本人いないぞ!というツッコミは誰もが入れたくなると思います。その他にも、「日本人が感情を示すことがあるとは考えてもいなかったのだ。彼女は突然、日本人の目が変わった形をしていても、それは涙腺がない証拠ではないのだと悟った」(p117)、「ジャップは言いたくないことは、絶対言わない」(p194)、「日本人はおそらく、地球上でいちばん劣等感をもってる国民だ。それでしょっちゅうアジアで騒ぎを起こす。白人優越の心理がもたらした災いだよ」(p200。これは慧眼)などなどです。 (『ローマ帽子の秘密』p7に名前だけ出てくる日本人名探偵「タマカ・ヒエロ」なんかもその例です。) ただ、それほどひどい誤解ではないですし、頷ける部分もあります。刊行時期が1936年ということを考えれば、クイーンは日本に対して好意的で、それなりに調査した上で本書を書いたと思われます。 しかし、ネタばれになりますが不満もあります。 だって、クイーン自身が、ハラキリ(この場合は女性なのでノドキリということになってます)=切腹は不名誉を消し去るための儀式だと言ってるのに、最後の最後で明らかになる真相では、切腹の必要性が全くないじゃないですか(笑)。 で、その真相についてですが、これはなかなか考えさせられます。 確かに、医師が自らの知識・技術を利用して、患者に病名を誤信させて死に追いやることは犯罪に当たります。少なくとも自殺教唆罪が成立することは間違いないですし、意思決定の自由を侵害した度合いによっては、殺人罪が成立することも考えられます。 しかし、その被害者であるカレン・リースのことをエラリイがそんなに嫌な奴だと思ってるのなら、ジョン博士のやったことなど放っておけば良いと思うのですが…。 それに、仮に博士は罰せられるべきだと考えたとしても、それをほのめかして自殺に追い込むような真似をしては、結局同じ穴のムジナだと思いますが…。医師はダメでも探偵ならいいのか!? だいたい、エラリイはこの手を使って犯人を殺しすぎです。神を気取ってタバコをふかしている場合じゃないと思いますが、ともあれ、最後の一行には感慨深いものがあります。 |