| スペイン岬の秘密 | |
| 原題:The Spanish Cape Mystery 作者:エラリイ・クイーン(Ellery Queen) 訳者:大庭忠男(おおば・ただお) 初刊:1935 出版:ハヤカワ文庫 装丁:カバー スタジオ・ギブ 定価:780円+税 ISBN4−15−070146−6 |
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[あらすじ] 海辺のテラスに腰掛けていた死体は奇妙極まりないものだった。黒い帽子をかぶり、右手にはステッキを持ち、肩には黒いマントをかけていたが、あとはまったくの裸だったのだ。 それより前には、被害者を取り違えたと思われる誘拐事件も発生していた。両者の事件の関係は? そして、犯人はなぜ衣服を脱がせたのか? 〔Caution!! ネタばれ注意〕 「それじゃ、どうしてほうっておかなかったのかね? どうやらきみは結論に達したようだ。あの男は殺す必要があった。彼がいない方が世界は住みやすくなる。それに――」 「それは」エラリイはため息をついて言った。「わたしの仕事はシンボルを扱うもので、現実の人間ではないからですよ」(p422より) 『スペイン岬の秘密』というタイトルですが、別にスペインが舞台なわけではありません。単にアメリカにある「スペイン岬」という名前の岬が舞台になっているだけで、しかもその名前の由来もはっきりしていません。被害者は一応スパニッシュの血筋を引いているみたいですが、ハッキリしているわけではないですし、つまり、本書とスペインは何の関係もないです。まあ、いつものことですが(笑)。 本書では、エラリイは、父親の友人で、年齢の開きにもかかわらず”同士”と認めるソロン判事と休暇のためにスペイン岬の近くの別荘を訪ねるところから物語が始まります。父親のクイーン警視がいない代わりをこのソロン判事がします。もっとも、判事というだけあって、この人もかなりの理屈屋で、父親のクイーン警視との掛け合いとはまた違った味わいがあります。 二人は別に事件を求めて出かけたわけではないのですが、「あの男(注:もちろんクイーンのこと)はまるで猟犬が――たとえは悪いが――のみを引きよせるように、殺人を呼びこむんだ」(p13より)と言われているように、探偵小説の主人公である以上仕方のないことなのです。少なくとも小学生が何回も殺人事件に巻き込まれるよりはましでしょう(笑)。 それで、事件に巻き込まれて、探偵として紹介されたら、関係者に「探偵では手おくれだと思います」(p72)と言われるわけですが、この発言は本格ミステリにおける「探偵」というものの役割をなかなかシニカルながらも的確に表現していると思います(笑)。 本格ミステリとしては、面白いことは面白いのですが、正直甘いと思います。ちょっとひねった読み方をすれば犯人は明らかだからです。 犯人が衣服を脱がした理由については一見するともっともなように思えます。衣類盗難の理由の五類型、(1)衣類の内容のため、(2)犠牲者の身元を隠すため、(3)着衣の一部が犯人のものであるため、(4)衣類に犯行の証拠となるものがある場合、そして、(5)衣類として必要な場合、の類型的分析にはそれなりに感心させられました。しかし、泳ぐときに水着を着るよりも素っ裸の方が邪魔にならずに泳ぎやすいなどということがあるでしょうか? そんなの、変態さんの証明だと思うのですが(笑)。 ただ、ミステリとしてどうかを抜きにしても十分に面白いと思います。 エラリイとソロン判事、そして、郡警察の指揮をとるモーリ警視の三人がこの事件の捜査をするわけですが、即席トリオの割には息がピッタリで読んでて楽しいです。 また、不貞の事実をネタに強請られる三人の女性の、三者三様の反応とその結末もなかなか考えさせられるものがあります。 さらに、事件が一応解決した後のエラリイとソロン判事とのやりとりは、読み方によっては解決編以上に読み応えがあります。 「これできみも、裁判官がしばしば直面する問題がわかっただろう。理論上は死刑に値いする犯罪では、被告の運命は彼と同等の人びとからなる陪審によって決定される。しかし、法廷はしばしば……われわれは文明を誇っているにもかかわらず、真の公平の問題を解決しとらんのだよ」 「わたしは人間の公平なんてどうてもいいと公言してきました。だけどそうじゃない、実に大事です!」 「なぜ拳銃をもって行って彼を討ち、それで終わりにしなかったのだろう? 情動による犯罪だ、喧嘩の結果だと主張すれば、陪審は有罪にしないだろう。ああいう情況のもとでは――」 (p434〜435) ちょっと長い引用になりましたが、万一未読の方がいらっしゃいましたら、是非とも作品を最初から読んでみて下さい。感動もひとしおです。シリーズを通して、エラリイも成長したなぁ、と思います(笑)。 本書における白眉と言える部分だと思います。ゲストとして「(元)判事」というキャラを用意したのは、今までの警察=捜査事実中心の論理展開に新しい視点(法的論理とのハーモニー)を加えることができたという意味で大成功だと思います。 |