| エジプト十字架の謎 | |
| 原題:The Egyptian Cross Mystery 作者:エラリイ・クイーン(Ellery Queen) 訳者:井上勇(いのうえ・いさむ) 初刊:1932 出版:創元推理文庫 装丁:カバー 辰巳四郎 定価:700円+税 ISBN4−488−10409−6 |
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[あらすじ] ウェスト・バージニアの片田舎で起きた殺人事件はマスコミに”T殺人事件”と名付けられていた。T字路に立つT字型の道標に磔にされたT字型の首なし死体。そして被害者の家の扉にはTの血文字。 それから半年が経ち、再び”T”に彩られた殺人事件が発生した。二つの事件の関連性を感じ取ったエラリイは捜査を開始するが、推理の手掛りを全くつかむことができず苦悩することになる。そうした中で新たな悲劇が起きる……。 〔Caution!! ネタばれ注意〕 「これは警察でやる、なぐってどろを吐かせる方式とは違う。犯罪を解決するのに型破りの方法であることは認めるが、私には、本格的な行きかたのように思われる。クイーン君、先をつづけてくれたまえ。謹聴しています」 (p230より) 傑作ぞろいの『国名シリーズ』ですが、その中でももっとも世間での評価が高い作品はおそらくこれではないでしょうか。 本作は1932年に執筆されていますが、この年は作家としてクイーンが一番充実していた年だと一般に言われています。それは、同年に執筆された『Xの悲劇』、『Yの悲劇』、『ギリシア棺の謎』というラインナップの見事さゆえのことですが、確かにそうそうたるものです。 私自信の好みは、まず第一にどうやって殺したか、つまりハウダニットものなので、本作のようなフーダニットものには少々厳しい目で見てしまいがちなのですが、それでも面白かったです。 ヨードチンキというたったひとつの手掛りから、あっという間に真相が明らかになっていく過程はまさに見事なものです。 その真相というのがまた面白い。「誰が殺したのか?」という謎から「誰が殺されたのか?」という首きり死体の真の意味が明らかになって、それがあっという間に解消されていく濃厚な推理過程はホントにカタルシスがあります。ていうか、この犯人スゲーな(笑)。 『国名シリーズ』は、前四作までは事件としては比較的地味なものばかりですが(それでも殺人は殺人ですけど・笑)、本作は首なしの連続殺人事件とかなりショッキングなものです。 構成上理由のあることなのですが、本作以降の国名シリーズはかなりトリッキィな殺人事件が用意されています。そうした意味で、本作をひとつの転機を迎えた作品として見ることもできるでしょう。 最初にも書きましたが、本作はあくまでフーダニットものです。したがって、具体的にどうやって犯行を行なったのかを突き詰めていくといくつもボロがでてきます(特に三回目の犯行。首はどうやって切った? そして、どうやって持ち去ったのか? などなど)。とはいえ、そうした批判は、角を矯めて牛を殺すことになりかねないので自重したいと思います(笑)。 ただ、作中に出てくるヌーディストの団体に裸の女性というのは、ファン・サービスのつもりなのかも知れませんが、あまりにも関係なさ過ぎてちょっと拍子抜けです。エジプト十字架とかアンクとかの薀蓄はまだ我慢できるのですが……。 本作は、作中でエラリイ自身が述べているように、ヨードチンキが出てくるまでは真相が全くわからない構造になっているので、そうした無駄な部分も注意して読んでしまいます。それで、結局あれは全く関係なかったとなれば、ちょっとした脱力感に襲われてしまいます。 ミステリには読者を惑わすためのレッド・へリングがつきものですが、それがたとえ作中では真相を隠すための無駄知識だったとしても、知識として実生活に活かすことができるようなものであれば、私は許せます。いや、生かせなくても構いません。なぜなら、「人間は無用な知識が増えることで快感を感じることができる唯一の動物」(※註)だからです(笑)。 ※註 アイザック・アシモフのお言葉です。フジテレビの人気番組『トリビアの泉』(水曜日21:00〜)でおなじみですね。 |