| ギリシア棺の謎 | |
| 原題:The Greek Coffin Mystery 作者:エラリー・クイーン(Ellery Queen) 訳者:井上勇(いのうえ・いさむ) 初刊:1932 出版:創元推理文庫 装丁:カバー 辰巳四郎 定価:760円+税 ISBN4−488−10408−8 |
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[あらすじ] ニューヨークの美術商の葬儀が行われたその日に故人の遺書が紛失した。大学を卒業したばかりの若き日のエラリーは遺書が棺の中にあるのではないかと推理し棺の捜索が行われるが、そこには遺書はなく、故人ともう一体別の死体があった。エラリーは真相を究明しようとするが狡猾な犯人に裏をかかれて苦渋をなめることになる。 二転三転する推理はやがて意外な真相と真犯人を明らかにする…。 〔Caution!! ネタばれ注意〕 日々はすぎ去り、それを引き止めることは、エラリーのちからではおよばなかった。一週間が過ぎ去った。そして、とび去る時間から、エラリーがかろうじてしぼりとりえたのは、数滴の苦渋にすぎず、精神の糧になるものはなに一つなく、どう考えてもビーカーはからっぽで、そのひからびた底を、エラリーは見守りながら、ますます不幸になっていった。 (22章「……どん底」p334より) 名作ぞろいの国名シリーズの中でも、私は本書『ギリシア棺の謎』が一番面白いと思います。 国名シリーズはエラリー・クイーンという主人公が最後の最後まで推理を展開しないのがラストを盛り上げる反面、いいかげんに解決しろよと言いたくなるときもあります(おそらく、読んでるときの気分によるのでしょうが)。その点、本書はエラリー・クイーンが若かりし頃という設定で血気盛んなので才気に任せて推理をしてしまい、犯人に裏をかかれてしまいます。続いて行われる父親リチャード警視の推理も一時は真相を見抜いたかと思われるものの、それを覆す証言がなされることによって否定されてしまいます。そうした魅力的な仮説が飛び交うというストーリー展開には535ページという長さを感じさせない面白さがあります。 犯人当て小説ということですから登場人物一覧表をじっくり見てみますと(邪道な!)、たくさんいますねぇ。え〜と、38人ですか、これは多い(笑)しかし、上述しましたように複数の推理が飛び交いますので登場人物・事実関係はそのときどきによって整理されるため、解決編では明快かつ論理的(あくまで"的"というのがポイントですが。分析的といった方が的確かもしれません)に、意外な真相が明らかにされます。 アイヨシが思うに、フーダニット小説における推理とは犯罪が行われた状況や捜査によって発見された証拠から犯人の条件を導き出した上で仮説を立て、それに該当する人物がいるかということを考えていく思考形式が王道だと思います。そして、エラリー・クイーンのミステリは王道の中の王道をいくものです。仮説を立てるための着想点が非常に独創的というか盲点・意表をついたもので、そこからあれよあれよと論理が展開されて犯人が明らかにされていきます。その一連の流れは見事としか言い様がありません。本書においても、結局は間違いであったことが判明する推理ですが、エラリーはお茶の飲み残しからもっともらしい推理を展開します。(『へ理屈と名推理は紙一重』Byアイヨシ) さらに、”意外な真相”と書きましたが、本書の真相は驚愕ものです。やられた!と思いました。明快さと意外さを兼ね備えた解決部分は読んでて爽快感があります。やはり、エラリー・クイーンは解決編が命です。 また、各章の見出しの頭文字を並べると、THE GREEK COFFIN MYSTERY BY ELLERY QUEENと、書名と作者名が浮かび上がる仕掛けなど作者の遊び心が感じられ、微笑ましい気分にさせられます。(ちなみに、似たような趣向は最近では加納朋子が『月曜日の水玉模様』(集英社文庫)で行っています。)それに、本書p12にあるゲオルグ・ハルキスの死亡記事はハッキリいって笑えます(この笑いは日本語版だからこそ、ですけれど)。 以上、いろいろと勝手なことを書いてきましたが、様々な点からみて本書は本格ミステリのお手本的名作といえるでしょう…が、アイヨシが本書を面白いと思ったのは、これらのありきたりな理由だけではないような気がします。それは、やはり本書が名探偵エラリー・クイーンのド派手な失敗譚だからでしょう(もっとも、結局は真犯人に勝利するのですが…。ただ、この作品以降もエラリーは結構失敗してます・笑)。 この失敗の果てに、エラリーは、「その犯罪のあらゆる要素をひとつ残さずつなぎ合わせ、あらゆる、あいまいな点が最後の一つまで説明できるまでは、決して解答を持ち出しませんよ」(p258)という誓いを立てます。これによって、以後何か新しい推理の啓示を受けても、最後の最後までなかなか明らかにしない、エラリーのもったいぶった推理のスタイルが確立したといえます(笑)。 そういうわけで、決して趣味の良い楽しみ方とは言えませんが、面白かったんですから仕方がありません(笑)。 |