ドルリイ・レーン最後の事件
原題:Drury Lane's Last Case
作者:エラリイ・クイーン(Ellery Queen)
訳者:宇野利泰
初刊:1933
装丁:カバーデザイン スタジオ・ギヴ
定価:583円+税

[あらすじ]
サム元警視の探偵事務所を訪ねてきた異様なひげを持つ奇怪な訪問者は、一通の封筒の保管を千ドルいう大金の報酬で依頼してきた。その頃、ブリタニック博物館でシェイクスピアの稀覯本すり替え事件が起きる。サムは名探偵にしてシェイクスピアに造詣の深い元名優ドルリイ・レーンに真相究明の調査を依頼するが、そんな中、殺人事件が発生する。ペイシェンスが辿り着いた驚愕の真相とは…。



 今回は、『ドルリイ・レーン最後の事件』のみならず、シリーズ前3作含めて、『ロス名義シリーズ』通してのネタバレです。未読の方はご注意を!

 『ロス名義シリーズ』最後の作品にして、ドルリイ・レーン最後の事件。前作、『Xの悲劇』、『Yの悲劇』、『Zの悲劇』は、全て本書のためにあったのです。
 この『ロス名義シリーズ』の犯人は、全てひとことで言ってしまうことができます。すなわち、『Xの悲劇』は車掌、『Yの悲劇』は子供、そして『Zの悲劇』は刑務所長です。
これらの真相だけ聞くと『何だそれは!』となってしまいますが、それを裏付ける論理の明確さ、伏線の巧妙さがこれら3作のポイントだということはそれらの作品を全て読破した方なら共感していただけると思います。そうした解決の見事さがあるからこそ、読後において意外な真相への衝撃と論理的カタルシスのハーモニーともいうべき至福のときを得られるのです。そして、それこそが作者であるクイーンの本領ともいえるでしょう。このことはクイーンの国名シリーズを始めとする他の作品についてもいえますが、なかでも本シリーズの『Xの悲劇』は名人芸と呼ぶにふさわしいものですし、『Yの悲劇』の堂々とした伏線も、意外な真相にロジックを与えています。
 本書は、そんなクイーンの作風からすると例外的ともいえる作品です。なぜなら、確かに本書でも解決の論理性に意を配った跡は感じられますが、読み終わった後にはそんなことは覚えていません。なぜなら、真相が意外で衝撃的なものだからです(当時のアイヨシにとっては)。すなわち、犯人は名探偵ドルリイ・レーン!まさに『ドルリイ・レーン最後の事件』です。

 ミステリを読むときの鉄則として登場人物全てを疑えというものがありますが、それは探偵をも疑えということですが、そのセオリーを生み出すことになったのはこの作品だったのです。本当に、お目にかかれて光栄です(笑)。こいつが諸悪の根源か!
 いや、この作品はこのオチを持っているというだけで、アイヨシの記憶にいつまでも刻み込まれることでしょう。この真相の前には、少々の論理の破綻など問題ではありません。やったもん勝ちです。シリーズの終局とともに探偵まで終局を迎えてしまう、まさにドルリイ・レーンに始まりドルリイ・レーンに終わるシリーズ・ミステリです。この真相を解決するための探偵役として、『Zの悲劇』でペイシェンス・サムという探偵が登場したのです。

 しかし、いくら真相が衝撃的で意外だからといっても、全然突拍子もないものでしたら読者は納得しません。それでは、本書の解決はどうかと言いますと、冷静に読むとクイーンらしくありません。新保博久の本書解説にもありますが、ペイシェンスたちがエールズ博士の正体になかなか気付かないとか、そもそもの事件の発端である封筒を預けたメリットが不明(本書解説p493以下参照)などなど残された疑問はありますが、この点はむしろこれで良いような気がします。せっかくこうしたショッキングなラストが用意されているのですから、『勢い』が生まれたらそれを大事にするべきでしょう。ただでさえ、本書の中盤ではろくに分からないシェイクスピアについての薀蓄を聞かされてうんざりなのですから…。あまりにシェイクスピアが出てくるので、本書のことを『Sの悲劇』と表現する人もいるくらいです(新保博久の『Zの悲劇』所収解説p410参照)。

 ですが、正直なところ、そういった解決の不足点は指摘されるまで気になりませんでした。何故でしょう?思うに、その理由の一つには上述してきた前作までの解決の見事さがあると思います。が、それに加えて『ロス名義シリーズ』で最も知名度の高い『Yの悲劇』のラストといいますか、レーンの選んだ解決方法が本書のラストを暗示させるものであるということも、読後感に大きく影響していると思います。『Yの悲劇』クラスの作品をシリーズ全体の位置付けとして伏線としてしまうという、アイデアを出し惜しみしない気前の良い構成は本当に贅沢です。やっぱり、ミステリは素晴らしい!ということで、長々と書いてきました『ロス名義シリーズ』についての書評を、これにて終えることにしましょう。


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