Zの悲劇
原題:The Tragedy of Z
作者:エラリイ・クイーン(Ellery Queen)
訳者:宇野利泰
初刊:1933
装丁:カバーデザイン スタジオ・ギヴ
定価:660円+税

[あらすじ]
 『Yの悲劇』から10年。ブルーノ検事は知事になり、サム警視は引退して私立探偵業を娘のペイシェンスと営んでいたが、依頼を受けた事件の関係者が何者かに殺害される事件が発生した。事件の容疑者として被害者に脅迫状を送っていた元囚人が逮捕された。しかし、サムとペイシェンスは別の真犯人の存在を確信し、ドルリイ・レーンに助けを求めて独自の捜査を進めていくが、元囚人に死刑の判決が下された…。



 本書は、『ロス名義シリーズ』の3作目ですが、はっきりいって評判のあまり良くない作品です。しかし、シリーズものなのですから、未読の方も毛嫌いせずに読んで下さい(笑)。

 で、アイヨシもそんなに面白いとは思いませんでした。理由は簡単で、本書の主人公であるペイシェンス・サムのキャラクターが鼻につくからです。『女装したエラリイ・クイーンのよう(探偵の方)』という評価がなされていますが(本書解説p408参照)、まさにそんな印象を受けました。(ミステリについてあまり詳しくない方のために説明しますと、エラリイ・クイーンは、そのペンネームと同名の『エラリイ・クイーン』という探偵を主人公とした作品をいくつも発表しています。)
 本来ならばP・D・ジェイムズの『女には向かない職業』(ハヤカワ文庫)で活躍するコーデリア・グレイに先んじて現代的な女性探偵が登場した作品として有名になってもおかしくないはずなのですが、そうではないのは、『女には向かない職業』があまりに傑作なのと、本書の出来(というよりペイシェンスのキャラクター)がイマイチだからでしょう。いくら謎解きが中心の本格ミステリといっても小説にはかわりがないので、あまりにキャラクターが気に入らないと面白みが薄れます。
 なぜ、そんなにペイシェンスのキャラクターが気になるのか?それは、前作『Xの悲劇』と『Yの悲劇』が三人称で書かれていたのに対して、本書『Zの悲劇』はペイシェンスが主人公であり、彼女の一人称で物語が語られているからです。つまり、主役の交替が行われているのです。でも、シリーズ通しての主人公はやっぱりドルリイ・レーンでしょう。本書でも、最後に謎を解決するのはレーンですし…。
 (※蛇足ですが、上述した『女には向かない職業』も主役は女性探偵コーデリア・グレイですが、実際にはP・D・ジェイムズのシリーズ作品の主役であるダルグリッシュ警視というキャラクターをコーデリアの眼を通して描いた物語であるという見方(瀬戸川猛資著、創元ライブラリ『夜明けの睡魔』p26以下参照)もあります。この見解によりますと、以上のような理由から、P・D・ジェイムズの作品といえば『女には向かない職業』が一番有名ではあるが、シリーズのダルグリッシュ警視シリーズの番外編的性格を持つことから、ダルグリッシュ警視ものをいくつか読んでから『女には向かない職業』を読むべきである、という結論が導き出されます。)

 しかし、シリーズのラストのことを考えると、主役の交替は絶対必要なのです。だから、仕方がありません。同じように、シリーズものなのに主人公が途中で変わるミステリに、森博嗣の『すべてがFになる』〜『有限と微小のパン』(講談社文庫/講談社ノベルズ)の『S&Mシリーズ』があります(『S&Mシリーズ』についてはフジモリの書評参照)。ただし、主役交替の理由は異なります(アイヨシは『S&Mシリーズ』の主役交替と知って、さては『ドルリイ・レーン最後の事件』と同じラストにする気か?と疑いました(笑い))。

 と、他の作品のことばかり書いてしまいました(笑)。本書については、『Xの悲劇』、『Yの悲劇』と比べて作風があまりに違うことから、製作過程におけるいくつかの推論が立てられています。『エラリイ・クイーン』がいとこの合作ペンネームであるということは既に説明しましたが、『Xの悲劇』・『Yの悲劇』と『Zの悲劇』は書き手が違うのではないか、『Zの悲劇』はもともと国名シリーズ(探偵エラリイ・クイーンの活躍するシリーズで、タイトルに国名が入っているのが特徴です)用に構想していたプロットを流用したのではないか、などなど…(詳しくは新保博久の本書解説参照)。こっちのほうがよっぽど楽しくてミステリです(笑)。

 そろそろ本当に本書の内容について触れますと、解決は(多少難がありますが。特に利き手、利き足の部分が。)論理的ですし、本書解説でも触れられていますが、タイムリミットサスペンス(無実らしい容疑者を死刑執行までに救わなければならないというストーリーのこと。)の先駆けでもあるのですが、その手の類では『幻の女』(ウィリアム・アイリッシュ著、ハヤカワ文庫)や『マダム・タッソーがお待ちかね』(ピーター・ラヴゼイ著、ハヤカワ文庫)といった作品が一級品です。
 しかし、本書のことを駄作や凡作などと言う気は全くありません。上記のように、楽しめる要素はありますし、謎解きだってクイーンらしさは出ています。
 まあ、『Xの悲劇』、『Yの悲劇』といった名作と、『ドルリイ・レーン最後の事件』という劇的なラストを迎える作品に囲まれたことを不運と思うしかないでしょう。例えれば、名曲ぞろいのアルバムの中に一曲変わったものが入っているという感じだと思います。


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