慟  哭
作者:貫井徳郎
出版:創元推理文庫
初刊:1993
装丁:カバーデザイン 岩郷重力+WONDER WORKZ
定価:720円+税

[あらすじ]
 警視庁捜査一課長の佐伯は連続する幼女誘拐事件の捜査指揮を担当するが、捜査は行き詰まりを見せ、冷徹にして有能な佐伯も窮地に陥る。
キャリアにして異例のスピードで昇進を遂げた佐伯を巡り警察内には嫉妬と反感の不協和音が生じる。そして、マスコミも彼の私生活に関心を寄せる。こうした状況の中で、連続少女誘拐事件は新たな局面を見せる。



 最初に断言しておきますが、本書はまさに本格ミステリです!本格にして傑作ミステリです。ですから、『私はミステリしか読まない』という方も、最初の文体で敬遠することなく、是非最後まで読んでみてください。そこには驚愕のエンディングと、心の奥底からの慟哭があります。

 なんでこんな断りを最初にいれたかといいますと、本書は本格ミステリなのですが、その文体、雰囲気はむしろ重ハードボイルドとでもいうような、重厚な作品に仕上がっています。
 実際、警察内部における組織の軋轢、カルト宗教の実態、現代家族の問題など、その緻密に書き込まれたディテールの描写はノンフィクションを思わせる出来ばえですし、佐伯課長の心理描写には引き込まれてしまいます。そして、幼女を次々と誘拐して殺していく男の心理…。本当に、ミステリにしてしまうのがもったいないストーリー展開です。
 それなのに、作者はミステリにしてしまい、しかもそれが大成功を収めています。例えればカツカレーといったところでしょうか。

 とにかく、ミステリ好きで日頃サプライズ・エンディングを求めているにもかかわらず本書を未読の方は、本書を無心で(無理でしょうけれど)読んでみて下さい。できれば、休むことなく一気に読むことをオススメします。

 以下、ネタばれです。未読の方はご注意を。

 くどいようですが、本書は本格ミステリです。
 『男子三日会わざれば刮目して見よ』とは三国志の英雄、呂蒙の言葉ですが、昨日の我は今日の我にあらず、です。ただし、通常、過去の自分と今の自分とはナイフでスパッと切れるようなものではありません。しかし、日常生活の中で時々、ある部分について『ここは切れたな』と思うときはあります(自他問わずに)。
 それが、あまりに大きなものを失ったとき、過去の自分と今の自分とが過剰に突然、ブチッと切れてしまうことがあるのではないでしょうか。その切れ目、断裂面が『慟哭』なのだと思います。
 本書のメイントリックは叙述トリックです。上述のように、本書はミステリ作品にせず時間軸どおりに叙述しても、立派に文学作品として通用するだけの内容・重厚さを備えています。(ちなみに、叙述トリックについて書かれた印象深いものに北村薫著、中公文庫『謎物語』p73以下所収『懺悔と叙述トリック』というものがあります。)
 しかし叙述トリックを仕掛けることにより、ラストの衝撃が感動・怒り・悲しさと相俟って、まさに『慟哭』といった読後感を得ることになります。仕掛けはシンプルですが効果は絶大です。

 実際、アイヨシも読んでてミステリだということはすっかり忘れていました。そして、ラストで受けた最大級の『驚き』は特筆ものです。本当にビックリ、意表をつかれてしまいました。ひっかかって悔いなしの本格ミステリです。


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