| 大誘拐 | |
| 作者:天藤真 出版:創元推理文庫 初刊:1978 装丁:イラスト 松尾かおる 定価:840円+税 |
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[あらすじ] スリ師戸波健次は、三度目の刑務所生活で決意する。もうムショはご免だ。社会復帰して自分の生活権をうち樹ててやる。しかし、そのためにはまとまった金がいる。どうする…。誘拐だ! 彼は雑居房で知り合った秋葉正義、三宅平太を仲間に誘拐計画を立てる。ターゲットは莫大な資産と絶大な人望のある老婦人、柳川とし。かくして、壮大な誘拐ミステリが幕を開ける!! 携帯電話の急速な普及によって、昔よくテレビのサスペンス刑事ドラマでよく見ていた逆探知もすっかり姿を消してしまいました。 そんな逆探知がよく出てくるミステリといえば、何といっても「誘拐もの」ですね。警察と犯人の電話のやり取りが終わった後、逆探知担当の警官が横に首を振るというのは誘拐ものの定番でしょう。ミステリといえば、一般的には殺人事件ですが、誘拐もかなりメジャーです。1番人気の殺人ミステリは、密室やクローズド・サークル(閉ざされた環境での殺人。よくあるのは雪山の屋敷。)など、論点の類型化が進んでいます。 誘拐ものも、類型化があります。というか、あったのですね。それを知ったのは、本書「大誘拐」です。この作品は、映画化やドラマ化もされているので有名です。で、この作中で、誘拐の困難な点として、以下のようなものが箇条書きされています(p115以下)。 1, 人質の誘拐それ自体の困難。 2, 人質の身柄を極秘に確保する場所と方法の困難。 3, 身代金を受領する方法(相手方の連絡方法を含んで)の困難。 4, 人質を解放したあとの安全の確保。 5, 仲間割れの防止。 6, 身代金の使い方。 言われてみればもっともですが、アイヨシはこういうのは初めて見ました。作者の苦心を知る上でとても参考になります。アイヨシは殺人ものが大好きですが、なかなかどうして、誘拐ものもあなどれません。そして、この「大誘拐」は、誘拐ものでもトップ・クラスの作品、名作中の名作でしょう。 殺人事件と異なり、誘拐ものは被害者がすぐには死にません。そのため、作中では名探偵、名犯人の他に、名被害者という役どころが殺人事件より登場しやすいです。この作品は被害者であるはずの「柳川とし」が犯人たちのリーダーとして警察と対決していくのですが、この、「柳川とし」というキャラクターが最高ですね。大富豪でおばあちゃんなんですけど、被害者のくせに自分で身代金をつり上げたりして被害者のくせに犯罪者を手玉にとって、ついには被害者と犯罪者が協力して警察と闘うことになります。 「なんで被害者が自分を誘拐した人間と手を組むのか?」と疑問に思った方は、本書を読むしかありません。「柳川とし」と誘拐犯とのウィットに富んだ会話は、被害者が犯罪の主導権を握るという奇妙な展開にテンポとユーモアを与えています。 名犯人と名被害者を見事に演じきって、なおかつオツリのでるキャラなんてそういません(作中では、「獅子の風格と、狐の抜け目のなさと、奇妙なことだがそれにパンダの親しさと、兼ね備えた人格」と評されています)。 ストーリーもテンポよく展開されるので、サスペンス作品としても一級です。また、警察との連絡方法や、被害者の無事を警察と家族に確認させる方法など、ミステリとしても最高です。 そんな大誘拐劇はマスコミを狂乱させ警察を翻弄し、さらには自衛隊やアメリカ軍まで巻き込むことになります。そのストーリー展開の見事さ、スケールの大きさはまさに圧巻です。 また、スケールの大きな犯罪(身代金要求額が100億円!運ぶだけでも大変。)であるにもかかわらず、細かいところにも配慮がなされているのもうれしいです。とくに、p294以下の首相と沼袋議員の国会答弁はこの話に現実味を与えるので、ますますストーリーにのめり込むことができます。 とにかく傑作にして快作、痛快にして爽快な誘拐ミステリです。 |