かめくん
作者:北野勇作
出版:徳間デュアル文庫
初刊:2001
装丁:イラスト 前田真宏
定価:648円+税

帯より:「脱力&極楽小説―ぼくもこれで癒されました」…。

[あらすじ]
 かめくんは、本物のかめではなく、かめに似せて開発されたカメ型ヒューマノイド・レプリカメで、かめくんもそのことを知っています。
 レプリカメは、本来は「木星戦争」に投入されるために開発されたものですが、かめくんは勤めていた会社を解雇されたので、クラゲ荘に住むことになります…。



 それにしても「かめくん」って…。
 「かめくん」なんてタイトルを見ると力が抜けてしまいます。
 目次を見ても、

第一章  模造亀(レプリカメ)
第二章  機械亀(メカメ)
第三章  亀記憶(カメモリー)
第四章  亀手紙(カメール)

 ですからねぇ…。
 おまけに、主人公(亀?)であるかめくんがとぼけたキャラで、読んでて頭がフニャフニャしてきます。
 かめくんはロボットなので、当然ですが物の見方が人間とは違います。ですから、例えば女性の裸を見てもかめくんはなんとも思いません(そもそも、かめくんに性別があるのでしょうか?)。かめくんは優秀なロボットです。クレーンを自由に操作して働いています。
 それに、ノラ猫を飼って肉球をプニプニ押してみたり、リンゴが好きでシャリシャリ食べたりしています。
 …癒されるのも何となく分かります。
 しかし、アイヨシは本書が癒しの物語だとは思いませんでした。というか思えません。これは本格SFです。

 かめくんは自分がかめくんであることを知っています。自分が考えていることは人間によってプログラムされたものだということを知っているということです。
 かめくんは、世界は大きな甲羅のようなものではないかと考えます。それは神話の世界を連想させますが、それとは少し違います。世界はもともと小さな六角形からできていて、それが集積して今のかたちになったのだから、小さな六角形は過去の世界なのです。そしてかめくんは、自分はその六角形のどれかなのだと考えます。
 野暮なようですが、かめくんのこうした考え方は、「模造世界」(ダニエル・F・ガロイ著、創元SF文庫)に代表される、『虚構の現実と高次の世界の存在』というテーマが浮かび上がってきます(ああ、癒しの物語なのに…)。

 かめくんの記憶、カメモリーはかめくんの背負っている甲羅に集積されます。そして、甲羅は着脱可能です。だから、かめくんはかめくんなのですが、かめくんではないかもしれません。しかし、かめくんにとってかめくんはかめくんなのです。非常に哲学的です。哲学するかめです。
 そういえば、『私はだれ?』というのが、「ソフィーの世界」(ヨースタイン・ゴルテル著、NHK出版)のおかげで一時期有名になりましたが、一つの答えとして、「そんな質問はナンセンスだ」というものがあります(土屋賢二著「人間は笑う葦である」文藝春秋p206以下参照)。それによれば、かめくんとして生きているかめくんは正道を歩いていると言えるでしょう。

 かめくんは『木星戦争』に投入されるため開発されました。しかし、『木星戦争』が何なのか、かめくんには分かりません。最初に『木星戦争』があって、それを模したゲームができて、そのうち主客が逆転して、ゲームのために戦争が行われるようになったのか…。
 『木星戦争』は現実に行われているのだろうか?かめくんは倉庫で働いているから、今は『木星戦争』は行われていないのだろうか?とにかく、かめくんはかめくんとして働いています。終わったと思ったら始まり、始まったと思ったら終わる『木星戦争』…。

 歴史は繰り返し、かめくんも繰り返す…。しかし、かめくんにとってかめくんはかめくんであり、かめくんの世界はかめくんの世界です。

 本書の(物理的には)最後の方で、かめくんは種子島に招集されます。かめくんは身の回りを整理して旅立ちますが、その前にワープロに文章を打ちます。その最初の一行は、

第一章 模造亀

 物語は連環します。しかし、かめくんは断固としてかめくんです。この、"ワープロに文章を残す"という行為にはそういう意味があると思います。それは、何となくぼんやりしているようで、つかみどころがないかめくんの、意志の発現だと思います。"小説が書かれ読まれるのは、人生がただ一度であることへの抗議からだと思います"とは北村薫の言葉(北村薫著、単行本「空飛ぶ馬」東京創元社の著者の言葉より)です。
 つまり、かめくんにとってかめくんはかめくんなのです。

 以上、脱力&極楽小説に対して、ともすれば余計とも思える解説を加えてみました。しかしアイヨシも、最初は適当に肩の力を抜いて、「変な小説だなあ」とか思いながら楽しく読ませていただきました。それが正しい読み方だと思います。
 ただ、人より理屈っぽいと自覚しているアイヨシの悪癖が、このような理屈を添えてみたくなった次第です。

 いずれにしても、アイヨシが何を言おうと、かめくんにとってかめくんはかめくんですから。それにしても「かめくん」って…(最初に戻る)。


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