| ジョニーは戦場へ行った | |
| 原題:Johnny Got His Gun 作者:ドルトン・トランボ(Dalton Trumbo) 訳者:信太英男 初刊:1939 出版:角川文庫クラシックス 装丁:カバー 佐々木悟郎 定価:460円+税 |
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[あらすじ] 戦場で砲弾によって瀕死の重傷を負い目、鼻、口、耳をそぎとられた。そして、壊死した両腕、両脚を切断されて病院のベッドに横たわっていた。感覚を失った彼は狂気に陥ることもできずに過去の思い出と想像に想いをめぐらせている。 やがて、彼は残された感覚―触覚―を頼りに時間の流れを知り、そして首を動かすことによってモールス信号を発信して『外部』との接触を図る。額を押さえつけられ、麻酔薬を注射されながらも彼は頭をベッドに打ち続ける…。長い月日を経て、彼の意図に気付いた者が現われる。そして彼にモールス信号が送られる。「WHAT DO YOU WANT?―なにがほしいか?―」 彼の望みは…。 本書の『あとがき』によれば、原書の初版本には次のような『まえがき』があったということなので、少し長いですがここに引用しておきます。 本書は悪夢のような政治史をもっている。パシフィズム(平和主義論)がアメリカ左翼団体の主流となった一九三八年に脱稿し、一九三九年春印刷所に渡り、同年九月三日に刊行された。その十日前独ソ不可侵条約の調印がなされた。そして第二次世界大戦は本書の刊行される二日前に勃発したのである。すなわち本書は第二次世界大戦勃発直前に、第一次世界大戦について書かれた、アメリカでは最後の作品である。 その後連載版権はニューヨーク市『ザ・デイリー・ワーカー』に渡り、その数か月後には、左翼の示威運動の旗印となった。軍検閲について述べたポール・ブランシャードの、一九五五年に出版された『読書の権利』によると、「発禁本や発禁雑誌のなかに、独ソ不可侵条約が締結されたころに出版された、反戦小説『ジョニー』がある」としるされている。一九四五年、私は激戦さなかの沖縄へコピーをおくった。交戦がはげしくなるにつれて本書はついに絶版となった。本書はようやく同年以後、二版、三版を重ねたが、朝鮮戦争当時にはまたも絶版となった。戦時中に禁書となり、戦後出版できるということは、私にとって喜ぶべきことではない。 確かに、作者にとって戦時中に発禁となったことは無念極まりないでしょうが、作品の名誉としてこれ以上のものはないでしょう。時の政府公認の、最高の反戦小説といえるでしょう。 目、口、鼻、耳がなく、両腕、両脚がない。もし自分がこんな状況下におかれたとしたら、おそらく発狂するでしょう。それでこの小説は終わりになります。しかし、人生ままならないものですから、不幸にも発狂できないかもしれません。そうなったら、このシチュエーションは地獄です。 そして、本書の主人公ジョニーは、まさに地獄の中にいるわけです。物語の前半では、彼には行動はありません。考えることしかできません。その意識の流れのみを扱った文章は、涙よりも吐き気を覚えました。何度読むのをやめようかと思ったことか…。想像を絶する状況にもかかわらず、そこには現実感があります。だから不快なのです。 「彼は鼻を撃ち落とされていたのでまだ幸運といえた。寝たまま、腐って行く自分の身体のにおいをかぐのはやりきれない。」 (本書p106より。) 非情な文章です。 彼の思念は過去と未来を錯綜します。狂気と正気の境をさまよいつつも、作者は彼に狂うことを許しません。 何でもない過去の出来事、酒と女、普通の暮らし。悲惨な戦場…もう書く気がしません。この辺りは本当にキツイです。読み飛ばしては読み返すというのを繰り返しました。こんな過酷な状況におかれた主人公は他にはないと思います。無情に時は流れていきます。 彼は生者ではありません。他者との接触が図れないのですから。考える心を持った死者です。彼は死者として生者に訴えます。なぜ生きていく権利のために喜んで死んでいかなければならないのか?いちばん大切なのは生命なのだ…。 物語の後半では、彼は自らの触覚を最大限に生かして時間の流れを知り、外界との接点を持つことに成功します。日の光を感じて一日を知り、振動によって看護婦の歩幅を測り、自分の病室の広さを感じます。 そして、モールス信号によって他者とのコミュニケーションをとろうとします。長い苦労の末、彼は他者との接触に成功します。彼は生者になったのです。何者かは彼の額をトントン叩きます―なにがほしいか?― ジョニーの思考は奔流となって彼の頭を駆け巡り、混乱し、やがて一つの願いとなります。 その願いが何なのかは、ここでは書きません。本当に感動的で残酷なラストです。 紹介しておきながらこんなことを言うのも可笑しい気もしますが、恐ろしい小説です。素晴らしい小説であることは保証しますが、覚悟がいることも保証しておきます。 |