予告殺人
原題:A MURDER IS ANNOUNCED
作者:アガサ・クリスティ(Agatha Christie)
訳者:田村隆一
初刊:1950
出版:ハヤカワ文庫
装丁:カバー 真鍋博
定価:760円+税

 ある地方紙に「殺人お知らせ申し上げます」との広告が掲載されたため、近所の住民が何かのイタズラだと思って集まったところ、実際に殺人事件が発生するという、クリスティらしさが存分に味わえるミステリです。

 この物語で活躍する探偵は、ミステリを少しでも読んでいる人にはお馴染みのミス・マープルです。彼女については、よく「おしゃべりで、せんさく好きな老嬢」といったような紹介がされますが、それだけではただのオバチャンです。人の心を動かす上品さと親しみやすさを兼ね備えた人物でもあるのです。作者であるクリスティ女史自身が語っている次のような文章があるので、ここに紹介しておきましょう。

「ミス・マープルはわたし自身の祖母にどこかしら似ているのです。わたしの祖母もやはり桜色の頬をした、色白の、感じのいい老婦人でした。世の中からひきこもって、ヴィクトリア朝風の生活を送っていたくせに、このおばあさんは人間の邪悪を底の底まで知りぬいているかのように思われたものでした。『でも、おまえ、あの人たちの言ったことを信じてしまったんでしょう。それがいけないんですよ。あたしなら信じませんとも』と、こうとがめるように祖母に言われると、みんな、まるで、こちらがだまされやすい、世間知らずの愚かもののような気持ちがしたものです。」(創元推理文庫「ミス・マープルと13の謎」著者の言葉より)

 本作品は、通常ではあり得ないような遺言が悲劇を呼ぶことになるのですが、そんな現実性のなさもクリスティのいいところですね(笑)。
 また、くせのある登場人物を駆使しての物語の展開や、特に物語の真相解決部分での生き生きとした人物描写、二転三転する真相など、クリスティの作品の中でも最高水準に位置する作品といえるでしょう。

 (以下、軽めのネタバレです。未読の方はご注意ください。)

 ところで、ミステリというのはときに微妙な語句の違いが伏線になっていたりします。そのため、読者としては、通常の小説であれば「誤植か?」と思うようなことがあっても、「伏線だな(ニヤッ)」と、むしろ歓迎して読み進めてしまうものです。その結果が、伏線であればよいのですが、本当にただの誤植だった場合には目もあてられません。ストレスがたまるでしょう。
 誤植の例としてアイヨシが知っているものに、折原一の「沈黙の教室」と「暗闇の教室」(ともに早川書房。ただし、前者は文庫も出ています。)があります。両者ともに登場人物の名前の誤植です。
 もっとも、「暗闇の教室」は、第3刷以降のものは訂正されています。
 そして、「沈黙の教室」には生徒の名簿表が何回か現れますが、小金井(轟)由起子の名が2度目の表では由紀子になっています。単行本(1994)でも文庫(1997)でも同じです。こちらは訂正されていません。
 以上の情報はアイヨシがヤフーの掲示板を利用して入手しました。情報を提供してくださったLeftfanさん、ありがとうございます。
 で、「何で誤植の話なんかするのか?」と思う人は是非読んでみて下さい。誤解のないように付言しておきますが、別に本作品に誤植があるということを言ってるわけではありません。多分ないですが、断言はできません。しかし、少なくともミステリとしての楽しみを阻害するような誤植はありません。

 とにかく、クリスティ作品の中でも最高峰のものとして、強くオススメします。

※補足
  『予告殺人』の誤植についてですが、『北村薫の本格ミステリ・ライブラリー』(北村薫・編 角川文庫)p165以下で、北村薫、有栖川有栖と田中潤司の対談が収録されています。その中に、田中潤司が文庫版の『予告殺人』において何年か前の版までは翻訳に誤植があったのに気付いて編集部に何度も電話をして、現在の版では修正されているというエピソードが書かれています(具体的に何版から大丈夫なのかは分かりませんが…)。やはり気にする人はいたんですねぇ。アイヨシとしてもうれしい限りです(笑)。
 ですから、最近本書を買われた方は、誤植については何の心配をすることなく読んで大丈夫だと思います。


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