| キリンヤガ | |
| 原題:KIRINYAGA 作者:マイク・レズニック 訳者:内田昌之 出版:ハヤカワ文庫 初刊:1999 装丁:カバー 田口順子 定価:820円+税 |
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注: 今回は徹底的なネタバレですが、SF作品なので、あまり問題はないと思います。 [背表紙から引用したあらすじ] 絶滅に瀕したアフリカの種族、キクユ族のために設立されたユートピア小惑星、キリンヤガ。楽園の純潔を護る使命をひとり背負う祈祷師、コリバは今日も孤独な闘いを強いられる…。 以上のようなあらすじを読むと聞こえがいいですが、この作品の主人公である祈祷師コリバのやろうとしていることは無謀で、矛盾したものです。 種族の純潔といったところで、生物学的純血を意味しているわけではなく、生活様式・伝統の純潔です。同じキクユの血を引く者であっても、ヨーロッパ様式にかぶれた者はキクユ族とはされません。 しかし、キクユのユートピアは〈保全局〉の保護のもとに成り立つ純潔であって、作中でも、コリバはコンピューターを通じて気候をコントロールすることによって住民に「呪い」をかけ、自己の言い分を通そうとします。 また、キクユの伝統を守るために新しい発明・発見をヨーロッパ人のものだとして否定し、考えることを否定します。 なかでも、子供は悲惨です。この作品はオムニバス長編なのですが、第3話「空にふれた少女」の主人公ともいうべき少女カマリが残した詩、 "籠の鳥が死ぬわけを知っています―鳥たちと同じように、あたしも空にふれたから" を読んだときには、久しぶりに作中の登場人物に怒りを覚えました。 また、コリバが自らの後継者として手塩にかけて育てていた、コリバの最大の理解者であった少年ンデミも、コリバに師事することによって知識は得たのですが、その結果コリバの考えに疑問を持ち、ユートピアに別れを告げて外の世界に旅立つことになります。 民族の純潔とやらを守った結果が、こうした少年少女の存在を否定してしまうのであれば、そんなものには何の価値もないと思います。途絶えて結構。 そんなアイヨシの思惑どおり、キリンヤガは外の世界の文明を少しずつ受け入れていき、種族の純潔のユートピアは崩壊し、最後にはコリバがユートピアを出て行くことになります。 こんな風に書いてしまうと単純な物語のようですが、全然違います。 アイヨシはコリバが大嫌いです。しかし、作品を読んでいるときに、気がつくとコリバを少し応援してしまっている自分がいることに気づいたりします。コリバのやったことを少し抽象化し、「自分の常識を押し付けて子供の才能をつぶす」と考えれば、思い当たる節はあります。自分では若い人の意見を聞く姿勢を持っているつもりでいながら、譲れない一線はあります。それ自体が悪いことだとは思いませんが…。 また、コリバは気象のコントロールによってのみ住民を支配しているわけではなく、子供たちには寓話(昔話)を語ることによってキクユの伝統を伝えていきます。そうした寓話も物語が後半になるにつれて効力が薄れていきますが、寓話の効力を否定することは、今現在、本を読むことに何らかの価値があると思っている自分自身を否定することになってしまうのではないか…。 それに、「温故知新」という言葉もありますが、過去の歴史・伝統にも学ぶべきことはたくさんあるはずなのです。 また、アイヨシは無神論者なので、「キクユの神ンガイ」と聞いても「ふーん」ってな感じで、「ヨーロッパ人の神がンガイを打ち負かした」と聞いてもナンセンスだなと思うだけですが、何らかの宗教を持っている人にとっては考えさせられるものがあるのではないでしょうか。 加えて、ンガイの言葉=祈祷師コリバの言葉であって、それがキクユの法律であるというのがコリバの理想です。そして、キリンヤガがコリバにとってユートピアであったときは、ンガイの言葉=コリバの言葉=キクユの法だったわけですが、コリバの言葉≠キクユの法となったときのンガイの扱われ方が上のようなものだった考えると、国家や法の存在意義について考えてしまいます。 つまり、コリバは全否定すべき存在ではないのです。もっといえば、無意識のうちに自らがコリバのような存在になっていることも考えられるわけです。いや、そういう部分を持っていることは否定できません。…こんなことを考えるようになるとは…私も歳をとったんだなあ、と思わずにはいられません。 それに、コリバは確固たる意志を持って種族の純潔を守ろうとします。そこには認めざるを得ない個性があります。決して長いものにまかれようとはしません。人生に対するそうした姿勢は大好きなんですよねぇ…。人は人、自分は自分。でも、そうすることが他人に干渉することになることもあるわけですから、視野は広く持ちたいですね。 今回は書評というよりは感想っぽくなってしまいましたが、アイヨシはその辺のことは深く考えないようにしていますので、気にしないで下さい。 そして、この作品に対する感想をまとめますと、感動というよりは、いろいろ考えさせられた作品でした。民族・文明・伝統・宗教・教育…そんな色々なことについての思考が頭の中で暴走・疾走するような感覚を味わえた本でした。 |