| 幻色江戸ごよみ | |
| 作者:宮部みゆき 出版:新潮文庫 初刊:1998 装丁:カバー装画 藤田新策 定価:552円+税 |
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江戸時代を題材にした時代小説短編集です。 この短編集は12編の短編集です。短編集といえば実験的な作品やイロモノが含まれていたりして、全編すべてお奨めというわけにはいかないのが通常ですが、この短編集は違います。全てが高品質の短編集です。 江戸の下町を舞台に、こよみの名のごとく四季折々にくり広げられる、悲しくも心温まる話や怪異話の数々。だいたい、作者が宮部みゆきであるという時点で作品の面白さを紹介する必要などない気もしますが、あえて感動の押し付けをさせていただきます。 「第一話 鬼子母火」 謎を怪異という形にして受け入れていくことで、亡くなった母親を想う少女の悲しみを癒す、昔の知恵の素晴らしさを感じさせる物語です。迷信というものの中にはこのような生まれ方をしたものもあるのでしょう。 「第二話 紅の玉」 水野忠邦の「奢侈取り締まり」、簡単にいえば「ぜいたく禁止令」の治世で生きる飾り職人が陥った悲しい物語です。そこはかとなく、現代の景気を想起してしまいます。自分が正義であると思い込むこと、正義を他人に押し付けることの危うさを感じさせられます。 「第三話 春花秋燈」 古道具屋のおやじがまことしやかに語る二つの奇妙な行灯の話。どちらかといえば悲しい物語が多い本短編集ですが、こういう軽妙な話が間に入ることによって短編集全体が一冊の本として引き締まりますね。また、おやじの軽快な語り口調は時代小説ならではのものです。 「第四話 器量のぞみ」 生まれつきどうすることもできない人の外見に対する人間のこだわりをテーマにした、悲しくもどこか楽しい物語。その原因は予定調和的なラストです。もっと悲惨な話にすることもできる秀逸なアイデアなのですが、あえて予想可能なハッピーエンドにして、満足できる内容に仕上げるのは、さすが宮部みゆきといったところです。 「第五話 庄助の夜着」 本短編集においてアイヨシがベスト1に挙げる作品です。庄助が姿を消した原因は果たして…。結末を決めるのは読者。悲しく切ないリドル・ストーリーです。 「第六話 まひごのしるべ」 子を失った母親の悲哀の物語。「いっそあきらめてしまえば、はるかに楽かもしれないのに、希望がそれを許さないのだ。希望は強いものであり、また残酷なものでもある。」(本書p166)という文章が印象的です。 「第七話 だるま猫」 本短編集一の怪奇もの。火消しを目指すも火への恐怖を克服できない若者が手に入れた猫頭巾。半瞬先を見ることのできる魔法の頭巾は恐ろしい副作用を持っていた。絶望的な恐怖は、しかし、若者の未来を切り開く…多分。 「第八話 小袖の手」 母親が娘に語る恐ろしい小袖の話は、子供の頃に自分がおっかなびっくりしながら怖い話を聞いていた昔を思い起こさせます。「第3話 春花秋燈」と同じく、時代小説ならではの語り口調が楽しめます。 「第九話 首吊り御本尊」 奉公に耐えかねて首をくくろうと土蔵に行ったら、そこには笑いながら足をぶらぶらさせて、首を吊っている男がいました。男は笑いながら言います。『ここはもういっぱいだよ』と。今までの怪異物とうってかわってユーモラスな、ほのぼのした怪異物です。 「第十話 神無月」 年に一度、神無月の夜に病弱な娘のために盗みを働く畳職人と、それを追う岡っ引きの二つの視点から描かれる物語です。神様が留守の月を選んで盗みを働いている男が、神に見放された運命を辿るのか?内と外の視点が交わることなく物語は終局を迎えます。読後に残る悲しい余韻は、作者の冷静な筆致のなせる技です。 「第十一話 詫助の花」 嘘と真、正気と狂気、美と醜。幾多の相反するものが相克する、怪異なしの、しかし怖い短編です。作中の登場人物が胸の中でつぶやく、「何とも言いようがない」が、アイヨシの感想です。 「第十二話 紙吹雪」 短編集の最後を飾るのは真っ白な紙吹雪。独立した短編でありながら、一つの短編集としてのラスト・シーンとしての演出が心にくいですね。 以上、全12編をだらだらと解説してきましたが、全作品に共通することは、全ての作品が江戸の下町に生きる庶民の物語だということです。そんなデリケートな素材を、実に暖かく、悲しく仕上げる作者の手法はまさに職人技です。 テンポの良い時代小説で、怪奇小説ありサスペンス小説あり。哀切と人情に満ちたぜいたくな短編集です。 |