| 名探偵の掟 | |
| 作者:東野圭吾 出版:講談社文庫 初刊:1999 装丁:デザイン 菊地信義 定価:590円+税 |
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注: いつものとおりネタバレしてますが、今回は未読の方が読んでも大丈夫だと思います。なぜなら、ネタがばれてからこの物語は本領を発揮するからです。 世にミステリーやら推理小説、あるいはミステリや探偵小説といった、いわゆる謎解き小説(以下の文章では、それらを総称して「ミステリ」と呼びます。)が氾濫している現在において、ミステリの基本をおさえるためには本書はまさに最良の本であるといえるでしょう。例えば、目次を一部抜粋してみますと、 第一章 密室宣言 トリックの王様 第二章 意外な犯人 フーダニット 第三章 屋敷を孤立させる理由 閉ざされた空間 第四章 最後の一言 ダイイングメッセージ 以下、第十二章まで続き、その後エピローグ、最終章の「最後の選択―名探偵のその後」まで続きますが、各章とも、ミステリの典型例が題材となっています。しかも、笑えます。 ちなみに、本書の目次は探偵小説の権威として知られる江戸川乱歩の、教養文庫出版のトリック解説集「新版 探偵小説の『謎』」(社会思想社の倒産により絶版)の目次によく似ています。こうしたことからも、本書の解説集としての一面を窺い知ることができます。もっとも、中身については、乱歩が丁寧かつ真面目に、ときにはユーモアを交えという感じでトリックについて解説をしているのに対し、本書はユーモアの中に、盲目的にお約束に追従する作家・読者双方への皮肉や、トリックの解説がなされているという感じなので全然違いますが、笑える分、面白さでは本書の方が上でしょう。 このように本書は、ミステリ界に存在する典型、いわゆるお約束、例えば「密室」や「時刻表トリック」、「ダイイングメッセージ」といったものを、愛情たっぷりにおちょくったもので、さらに、そのおちょくる過程そのものがミステリとなっている、まさに一粒で二度おいしい本です。 物語は、名探偵・天下一大五郎とボンクラ警部・大河原番三(この設定もお約束ですね)が、露骨なまでにミステリのお約束どおりに起こる犯罪を次々に解決していくというものです。中には解決しないものや、強引に解決されるものもありますが…。 また、この登場人物は物語の中で与えられた役割(上述の「名探偵」や「ボンクラ警部」)を忠実に果たしながら、ときどき物語世界を抜け出して冷めた視点で物語をながめたり、裏話を始めたりするのですが、それがいちいち納得できて楽しいのです。 例えば、大河原警部の語りで次のような文章があります(本書第5章「アリバイ宣言」p117以下より)。 『アリバイ崩しもの』の天敵ともいえるのが「共犯者の存在」だ。最も怪しい人物に完璧なアリバイがあるのなら、まずこれを疑うのが筋なのである。ところが共犯者がいないことを証明するのは、それほど簡単なことではない。探しても見当たらないからといって、共犯者の存在を否定する警察なんて、この世のどこにも存在しないであろう。とはいえこういうタイプの小説で、いつまでもその点に拘っていては話が進まないし、読者だっていらいらする。そんなときには「刑事の直感」という得体の知れないものを出してくるのが一番手っ取りばやいのだ。 このような、ミステリ界のお約束の原理を解明した上で、なおかつ各章ごとにそのお約束の原理にのっとった意外な結末が用意されているのですから、ミステリファンを名乗る以上は是非とも読んでおかなければならない一冊といえるでしょう。 |