| 秋の花 |
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| 作者:北村薫(きたむら・かおる) 出版:創元推理文庫 初刊:1997 装丁:イラスト 高野文子 デザイン 小倉敏夫 定価:480円+税 ISBN4−488−41303−X |
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[あらすじ] 仲の良かった幼なじみの二人。しかし、一人は文化祭の準備中に学校の屋上から墜落死する。悲嘆にくれる親友の身を案じ、二人の先輩である「私」は事件の真相をつかもうとするが…。 ネタばれです。しかも、法律の条文を引用するという興ざめなものです。未読の方は読まないで下さい(既読の方でも、推理小説を法律に当てはめるというのは興ざめかもしれません)。また、この本は「円紫師匠と私」シリーズの3作目なので、これから読もうとされる方は、是非第1作の「空飛ぶ馬」(創元推理文庫)から読むことを半強制的に推奨します。 「円紫師匠と私」シリーズは1,2作目までは人の死なないミステリとして知られていました。しょーもない要約をすれば、日常の中の小さな謎の中にある大きな感動といったところでしょうか。私は「赤頭巾」(「空飛ぶ馬」所収)と「朧夜の底」(「夜の蝉」所収)が好きです。 さて、3作目の「秋の花」はそんな「円紫師匠と私」シリーズ初の長編であり、また、初めて人が死んだ作品です。 邪道な読み方をすれば(私は邪道を歩みました)、真相は意外ではありません。ゲストキャラが2人で、そのうち1人が死ぬのですから、消去法で犯人が浮かび上がってしまいます(くどいようですが、この書評は作品を読んでない人間にとっては最悪です)。 ただし、真相は事故というより過失致死です。殺人ではありません。その過失行為が暴かれる論理の過程、すなわち鉄パイプのチャンバラと法被の謎の説明はさすがです。さすが「本格原理主義者」(この言葉については同氏の作品で角川文庫「覆面作家は二人いる」の宮部みゆきの解説や、集英社文庫から出ている綾辻行人の対談集「セッション」を参照のこと)といったところです。 しかし、本作は謎解きの物語では終わりません。上述した謎があまりに見事で、パズルのようであるからこそ、その後に残された課題の大きさが心にのしかかってきます。 誤って親友を殺してしまったら、その人間はどうしたらよいのでしょう?司法に身を委ねて警察に自首しますか?そうするとこうなります。 刑法第210条(過失致死) 過失により人を死亡させた者は、五十万円以下の罰金に処する。 軽いですね。軽すぎます。 では、お金で解決しますか?さて、いくら払いましょう。いくら払えますか?一体どうやって、誰に許しを乞えばよいのでしょう。 もし、自分の子供がその子の親友に、事故だったとはいえ殺されてしまったら、どうします?家に来て我が子と楽しく遊んでいたその子を、許しますか?許せますか?地獄のような責め苦を味あわせますか?でも、どうやって?殺しますか? 本作品中では、物語の節々で日常に潜む落とし穴が暗示されます。また、過ちを犯さない人間、完璧な人間などいません。もしかしたら人を殺し得る自分。この作品は、人は無限の可能性を持っているのだという、当たり前のことを思い知らせてくれました。 …これで終わりでは暗すぎますね。まぁ、こういう場合もあるということで許して下さい。でも、素晴らしい本(というよりシリーズ)です。この書評では暗い面のみが際立ってしまいましたが、明るい面もちゃんとあります。作品中に登場する「本」について、博覧強記で知られる作者の思い入れや落語の解釈、おなじみのメンバーの楽しい会話などなど。でも、この書評は暗いですね。偏った書評ですいません。次は、笑える本について書くことにしましょう。 ちなみに、シリーズ第四作の『六の宮の姫君』もやはり長編小説です。主人公の「私」が出版社でのアルバイトを経験しつつ、卒論のテーマとして芥川龍之介を選択して、円紫師匠の助けを得ながら独自の視点で掘り下げていくというストーリーです。 芥川龍之介やその作品について作中で論じられている記述は、著者自身の卒論が下敷きになっているそうですが、法学部出身のアイヨシにとってはとても厳しい内容となっております(汗)。 なお、シリーズ五作目『朝霧』のフジモリの書評はこちら。 [補足] なお、たくさんの文学作品を読んでいる「私」ですが、これだけミステリ的で不思議な事件に数多く遭遇しているにもかかわらず、ミステリを読んでいる描写が一切ありません。 この点について、著者によりますと、作中でミステリ作品について描写しちゃうとリアリティが失われる・醒めちゃうので、あえてそういう描写はしていないということです。ただし、よく読むとミステリのタイトルをもじったような記述も散見される(そして、このシリーズは「私」の一人称で語られている)ことから、読んでないことはない、ということでした。 (2005年8月9日、ジュンク堂池袋本店での北村薫氏のトークセッションに際してお客さんからの上記の質問に対しての著者自身のご回答。その場にいれたアイヨシはとてもラッキーでした・笑)。 |