フジモリの脳内ラビリンス

〜a labyrinth in fujimori's brain〜

Onehundred-Thirty-fifth bookshelf
城平京『スパイラル 鋼鉄番長の密室』






「じゃあ開けようか。鋼鉄番長の密室を」


フジモリ 「今回取り上げる本は城平京『スパイラル 鋼鉄番長の密室』です」

舞奈 「平城京エイリアン!」

フジモリ 「しょっぱなからワケわかんないよ!確かに平城京と城平京って文字似てるけど、全然違うって!」

舞奈 「まあ、この本もそうだけど古き良き時代に思いを馳せるのは大事よね」

フジモリ 「内容説明してないのにまとめに入っちゃったよ!」

舞奈 「ふふん」

フジモリ 「ふふんじゃないって。ぐだぐだになりそうなんで、とりあえず進めるよ。この本は、城平京・原作、水野栄多・画の漫画、『スパイラル〜推理の絆〜』のノベライズだ。『スパイラル』のノベライズは全4巻あるけど、『鋼鉄番長の密室』はその2作目にあたる」

舞奈 「なんで2作目を書評するの?1作目から書評すればいいじゃないの」

フジモリ 「ま、まあ、いろいろと大人の事情があるのですよ(しどろもどろ)」

舞奈 「なるほど、それを私が推理するわけね!まさに推理の絆!」

フジモリ 「違うって!いいかげん勢いだけで物事言うのやめい!」

舞奈 「ちぇー。…んで、『スパイラル』ってどういう話なんだっけ?」

フジモリ 「『スパイラル 〜推理の絆〜』は、漫画は月刊少年ガンガンで平成11年9月号(1999年8月)から平成17年11月号(2005年10月)まで連載された推理漫画だ。
未読の方むけに簡単に説明すると、抜群の推理力を持つ主人公・鳴海歩が失踪した兄の行方を捜しながら大きな陰謀に巻き込まれる、という物語なんだ」

舞奈 「えーっと、確か、最初は密室殺人や不可能犯罪に対して主人公が推理で解決する本格的なミステリー漫画だったけど、連載が進むにつれバトルがメインになっていったわよね」

フジモリ 「そうだね。しかしこの「バトル漫画へのシフト」は最初から予定されていたことなんだ」

舞奈 「ええっ!?そうなの!?」

フジモリ 「そう。これは原作者である城平京氏が、「他誌で連載しているような本格推理漫画ではなく、ちょっと違った推理漫画にしたい」と連載当初から構想を持っていたからだ。(スパイラル完全解説本『LIFE IS SPIRAL』p23より)
実際、バトルがメインとなる「ブレード・チルドレン編」以降も、対決の中に駆け引き・心理戦などの「推理」要素があり、また主人公が巻き込まれる陰謀の真相は巧みな伏線が張られている」

舞奈 「「推理」をいわば「駆け引き」に応用しているってわけね」

フジモリ 「そうだね。スパイラル完全解説本『LIFE IS SPIRAL』で安孫子武丸が解説してるけど、巧みな心理戦や裏を掻く駆け引きは荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険』や福本伸行の漫画に通じるものがある」

舞奈 「言われてみればそうよね。ブレード・チルドレン編のラザフォードと亮子のボール勝負なんかまさにそんな感じだわ。「ボールを投げてターゲットに当てることが出来るか?」という単純な勝負なのに手に汗握っちゃったもの」

フジモリ 「そうだね。そして物語そのものの謎や最後の意外な展開は、おそらく大半の読者が「え!そうだったのか!」と驚愕したことだろう」

舞奈 「確かに。超ネタバレになるんで絶対言えないけど、15巻という道のりを乗り越えたものだけが味わう衝撃とカタルシスよね」

フジモリ 「で、その漫画『スパイラル』をノベライズしたのが今作『スパイラル 鋼鉄番長の密室』なわけだ」

舞奈 「長い前フリねぇ」

フジモリ 「必要な情報なんだからしょうがない」

舞奈 「まあそういうことにしときましょ。でも、漫画のノベライズなら原作読んでないとわけ分からなくなるんじゃないの?」

フジモリ 「ところがそうではないんだ。『スパイラル』のノベライズは原作の途中に挟まるエピソードであり、原作の内容とほとんどリンクしていない。したがって、ノベライズから読んでも、また全4巻どのノベライズから読んでも問題ないんだ」

舞奈 「なるほどぉ」

フジモリ 「というわけで内容の説明に入ろうか。
ある夜、牛乳の買出しのため街に出た鳴海歩は公園で踊る一人の少女を見かける。その少女に難癖つけられてしまいにはとあるバッチを投げつけられる。「このバッチ、あんたが持ってなさいよ!」
バッジには、十字に「鋼」の一文字が書かれていた。なんとこのバッジ、伝説の番長、「鋼鉄番長」のものだったのだ…」

舞奈 「いいねその重っ苦しい感じ。背負ってやろうじゃねーの!!」

フジモリ 「それマンガ違うって!錬金術関係ないってー!」

舞奈 「でもガンガンつながりでしょ?」

フジモリ 「小理屈こねるの巧いなぁ」

舞奈 「まあまあ。で、次の日、鳴海は立ち寄った新聞部の部室でバレエを踊っていた少女(といっても年上だけど)と再会するのよね」

フジモリ 「新聞部部長であり鳴海の(自称)パートナーである結崎ひよのに対し、彼女は依頼をする。
「40年前に密室で自殺した鋼鉄番長の死の真相を突き止めて」
鳴海歩は鋼鉄番長の密室の謎を解くことが出来るか?…という話だね」

舞奈 「それにしても、鋼鉄番長って名称がスゴイわよね。番長学園って感じ。バンチョウニウム合金!」

フジモリ 「マニアックすぎてわけ分からないって!」

舞奈 「で、鳴海は鋼鉄番長の歴史を紐解くことになったんだけど、この「番長時代の歴史」にだいぶ筆を費やしてるわよね。筆を費やすって日本語が変だけど」

フジモリ 「まさに「架空の歴史」だよね。番長黎明期から始まり、抜刀番長の登場、ピストル番長と魔法番長の登場、そして鋼鉄番長が登場し、その死をもって番長黄金時代が終焉を迎えるわけだ」

舞奈 「『野望の王国』みたいね。また一歩野望に近づいた!」

フジモリ 「それ『サルまん』だから。確かに『鋼鉄番長の密室』の番長たちの歴史は『野望の王国』に似ているとの指摘もあるけど、作者が言うには小林恭二『ゼウスガーデン衰亡史』を意識しているとのことだ(スパイラル完全解説本『LIFE IS SPIRAL』p124)。もっとも、『ゼウスガーデン衰亡史』は、とある遊戯施設が一大アミューズメント帝国となっていく架空の歴史を描く物語だけど」

舞奈 「ふむふむ。で、鳴海が過去の歴史から真相を推理するわけね」

フジモリ 「そうだね。作品の流れそのものはいわゆる「歴史ミステリー」だ。鯨統一郎『邪馬台国はどこですか?』など、過去の歴史から新事実を推理するという形式は過去に多くの作品があるけど、『鋼鉄番長の密室』がすごいのは「番長時代」という「架空の歴史」を創造したところだよね。まさに「架空歴史モノ」と「歴史ミステリ」を一冊の小説に収めてしまったわけだ」

舞奈 「確かに」

フジモリ 「これは、『スパイラル』という「漫画のノベライズ」という形式だから可能な芸当かもしれないね。いわば漫画は「何でもあり」の世界だ。これが「私たち」が存在する「今、ここにある現在」を舞台にした小説だと、読者に「作り物くささ」を与えてしまうけど、漫画の世界、大塚英志言うところの「まんが・アニメ的リアリズム」の世界であれば「それもありかな」と思える。自身の立ち位置を最大限に活用していると思うよ」

舞奈 「ふむぅ」

フジモリ 「そして、鳴海は「鋼鉄番長の死」の真相を推理する。それも、一つの解答ではなく、三つの解答をだ」

舞奈 「物質的な密室、心理的な密室、そして「歴史」という密室を解いた三つの「真相」。しかもそれぞれの推論を次の推論で打ち消す過程はとてもスリリングよね」

フジモリ 「鳴海の目的は「鋼鉄番長の死」の謎を解くことではなく、その解答が依頼者の少女の蟠(わだかま)り、柵(しがらみ)を解き放つことだ。「真実を突き止める」為の推理ではなく、「人を救う」為の推理というのもちょっと変わってるよね」

舞奈 「鋼鉄番長の密室は解けるのか?歴史に隠された謎は?・・・未読の方のために結末は伏せるけど、物語としてもうまくまとまってるし、ミステリーとしても良く出来てるって思ったわ」

フジモリ 「作者の「歴史ミステリーを書きたい!」という思いが伝わる作品だよね。各章のサブタイトルにもそれが表れてる」

舞奈 「そうね。「地には平和を」は小松左京の同名の作品(1961年)から、「日々の名残」はカズオ・イシグロの「日の名残」(1989年)から。あとの二つ(「扉をこじあけて」「家に帰る道」)はちょっと分かんないけど、どちらも架空歴史モノだわ」

フジモリ 「今作、『鋼鉄番長の密室』は「漫画のノベライズ」という立場を最大限に活かし、「漫画のような」架空歴史を構築し、その真相を推理するというちょっと変わったミステリーだけど、推理の内容も、また物語も非常に巧くできている。もちろん主人公・鳴海と結崎ひよのの掛け合いもニヤニヤさせられ、漫画「スパイラル」の既読者は一層楽しめることは事実だ。
とはいうもののこの作品、「ノベライズ」ということで敬遠している読者にこそ読んでもらいたい一作だと思った。同時収録されている「名探偵 鳴海清隆 〜小日向くるみの挑戦〜」はこれまた典型的な「読者への挑戦」モノだし、「推理小説」を楽しみたい方全てにオススメできる小説だと思ったな。これが、今回の感想かな?」




舞奈 「歴史という過去の情報を基に新たな真実を推理する。うーん、歴史ミステリーって面白いわねえ」

フジモリ 「そうだね。架空の歴史とはいえ、「それまで信じられていた事実」が覆される衝撃と快感を満喫することが出来たよ」

舞奈 「というわけで私も過去の事実から新たな真実を推理してみます!」

フジモリ 「お、面白そうだね。どんな過去の事実を基に推理するんだ?」

舞奈 「ずばり、なぜフジモリの書評が遅れたのか!」

フジモリ 「ちょ、ちょっと待てい!」

舞奈 「ご存じない方向けに説明いたしますと、この『鋼鉄番長の密室』の書評、実は当サイト「三軒茶屋」読者の方からリクエストで依頼されたものなんです。で、リクエストされたのがだいたい1年前。
さて、なぜ書評まで1年もかかったのでしょうか?」

フジモリ 「反省してるって。傷口に塩を塗るような真似はやめてくれぇ」

舞奈 「真っ先に考えられるのが「入れ替わり説」よね。実はフジモリの中の人は1年前に死亡していた。「フジモリ」の名を引き継いだ2代目の中の人はフジモリの書評を読んで先代の文章の傾向をつかみ、入れ替わりがばれないようにした…」

フジモリ 「中の人とか言うなぁ!」

舞奈 「そういえばblog「別館 三軒茶屋」が始まったのも1年前ぐらいよね。blogにすることで若干キャラを変えたように見せかけ、読者に中の人が変わったことによる違和感を与えないようにする・・・。巧い作戦ね。私の推理を裏付ける事実だわ」

フジモリ 「それ偶然だって!」

舞奈 「つまり二代目は中の人が変わったことを読者に気づかれたくないということ。先代の死にはあなたが絡んでいるのね!二代目フジモリ!」

フジモリ 「勝手に殺すなよ!」

舞奈 「ふふん。読者は騙せても私は騙されないわよ。あなたの陰謀、全部まるっとお見通しだ!」

フジモリ 「いいかげんにしろ!」



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