フジモリの脳内ラビリンス

〜a labyrinth in fujimori's brain〜

Onehundred-Thirty-fourth bookshelf
森博嗣『冷たい密室と博士たち』(ネタバレ書評)


註!今回の書評には内容に関するネタバレがあります。未読の方はご注意ください。



そう、密室だ……


フジモリ 「今回語るのは森博嗣『冷たい密室と博士たち』だ」

御影 「S&Mシリーズ2話目やね」

フジモリ 「そうだね。S&MシリーズというのはS(Souhei Saikawa=犀川創平)とM(Moe Nishinosono=西之園萌絵)の二人を主人公とするシリーズのことだ。そのほかのシリーズとして、Vシリーズ(Veniko Sezaimaru=瀬在丸紅子)やGシリーズ(Greek=ギリシャ文字)などがある」

御影 「たいがいの読者はS&Mシリーズから読み始めるから、今作『冷たい密室と博士たち』が森博嗣2冊目っちゅう人が多いんちゃうん?」

フジモリ 「ところが、そうでもない。たけいはVシリーズから読み始めたそうだし、作者森博嗣はブログで「最近よく『Gシリーズから森ミステリィに入門しました』というメールをもらう」と言っている(←うろ覚え)。作者としては、どのシリーズから読んでも良いように(小説を)書いているそうだ」

御影 「そぉなんやぁ。まあ、ウチはS&Mシリーズ1話目『すべてがFになる』から入ったクチやけど」

フジモリ 「フジモリもそうだよ。では、今作の書評に入ろうか。まずは御影、あらすじをお願い」

御影 「はいな。

同僚の喜多助教授の誘いで、N大学工学部の低温度実験室を尋ねた犀川助教授と、西之園萌絵の師弟の前でまたも、不可思議な殺人事件が起こった。
衆人環視の実験室の中で、男女2名の院生が死体となって発見されたのだ。
完全密室のなかに、殺人者はどうやって侵入し、また、どうやって脱出したのか?
しかも、殺された2人も密室の中には入る事ができなかったはずなのに?
研究者たちの純粋論理が導きでした真実は何を意味するのか・・・

ちゅう話や」

フジモリ 「今回は本書の内容について言及していくので、これからこの本を読まれる方で「まっさらの知識で読みたい!」という人はご注意ください」

御影 「業界用語で言うところの「ネタバレ全開!」っちゅうやつやね」

フジモリ 「どこの業界だよ。・・・話進めます。早速だけど、御影、この本読んでどう思った?」

御影 「ほんまいきなりやな。うーん、まあ、1話目「すべてがFになる」に比べると、なんちゅうか地味ぃな印象やね」

フジモリ 「うん、確かにそうかもしれないね。本作の内容を語る前に、この『冷たい密室と博士たち』が書かれた前提を説明しよう。
森博嗣はS&Mシリーズ第1話『すべてがFになる』を書き上げた時点で『冷たい密室と博士たち』『笑わない数学者』『詩的私的ジャック』も完成させていた。発行元の講談社に最初に投稿したのは『冷たい密室と博士たち』だったんだけど、編集部の戦略により最もインパクトの強い『すべてがFになる』が第1作として刊行されたんだ。それに合わせて、続く3作についても登場人物の年齢やコンピュータ技術等が書き直されている。したがって、この本『冷たい密室と博士たち』が実質的に森博嗣の処女作なわけだ」

御影 「へぇ。そぉやったんや」

フジモリ 「そういう視点で読んでみると、『冷たい密室と博士たち』は、なんというか森博嗣の原初のエッセンスが詰まっていることに気づく。

本書のストーリィはこんな感じだ。

登場人物(探偵・ワトソン・犯人・被害者)顔見せ
  ↓
第一の殺人。しかも密室殺人。(被害者は2人だけど便宜上「第一」とします)
  ↓
新たな事実(第二の殺人、リドルなど)
  ↓
現時点での情報の整理
  ↓
ワトソンの推理
  ↓
ワトソンのピンチ
  ↓
第三の殺人
  ↓
探偵、真実に気づく
  ↓
犯人の追及
  ↓
名探偵、みなを集めて・・・
  ↓
解決編(犯人、トリック、動機、リドルの解答が明かされる)
  ↓
エンディング

どうだい?何か気づかないかな?」

御影 「なんちゅうか・・・「普通」のミステリーやね」

フジモリ 「その通り!『冷たい密室と博士たち』は、これでもかと「ミステリーのフォーマットに沿った作品」なんだ。筋だけ取り出すと他のミステリーと大きな違いは見受けられない。いわば、森博嗣が「最初に書いたミステリー」であり、森博嗣の「標準的なミステリー観」が現れているんだ」

御影 「ほぉ。なるほどなぁ」

フジモリ 「とはいうものの、舞台は大学の研究所、登場人物は理系の教授や学生。会話も理系チックなものが多く、以降の「理系ミステリ」と呼ばれる「森ミステリィ」の片鱗はふんだんに散りばめられているけどね」

御影 「ふむふむ」

フジモリ 「最大の注目点は殺人の動機を説明しているところ。しかも、非常に俗っぽい動機だ。これは以降の森ミステリィにはあまり見受けられないよね」

御影 「確かにそうやなぁ」

フジモリ 「森博嗣が「ミステリーの文法に沿って書いた」この作品、逆に言えば、この「原石」からどのように「標準的な文法」を排して森博嗣らしいミステリィに変化していったかを示す「スタート地点」と言えるだろう」

御影 「なるほどぉ」

フジモリ 「そういうメタな視点で今作を読むと、新たな発見があると思う。『冷たい密室と博士たち』で書かれたフォーマットから「無くなったもの」、あるいは「無くならないもの」。
今作が森博嗣作品2作目だという人は今作以降の森ミステリィの変化の過程に注目してほしいし、既に何冊も読んでいる人は「あなたが」森ミステリィに対して持っているイメージと今作を比較してほしい。再読することによって新たな発見があると思うよ。森博嗣の原点にして「原石」。この原石がいかに削られて「宝石」となったのかを知ることが出来る、興味深い一冊だ。これが、今回の感想かな?」




御影 「なるほどぉ。森博嗣の原石かぁ」

フジモリ 「まあ、1作目にはその人のエッセンスが全て詰め込まれるというからねぇ」

御影 「ウチらの書評もそうなんかなぁ?」

フジモリ 「むむう。数年前に書いた記事だけに、いま読み返すのは恥ずかしいものがあるなぁ」

御影 「まあまあ。(といいながら第一回目の書評『地獄めぐり』を読む)・・・うん、確かにフジモリの原石っちゅう感じがするわ」

フジモリ 「どんなところ?」

御影 「取り上げる本がマニアックでぇ、ウチらの掛け合い中心で肝心の本の内容についてあんま触れられてへんくてぇ、最後にオチがあるところ」

フジモリ 「うう。確かにそうだなぁ。百冊以上書評しててもそのスタイルは変わらないもんなぁ」

御影 「ちゅうわけで、ウチらも原点回帰が必要や!」

フジモリ 「別にいいって」

御影 「最近、登場人物が多すぎやから、今後はウチとフジモリの漫才形式一本に絞ろぉや」

フジモリ 「それって御影が出番ほしいだけだろうが」

御影 「ちゃうねん」

フジモリ 「違わないって」

御影 「なんやその言い方。ほんま、冷たいわぁ」

フジモリ 「別に冷たくないだろ」

御影 「こらぁっ!せっかくウチが「冷たい」っちゅう地口オチで落とそぉ思てんやから、しっかりノってこんかいっ!」

フジモリ 「駄洒落でもなんでもないだろうが!」

御影 「ええかげんにしなさいっ!」

フジモリ 「それはこっちのセリフだ!」



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