| フジモリの脳内ラビリンス
〜a labyrinth in fujimori's brain〜 Onehundred-Thirty-thrid bookshelf 吉田親司『彼女はQ』 |
「賭ける?」 フジモリ 「さて、今回取り上げる本は吉田親司の『彼女はQ』だ」 舞奈 「あら、お客さん初顔ね」 フジモリ 「誰がお客さんだよ!」 舞奈 「まあまあ。それぐらい珍しいってことよ。吉田親司って『帝国の聖戦』などの架空戦記や『MM』『WW』などのライトノベルで活躍している作家ね」 フジモリ 「そうだね。で、『彼女はQ』はこの作者にとっても、またフジモリの書評で取り上げるのも珍しい、ギャンブル小説だ。というわけで、ギャンブル案内人のドクトルもサポートに加えます。どうぞー」 ドクトル「・・・なんかバラエティ番組みたいですね。えーっと、初めての方は初めまして。そうでない方はお久しぶりです。フジモリさんの書評のギャンブル部門を担当しています、分析役のドクトルです。宜しくお願いします」 舞奈 「よろしく。んで、この作品、どんな内容なのかしら?」 フジモリ 「まずはあらすじから。 灰谷亜美夏(はいたにあみか)、純和風な名前の金髪少女が帰国子女でやってきた。彼女には大金をかき集めねばならない理由があるらしい。その手段がギャンブルだった。賭け事を左右するのは「運」と考える彼女が目をつけたのは、信じられない強運の持ち主古座間星斗(こざませいと)だった。 看楽倉美子(みらくくらみこ)は警戒感を強めていた。憧れの古座間に変な少女が最近絡んでいる。彼を守れるのは私しかいない! かくして二人は対決をすることに。本場のカジノでも見破られることがなかったイカサマの天才、亜美夏。確率を重んじる数学の天才、倉美子。勝負の天才たちが挑むゲームの行方は!? という話だ」 舞奈 「なるほどね。ほんとに「ギャンブル」小説だわ。そもそも、ギャンブル小説ってジャンル自体珍しいわよね」 フジモリ 「そうだね。エッセイならばフジモリが以前書評で取り上げた浅田次郎の『競馬どんぶり』など題材に事欠かないけど、小説では少ないね」 ドクトル「あえて言うなら、阿佐田哲也『麻雀放浪記』やロアルド・ダールの短編『南から来た男』(『あなたに似た人』収録)。ギャンブル小説ではないけどギャンブルシーンが有名なのは冲方丁『マルドゥック・スクランブル』ってところでしょうか」 舞奈 「でもまあ、漫画だったらそれこそたくさんあるけどね」 フジモリ 「そのとおり。本作はギャンブル漫画の文法を巧く取り込み、小説では数少ない「ギャンブル」を描くことに成功していると思っている」 ドクトル「ギャンブル漫画の文法?」 フジモリ 「うん。本来ギャンブルとは運否と技量と財力によって勝負が決まるけれど、それを覆すのがギャンブル漫画の醍醐味。ギャンブルを題材にしたバトル漫画といっても過言ではないんだ」 ドクトル「ほほう、なるほど。で、その文法とは?」 フジモリ 「えーっと、それはだなぁ。なんと説明したらいいか・・・」 舞奈 「んー。よし!ここは私が体を張って例を挙げてみましょう。・・・フジモリ、胴元やって」 フジモリ 「いきなり振るなよ!ま、まあ、やってみようか」 (場面暗転) フジモリ 「ふふふ。よくぞこの闇カジノに来たな」 舞奈 「あなたに勝てば仲間の居場所を教えてくれるのね!?(1)」 フジモリ 「そうだ。しかしカジノの所持金は1億円あるぞ。おまえの全財産は100万円。その戦力では私に適うまい!さあ、どうする?(2)」 舞奈 「よし、サイコロ3つの出た目を当てるゲームで勝負よ!(3) 1ゾロに所持金を全部賭けるわ!これで当たれば100倍よ!」 フジモリ 「な、なんだってー!?」 舞奈 「ふふん。怖いのかしら?(4)」 フジモリ 「よ、よし、いいだろう、受けてたとう!」 ドクトル「え!?サイコロ3つで1ゾロが出る確率は216分の1! む、無茶ですよ!(5)」 フジモリ 「(ふふふ。わたしはサイコロの目が必ず6になる能力を持っている(6)。お前の負けだ!)」 舞奈 「勝負!えーいっ!」 (コロコロコロ・・・) (サイコロは見事に1ゾロ) ドクトル「うわっ!1ゾロだ!やりました!舞奈さんの勝利ですよ!」 舞奈 「ふふん。私にかかればこんなもんよ」 フジモリ 「なに・・・バカな・・・そんなはずは・・・」 舞奈 「あら?「そんなはず」ってどういうことかしらね?」 フジモリ 「おのれ!お前、このサイコロに何か仕込んだだろう!(7) よこせっ!(ガリッ、とサイコロを噛む)」 舞奈 「ペロっ・・・これは・・・青酸カリ・・・」 フジモリ 「うわー、やられたー・・・って、どんなオチだよ!」 舞奈 「ちゃんちゃん」 フジモリ 「ちゃんちゃん、じゃ、ねえよ!」 (場面暗転) 舞奈 「助けてコナンくーん!」 フジモリ 「違うって!漫画変わってるって!」 舞奈 「まあまあ。でもまあ、ギャンブル漫画って、だいたいこんな感じでしょ?」 フジモリ 「んー、例外もあるけど確かにこんな感じだなぁ。よし、じゃあさっきのやり取りを踏まえ一つ一つ説明していこうか。 まずは、ギャンブル漫画では目的が必要だ(さっきのやりとりの(1)の部分)。これはバトル漫画でもそうなんだけど、「なぜ戦うのか?」という理由付けだね」 舞奈 「だいたいのギャンブル漫画では、主人公に対して、「敵」が出てくるわね」 ドクトル「それは特定の人間だったり、カジノ(胴元)そのものであったりするわけですね」 フジモリ 「そのとおり。次に、ギャンブルに欠かせない「財力」。ギャンブル漫画の財力とはRPGでいうHPみたいなものだ。何回か勝負を繰り返し、基本的に、これを0にすると勝利なわけだ(さっきのやりとりの(2)だ)。ここで敵の強大さが示される」 ドクトル「先ほどフジモリさんが「本来ギャンブルとは運否と技量と財力によって勝負が決まる」と仰ってましたけど、RPGでもHPが高いと有利ですものね」 フジモリ 「まあ、それだけじゃないけどね(理由は『彼女はQ』を読めばわかります。財力はHPでもあり、攻撃力でもあるのです)」 舞奈 「でも、ギャンブル漫画の多くが勝負によって「賭けるもの」が移動するだけで、資金が0になると負け、っていうものは少ないわよね」 フジモリ 「確かに。福本伸行『アカギ』ぐらいかなぁ。この辺は、より込み入って調査する必要があるね」 ドクトル「本来、ギャンブルは勝負に対し「お金(あるいはモノ)」をやりとりするわけですから、各ゲームの「勝利条件(麻雀でトップをとる)」の上に、さらなる「勝利条件(所持金が0になる、相手が死ぬ、など)」があるわけですね」 フジモリ 「前者が「ゲームのルール」なのに対し、後者は「ギャンブルのルール」とでも言うべきかな。わかりやすく言うとこういうことだ。 「ポーカーで勝負だ!」(←ゲームのルール) ↓ 「ポーカーで良い手が出れば勝ちだ!」(←ゲームの勝利条件) ↓ 「負けたほうが勝ったほうにチップを払う!」(←ギャンブルのルール) ↓ 「チップが0になれば負けだ!」(←ギャンブルの勝利条件) ↓ 「チップが0になればスタンドの力でおまえ自身がチップになる!」(←勝負の目的) つまり、「ギャンブル勝負」というのは、「ゲーム」そのものと「ギャンブル」の二重構成になっている、というわけだ」 舞奈 「なるほどねえ。そこで、まずは「ゲームのルール」を提示する、ってわけね(さっきで言うところの(3)ね)」 フジモリ 「そうだね。ギャンブルには2種類あって、「対人勝負」と「そうでないもの」だ。前者でいうならカードゲームや麻雀、後者はパチンコや競馬、宝くじもそうだ」 ドクトル「つまり、「駆け引き」が重要視されるのが前者、「運」が重要視されるのが後者ですね」 フジモリ 「ギャンブルでは「運」がつきものだけど、この「運」というのが非常にやっかいなもので、主人公がここぞというときに良いカード、良い牌を引いたりツモったりすると「ご都合主義」の謗りを免れない」 ドクトル「そういう意味では、「読者が納得させて勝つか」っていうのが重要ですよね」 舞奈 「そうね。例えば片山まさゆきの『ノーマーク爆牌党』という漫画では、主人公・鉄壁保が「運」「流れ」をビーズに例えているわ。同じ数の2色のビーズを瓶に入れてかき混ぜたとしても、きれいに混ざらずに必ず「色の塊」が発生する。同じように、麻雀でも「色の偏り」が発生するのでは、と推測したの。また同じ作者の『理想雀士ドトッパー』では「イケテル」「ヤバゾー」という運気の「可視化」で流れや運をうまく漫画の中に取り込んでいた。鹿賀ミツル『ギャンブルッ!』などでも「流れ」を主人公がつかむことで戦いを有利に導くわね。これらは「運」という「偶然」をうまく物語に組み込んだ例だわ。 一方で、全く「運」を廃したギャンブル漫画もあるわ。福本伸行『賭博黙示録カイジ』では、ギャンブルの対象となる勝負に運の要素は全く絡まないの。「限定ジャンケン」「Eカード」などが良い例だし、「チンチロリン」では「相手のイカサマをいかに見破るか」という点に勝負のフォーカスが当てられているわ。福本伸行は「ルール」の策定によって運を廃し、純粋に「駆け引き」のみで勝負するシチュエーションを創造しているの」 フジモリ 「そうだね。ギャンブル漫画の醍醐味のひとつは、この「駆け引き」だ。これには2つあって、1つは相手の考えを「読む」こと。2つめは相手の考えを混乱させ、思考を「阻害」すること。ポーカーで言うなれば、「相手の捨てた枚数で手役を想定する」ことが「読み」で、「自分のカードを変えない」など相手の読みを混乱させることが「阻害」にあたる。勝負の前から既に駆け引きは始まっているんだ。いかに自分に有利なルールにするか(「ゲームのルール」、「ギャンブルのルール」問わず)、というのも「駆け引き」では重要な要素だよね(さっきのやりとりの(4)だね)」 ドクトル「それに、ギャンブル漫画は「普通に考えると負けるはず」の主人公が強者に様々な手法で勝っていく物語だとすると、そのカタルシスをよりアップするために、主人公が「普通に考えると負ける」ことを説明する、いわゆる「解説役」が必要ですよね(さっきのやりとりの(5)ですね)」 舞奈 「『ギャンブルッ!』では確率やルールに詳しい「ジャン」、『天』では理によって麻雀を打つ「ひろゆき」などなど。バトル漫画で言えば「な、なにー、この技は!」「知っているのか月光!」みたいな感じね」 フジモリ 「月光って言うのはよくわからないけど、確かに「解説役」が「セオリー」を説明し、主人公がそのセオリーを破って勝つ、というのがひとつのフォーマットだね」 舞奈 「で、勝負の綾を左右するひとつの要素として、主人公や敵の特殊能力があるわけね(さっきのやりとりでいうところの(6)よ)」 フジモリ 「強運の持ち主であれば「偶然」すら「必然」にできる。もちろん何らかの弱点がないと物語が面白くなくなるのはバトル漫画でもいっしょだね」 舞奈 「さらにさらに、もうひとつがイカサマなわけね(さっきのやりとりでいうと(7)のことよ)」 フジモリ 「まあ、青酸カリはやりすぎだけど、イカサマによってカードやサイコロを自由に操ることが出来れば「偶然」という要素は排除されるよね」 舞奈 「なるほどー。これがギャンブル漫画の文法ってわけね。 で、話を『彼女はQ』に戻すけど、この作品がその「文法」を巧く取り入れてるってことね」 フジモリ 「そういうこと。 灰谷亜美夏はとある事情により大金を必要としていた(1)。 彼女が目をつけたのは信じられない強運の持ち主、古座間星斗(6)。 憧れの古座間を守るために立ちはだかるのは確率を重んじる数学の天才、看楽倉美子(5)。 勝負の内容は「5スタッド・ポーカー」(3)! イカサマの天才、亜美夏はどうやって戦うのか(7)! ・・・と、これでもかと巧みにギャンブル漫画の文法が組み込まれ、ギャンブルのドキドキ感やカタルシスをそのまま作品の面白さに昇華させているんだ」 舞奈 「あれ?(2)は?」 フジモリ 「それは読んでのお楽しみだ」 舞奈 「ちぇー。ケチー」 フジモリ 「まあまあ。んーで、『彼女はQ』という作品はギャンブルだけではなく、SFチックなトンデモ設定や不器用なほどのラブでコメな展開も、作品の箸休めとしてうまく機能している。普通の小説だったらまずありえないような設定や内容だけど、「なんでもあり」のライトノベルという形態だからこそ出しえた作品だと思うよ」 舞奈 「確かに。ギャンブル一辺倒ではなく、各キャラの個性をアピールしながら巧くストーリィをまとめているわね」 フジモリ 「ギャンブルに興味がある人だけでなく、「駆け引き勝負」が好きな人なんかにも読んでほしい小説だね。ギャンブル小説だからといって敬遠せず、バトル漫画の延長として読んでもらってもいいかもしれない」 舞奈 「『ジョジョの奇妙な冒険』のダービー戦で血沸き肉踊った人ならオススメの一冊よ!・・・これが、今回の感想かしら」 フジモリ 「身も蓋も無いこというなぁっ!」 舞奈 「さてさて、表面張力というものを知っているかね、オービーくん」 フジモリ 「いきなり何言い出すんだよ」 舞奈 「いや、ギャンブル小説だけにギャンブルでオトそうと思って」 フジモリ 「オチ要らないよ!なんだよ、その手に持っている脱脂綿は!」 舞奈 「あ、負けたら花京院の魂も貰うから」 フジモリ 「いないよ!花京院なんて!」 ドクトル「ゴゴゴゴゴゴ」 フジモリ 「効果音は要らないって!」 舞奈 「もう!早くコイン入れなさいよ!(バンっ!と机を叩く) ・・・あっ・・・」 ドクトル「こぼれ・・・ちゃいましたね・・・」 フジモリ 「どーすんだよ!それこそ、このオチ「偶然」で片付いちまうぞ」 舞奈 「これでいい。気にするな・・・みんなによろしくと言っておいてくれ・・・(天に召されていく)」 フジモリ 「ブチャラティ関係ないって!いいかげんにしろっ!」 |