フジモリの脳内ラビリンス

〜a labyrinth in fujimori's brain〜

Onehundred-Thirty-second bookshelf
森博嗣『ηなのに夢のよう』(ネタバレ書評)


註!今回の書評には内容に関するネタバレがあります。未読の方はご注意ください。



涙はどれだけでも出る。不思議なくらい抵抗なく、静かに泣くことができた。


フジモリ 「さて、今回取り上げるのは森博嗣『ηなのに夢のよう』だ」

御影 「どもー。御影です」

舞奈 「舞奈ですー」

フジモリ 「あーそうか、前回(『λに歯がない』)書評で、舞奈がレギュラー復帰したんだっけ」

舞奈 「復帰したと思ったらGシリーズ最終話だけどね!」

フジモリ 「いや、最終話じゃないだろ。いちおう一段落ついてるけど、次のシリーズが挟まってるだけでGシリーズそのものはまた再開するんじゃない?」

舞奈 「もー!せっかく今回はきちんと書評しようと思ったのに!」

フジモリ 「「思ったのに」じゃねぇよ!ちゃんと書評しろ!」

舞奈 「はっ!」

フジモリ 「はっ!じゃ、ねえよ!」

御影 「まあまあ、お二人とも熱ぅならんといてや。舞奈も、話に参加できるだけでも良しとせなぁな」

舞奈 「…そうね。一時期書評から外されてた私がこうやってまた出られるなんて!まさに「レギュラー復帰できるなんて夢のよう」だわ!…あ、ちなみに今の発言はタイトルとかけてみました」

フジモリ 「かけてないって!「夢のよう」しか合ってないって!」

御影 「ほんま、舞奈が入ると賑やかになるなぁ」

フジモリ 「ひとごとかよ!ちょっとは諌めろよ!」

舞奈 「ちっちっ。Gシリーズのテーマは「変化」でもあるのよ。私だってただの賑やかしキャラじゃないんだから。今回ぐらいは真面目にやってみるのことよ」

フジモリ 「語尾めちゃくちゃだよ!どんなキャラづけしてんだよ!…じゃあ、進めるぞ。まずは御影、あらすじお願い」

御影 「はいな。

地上12メートルの松の枝に首吊り死体が!
遺されていたのは「η(イータ)なのに夢のよう」と書かれたメッセージ。
不可思議な場所での「η」の首吊り自殺が相次ぐなか、西之園萌絵は、両親を失った10年まえの飛行機事故の原因を知らされる。
「φ(ファイ)」「θ(シータ)」「τ(タウ)」「ε(イプシロン)」「λ(ラムダ)」と続いてきた一連の事件と天才・真賀田四季との関連は証明されるのか?

ちゅう話や」

舞奈 「じゃあ早速本題に入るけど、今作も「G(=Greek)」ことギリシャ文字に関係ある事件だったのよね」

フジモリ 「ほんといきなり核心に入るなあ。まあ、そのとおりだ。地上12メートルの松の枝に合った首吊り死体に残されていたメッセージ「ηなのに夢のよう」。この事件を皮切りに、不可思議な場所での「η」の首つり自殺が相次ぐんだ」

舞奈 「ん?「自殺」って言っちゃっていいの?殺人事件だったら「自殺」って表記したらアンフェアでしょ?」

フジモリ 「裏表紙に書かれてるからいいんじゃない?実際、今回の事件は全て自殺だったしね」

御影 「結局、直接事件に関係する『φは壊れたね』『θは遊んでくれたよ』『εに誓って』はみんな自殺やったね」

フジモリ 「そう。今回のGシリーズ、「τになるまで待って」「λに歯がない」という目くらましがあったけど、本質的には全て「自殺の演出としてのギリシャ文字」だった。本編でもこれについて会話がされている。

「イータというのは、ギリシャ文字の?」
「そうです。アメリカでも、既に二例、似たような事件が発生しています」沓掛は話す。「特に、共通するところはないのですが、複数の自殺者が、事前になんらかの連絡を取り合って、死ぬときに、ささやかな演出をする。その演出に共通点が見出せる、というだけです。ギリシャ文字を使ったメッセージは、日本でしか観察されていません。アメリカでは、神様の名前です」
(p174)

読者はここで、今までのギリシャ文字事件の共通項を再確認するわけだ」

御影 「確かに。言われてみたらみんな同じ内容なんに、途中でノイズ(関係ない事件)が入ったから気づかへんかったわ」

舞奈 「共通点があるというシリーズの全貌を、「共通点がある」という指摘があって初めて気付かされるっていうのは、なかなか森博嗣もやるわね」

御影 「まとめると、
 φ ⇒ 単体の自殺。
 θ ⇒ θそのものは自殺だけど、殺人事件に利用された。
 τ ⇒ ラジオドラマ。館での事件と直接の関係は無し。
 ε ⇒ 集団自殺。
 λ ⇒ 関係なし。
 η ⇒ 単体の自殺の連鎖。
こうなるわけやね。なるほど、共通項がありながらもそれぞれに関連性はないわなぁ」

舞奈 「関連がないものをギリシャ文字によって共通性を持たせる。これは自殺の演出だけでなく、まさしく、Gシリーズそのものにも言えるわね」

フジモリ 「そうだね。同じ内容の事件を同じ内容だと気づかせずに6冊まで続けるというのは作者森博嗣の手腕があってこそだ。そういう意味でも、今作はGシリーズクライマックス其の一といっても過言ではないと思うよ」

舞奈 「んーで、その奥にはあの天才「真賀田四季」が居るっていうのがまた凄いわよね」

御影 「さっきの引用やないけど、全世界的に起こっとぉよね」

フジモリ 「今作では露骨なまでに「真賀田四季」の存在について語られる。瀬在丸紅子、久慈昌山など他シリーズの登場人物も現れ、まさに今作『ηなのに夢のよう』は森シリーズの「交差点」的位置に存在している」

舞奈 「椙田も出てきたしね」

御影 「?、椙田なんて他の作品に出てきとぉ?」

舞奈 「『四季 秋』で保呂草が儀堂世津子に接触したときの偽名が「椙田」だったわ。今作では自殺した「椙田」と、保呂草が入れ替わった「椙田」と2種類の「椙田」が地の文で使われてるからややこしいんだけど、後半の記載を見ると保呂草の現在の姿は「椙田」だってことがわかるよね」

御影 「保呂草は椙田ちゃうやろ。それってアンフェアちゃうの?」

フジモリ 「森博嗣は地の文は非常に気をつけているよ。『夢・出逢い・魔性』なんか最たる例だね。たぶんだけど、「保呂草」そのものが偽名だし、現在名乗っている名前だったらOKと判断しているんじゃないのかな?これをアンフェアと言うなら、ミステリなんて全て本名でキャラの名前を書かなきゃならなくなっちゃうよ」

舞奈 「そんなことしたら犯人が偽名使ってたら一発アウトね」

御影 「確かに」

フジモリ 「話が反れたけど、今作はS&Mシリーズ、Vシリーズ、M(真賀田四季)シリーズ、百年シリーズとこれまでの森作品を読んできた人ならそのクロスオーバぶりに感嘆すると思うよ」

舞奈 「まあ、フジモリは全部読んでるからそう言えるだろうけど、全部を読まなくて他のシリーズを読んだときに「あ、このキャラ出てきた!」って驚きもあるから全作品読むことは別に必須でもないからね」

御影 「そやなぁ。んーで、今作はまた「真賀田四季」にスポットライトが当たるわけや」

フジモリ 「そうだね。真賀田四季を軸に、これまでの事件の再構築が行われるんだ」

舞奈 「西之園萌絵の両親の死の真相とかね」

御影 「真賀田四季が仕組んだかも、っちゅうやつやね。ほんまやったらびっくりやわ」

フジモリ 「もちろんそれが「正」ではないかもしれない。しかしながら、『すべてがFになる』の真相を『四季 秋』で覆したように、西之園萌絵の両親の死に真賀田四季が関わっていたという可能性は否定できない」

御影 「せやけど、ほんまやったら西之園萌絵も「真相を突き止める!」って突っ走るところやけど、今作ではそんなそぶりは全く見せんかったな」

舞奈 「そうね。このGシリーズの一つのテーマでもある、「西之園萌絵の成長」がその要因の一つだと思うわ」

フジモリ 「今作『ηなのに夢のよう』の後半で、西之園萌絵はまさしく様々な「経験」をする。瀬在丸紅子に「η」の事件を話し、一方で紅子と真賀田四季の関係を聞いたり、東京からの引き抜き(っていう言い方は正しいのかな?)があったり、一つの「別れ」があったりと、まさしく急転直下だ」

御影 「そやな。特に最後のトーマの別れなんかは驚いたわ」

舞奈 「作品に対する作者の投影を指摘しちゃいけないんだろうけど、作者森博嗣の愛犬・森都馬も2005年に永眠しているわ(森博嗣wikipediaより)。ここで注目すべきは、萌絵がトーマの死で涙を流したこと。これまで両親の死を経て死に対して鈍感だった(鈍感にならざるを得なかった)彼女が初めて身近な「死」に触れ、そして「普通の」リアクションをとったの。これは彼女の「変化」を如実に示すものであり、今作の最重要ポイントでもあるわ」

フジモリ 「人は変わるものだ。例えそれが小説の登場人物であってもね。そこを余すところ無く書いた森博嗣の筆力は凄いと思うし、S&Mシリーズから森博嗣作品に付き合ってきた読者としては更に感慨深いものがある。裏表紙にも書いているけど、まさに「Gシリーズの転換点」だよね」

御影 「フジモリもS&Mシリーズそのものが犀川と萌絵の成長やって書評しとったもんね」

フジモリ 「そのとおり。Gシリーズは当初は成長した西之園萌絵たちがゲストキャラ的に登場したけど、あるときはメインで事件を解き、あるときは探偵役(海月)の解説を聞く。
さっき、「ギリシャ文字によって、個々では関連性の無い個別の自殺を、一つの意味のある現象に見せる」という話をしたけど、Gシリーズそのものも「ギリシャ文字の事件によって、個々では関連性の無い物語を、一つの意味のあるシリーズに見せる」という構造になっているんじゃないかな」

舞奈 「なるほど、だから最初にQシリーズって言ってたのをGシリーズに変更したのか」

御影 「んー?考えすぎちゃうん?」

フジモリ 「そうかもしれないね。しかし深読みするのは読者に与えられた偉大な特権の一つだ。今作でこれまでの事件の共通点と、その背後に居る真賀田四季の存在については語られた。しかし、各事件は解決しても、その根本にあるものが解決したわけではない」

舞奈 「幻影旅団の「頭を潰しても蜘蛛は死なない」ってのと同じね!」

フジモリ 「ま、まあ例えはアレだけどそのとおりだ。Gシリーズそのものが解決していないのは、事件そのものの謎もそうだけど、細かいところでは赤柳の正体とか、回収されない伏線が多々あると思う。第2部ではこれらが一気に回収される!…といいなぁ」

舞奈 「なんでそんな弱気なのよ」

フジモリ 「いや、森博嗣って、たまに伏線はって回収しないときもあるし。このままGシリーズ再開が無かったらフジモリが語った内容が意味なくなるし」

舞奈 「深読みが読者の特権って言うんなら、偉そうに御託並べて外したときのリスクも甘受しなさいよ」

フジモリ 「うう。確かにそのとおりだ。だったら外すリスクを覚悟で語ってみよう。今作『ηなのに夢のよう』では、これまでのギリシャ文字事件の全貌が明らかになった。それは、「個々では断絶している事象(自殺)をあたかも一つの意味があるようにみせる」という構造。そしてそれは「個々では断絶している事件をあたかも一つのシリーズである」というGシリーズそのものの構造でもある。しかしながら全貌は明らかになったものの、事件の根本にあるものは解決していない。それはGシリーズそのものも同じで、数々の謎を残している。その謎がどうやって解決されるのか?伏線は回収されるのか?もしGシリーズがGシリーズとして再開されるなら、そこを注目してみたいな、と思った。シリーズをうまく一段落つけながらも、再開に含みを持たせ、より謎を深めた。一方で萌絵の成長やクロスオーバなど「みどころ」が盛りだくさんの話。まさに「転換点」と呼ぶのにふさわしい、そんな一冊だった。それが、今回の感想かな?」




舞奈 「どう?今回の書評、ボケなしで頑張ったでしょ?」

フジモリ 「確かになぁ。やればできるじゃないか」

御影 「ウチもウチも」

フジモリ 「うむ。今回みたいな書評が続けばフジモリも心休まるよ」

舞奈 「というわけで、次回もこの3人体制で頑張っていきましょ!」

御影 「新シリーズ『イナイ×イナイ』やね!よし、やったるでぇ!」

フジモリ 「あー、ごめん。次回新シリーズからは、違うレギュラーと組むことにしてるんだ」

舞奈 「はぁ?何ですってぇ!?」

御影 「誰やねん、それ!?メージャ?ドクトル?…御景やったら許さへんでぇ!!」

フジモリ 「こ、怖いよ、二人とも。まあ、今作『ηなのに夢のよう』でも新シリーズのレギュラーが顔出ししてるし、こっちも登場させるか。おーい!」

流希 「初めまして!」

舞奈 「こいつって…」

御影 「誰やねん?」

流希 「初めまして!フジモリさんの「新人の頃の人格」から出てきたキャラクタ、流希と言います!」

フジモリ 「と、いうわけで、新シリーズに備えてフレッシュな新キャラを投入してみました」

御影 「みました、ちゃうわぁっ!」

舞奈 「また私たちの出番が減るじゃない!」

フジモリ 「まあまあ。じゃあ流希、先輩二人に挨拶を」

流希 「はい!まだまだ未熟者ですが、ベテランのお二方に負けないよう頑張っていきます!よろしくお願いします!」

舞奈 「ちょ、ちょっと待ちなさいよ(ぴきぴき)」

御影 「ベテランってなんやねん(ぴきぴき)」
 
流希 「間違えました!ロートルのお二方に負けないよう頑張っていきます!よろしくお願いします!」

舞奈御影 「「こらぁっ!!!」」

流希 「?、わたし、何か変なこと言いました?」

フジモリ 「うう。新人ゆえの無知とはいえ、恐ろしいことを…。とにかく、新シリーズは流希と二人で進めていくので、読者の皆様も変わらぬお引き立てのほどをお願いします(ぺこり)」

舞奈 「そうね。私もベテランとして新人が粗相しないようにしっかり見張っとくわ(ぴきぴき)」

御影 「ウチも草葉の陰からライフル構えて見守ったるわ(ぴきぴき)」

フジモリ 「うう。背後から殺気を感じる…」

流希 「そうですね!先輩がたの温かい視線を感じます!ありがとうございます!わたし、頑張ります!」

舞奈御影 「「こ、こいつ、天然だ…」」



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