| フジモリの脳内ラビリンス
〜a labyrinth in fujimori's brain〜 Onehundred-Thirty-first bookshelf 有川浩『図書館危機』(ネタバレ書評) |
「きっと階級章にカミツレが入った理由を知ってる人ですよ、ほら。きっと毎年」 舞奈 「どーも」 フジモリ 「なんだよ。いきなり」 舞奈 「マイナスターズです」 フジモリ 「違うよ!いつか言い出すんじゃないかと思ってたけど、マイナーすぎて分かんないって!」 舞奈 「いいのよ。マイナなボケが私の役割なんだから」 フジモリ 「さいですか」 舞奈 「マイナって言うな!ニッチって言え!」 フジモリ 「お約束のネタはいいから!書評いくよ!」 舞奈 「まあまあ。今回取り上げるのは有川浩『図書館危機』です。『図書館戦争』、『図書館内乱』に続く『図書館』シリーズ第3弾よ。今回もネタバレ全開でいくわね」 フジモリ 「これまでのストーリィは過去の書評を見ていただくとして…って、おい、舞奈!前回フジモリたちの出番とっただろ!」 舞奈 「男が細かいことグジグジ言ってんじゃないわよ!」 フジモリ 「ぎゃ、逆ギレされた…」 舞奈 「いいから進めるわよ。まずはあらすじお願い」 フジモリ 「あれ?微妙に普段と役割が違ってるような…。まあいいや。 図書館は誰がために! −−王子様、ついに発覚!山猿ヒロイン大混乱! 玄田のもとには揉め事相談、出るか伝家の宝刀・反則殺法! −−そしてそして、山猿ヒロイン故郷へ帰る!?そこで郁を待ち受けていたものは!? という話です」 舞奈 「本作は図書館シリーズ3作目。起承転結で言ったら「転」にあたるわね」 フジモリ 「そうだね。『図書館戦争』では舞台設定と登場人物のお披露目。『図書館内乱』ではそれぞれのキャラクタや相関関係を深く掘り下げた。そして、今作では主人公・笠原郁をはじめとする登場人物や彼女らを取り巻く環境に大きな変化が訪れるんだ」 舞奈 「第一章ではその序にあたります。「王子様、卒業」では図書館が舞台となってある事件が起こるの」 フジモリ 「笠原の上司である小牧の彼女、中澤鞠江が図書館に出没する痴漢の被害に会うんだ。以前書評し、『図書館内乱』では重要な役割を果たした小説『レインツリーの国』は耳が不自由な女性がでてくるんだけど、その際に取材したことが活かされているように思えるね。鞠江に対する仕打ちに、読者は怒り、笠原はじめ図書特殊部隊(ライブラリ・タスクフォース)がその悪漢を退治する様には喝采を送るだろう」 舞奈 「そうね。痴漢なんかみんな死ねばいいのに」 フジモリ 「死ねばいいのには言いすぎじゃないか?」 舞奈 「それぐらい女性にとっては許されざる存在なのよ。それは置いといて。この、悪漢を退治する際に図書特殊部隊は自らの立場を最大限に利用するの。具体的に言えば、警察が出来ない「おとり捜査」ね。法の加護を受けず自治を貫く「図書館」という組織の可能性を見せられた話でもあったわ」 フジモリ 「確かに。そして第2章の「昇任試験、来たる」。この章で笠原たちは士長を目指す昇任試験を受ける。彼女らの「立場」が変化する章でもあるね」 舞奈 「そしてこの章で一番成長したのは手塚。これまでエリートで笠原にライバル意識を燃やしてたちょっと嫌味な彼が、自身を見つめなおし他の人の言うことを聞き、人間的に成長したわ」 フジモリ 「今作のひとつのテーマ、「変化」、そして「成長」を感じた話だったね。で、第3章は「ねじれたコトバ」」 舞奈 「玄田隊長の友人である折口が、週刊新世相社の企画で、とあるタレントをインタビューした際に起こった事件の話ね」 フジモリ 「インタビュー上でタレントが喋った「床屋」という言葉が差別用語として登録されているため、出版物に載せることができなくなったんだ。メディア良化委員会に没収されてしまうからね。しかし、そのタレントはその言葉に特別な思い入れを持っていて、自身の言葉が捻じ曲げられることを拒む。八方塞がりの折口に、玄田がとある妙案を授ける」 舞奈 「この方法がまた奇想天外で、爽快だったのよね」 フジモリ 「そうだね。まさに反則殺法、ケンカ殺法だ。『図書館戦争』で「お前らに大人のケンカを教えてやる!(p222)」と言った本人の面目躍如だよね」 舞奈 「うんうん。さらに、この章では、野生時代に掲載された作者コメントで語られているように、玄田と折口の関係にスポットを当てているわ。(角川書店「野生時代」2007.1号p58に記載あり)そして、この「言葉」に対するやりとりにも考えさせるものがあったわね」 フジモリ 「ああ。フジモリの父親も土方(どかた)なんだけど、土方という言葉も差別用語なんだそうだ。子供のころから慣れ親しんだ言葉で、父親も仕事仲間の人たちも普通に自分たちのことを土方と言っていた。そこに差別的な意味合いはなく、むしろ自分たちの職業、その言葉に誇りをもっていただろう。その言葉が「差別用語」だと知ったとき、レッテルを貼られたこと自体がその人たちの誇りを傷つけているようで、やりきれない気持ちになったことを思いだしたよ」 舞奈 「この「図書館シリーズ」に根底としてある、エンタテイメントとして読者を楽しませながらも、いろいろと考えさせるというチカラは健在よね」 フジモリ 「そういや、余談になるけど、この章で使われている法律用語や内容にミスがあったみたいだね。詳しくはアイヨシが語ってるけど」 舞奈 「まあ、瑕疵といえば瑕疵だけど、面白さが損なわれるほどじゃないからいいんじゃないの?あの緻密に野球を書き込んでいる漫画「おおきく振りかぶって」だって4ストライクした回があったぐらいだし(単行本では修正されました)」 フジモリ 「例えのチョイスがマイナだけど的を射てるなぁ…。その通りなんだけど。で、第4章「里帰り、勃発」。笠原の実家である茨城で、とある芸術作品が展示されることになり、それを図書館特殊部隊が警護することになったんだ」 舞奈 「この章と次の章(最終章)がこの本、そしてシリーズの最大のターニングポイントであり、一番の読みどころよね。「アウェイ」での笠原たちの戦い。それはメディア良化委員会という「敵」だけでなく、事なかれ主義で、かつ実働部隊である防衛部が虐げられているという環境にある茨城図書館内部との戦いでもあったの」 フジモリ 「しかしそんな過酷な状況の中でも笠原たちは自分たち組織を信じて戦い続ける。その笠原のエネルギーは虐げられていた茨城図書館の防衛部にも波及する」 舞奈 「笠原自身も、そして茨城図書館防衛部も変化、そして成長していくのね」 フジモリ 「さらにこの章では笠原と両親の関係にも変化が訪れる。これまでの巻で彼女と両親の摩擦を読んできた読者にとって、この「雪解け」には胸がすっとするよね」 舞奈 「そうね。まあ、私が一番興味ひいたのは、笠原と堂上の関係だけど」 フジモリ 「たしかに。前巻からひっぱった二人の関係も進展する。この辺のラブコメっぷりは有川浩の本領発揮だね」 舞奈 「うんうん。本人も言ってるけど、 それにしても毎回怪獣にベタな青春だの恋愛だの混ぜんのよ、と思われる向きもあるかと思いますが私にこれ書くなってのは息するなってのと一緒なのですみません。 (『海の底』あとがきp451) 糖分多目のラブコメ要素を書いてるときは筆がノってる!って気がするもんね」 フジモリ 「そう思うよ。有川浩は自らを「ライブ型」と言い、登場人物、舞台を決めてばーっと書き始めるそうだ。(角川書店「野生時代」2007.1号p47に記載あり)で、設定(例えば手塚の性格)を深く掘り下げて(兄がいる)、さらにそれを深く掘り下げる(兄が「図書館未来企画」に所属している)。あの独特で小気味良い文体はそこに起因するんだろう。そしてあとからあとから設定を後追いしながらも破綻なくストーリィを紡げる「物語の基礎体力」は賞賛に値するね」 舞奈 「今作も、コミカルながら骨太な内容だもんね」 フジモリ 「全くだ。…そして、最後に「図書館」そのものに衝撃の出来事が訪れる」 舞奈 「稲嶺司令が茨城図書館の不祥事により引責辞任するのね。前作以上にすごい引きよ。図書館はこれからどうなるのかしら?」 フジモリ 「うーん。確かに図書館の「支柱」というべき稲峰総司令を失った図書隊は大きな痛手を負う。しかし、フジモリが思うに、有川浩はこれまでの作品、『空の中』や『海の底』なども含め、「組織に所属するプロフェッショナル」と「組織」に焦点を当て続けてきた。作者インタビューでも、 組織に属していると、どうしたって、理想の自分と組織の求めることの間に、齟齬というか、段差があって、その狭間でみんな、あがくわけじゃないですか。 「こんなものだよな」ってあきらめてしまう人よりは、その中でちょっとでも格好よくありたいとあがく人の方が、私は好きかな。格好いいと思っているんです。 (NBonline特集「“危機”に出でよ、日和らない上司!〜有川浩『図書館戦争』シリーズ」より) と言っている。個人の思想によって築かれた図書隊だけれど、その「思想」は隊員にきちんと伝わっている。 「稲嶺関東図書基地司令に敬礼−−−−−ッ!」 防衛部も業務部も後方支援部もごちゃまぜになって並んだ隊員たちが一斉に敬礼をする。敬礼に慣れていない業務部や後方支援部の敬礼が今ひとつ様になっていないのはご愛敬だ。(p338) こんな感じでね。 最終巻では求心力がある「個人」がいなくなっても図書隊が「組織」として存続できるかどうかの瀬戸際だと思うし、存続できると信じている」 舞奈 「そうね。これまでは笠原や堂上など組織からはみ出した主人公たちの破天荒ぶりに焦点が当たっていたけど、最後はきっちり組織の強さにフォーカスされる気もするわね。とにかく、今作も前作以上にいろいろ考えさせられ、楽しめ、ドキドキした一冊ね。最終巻が待ち遠しいわ。まさに起承転結の「転」。それが、今回の感想かしら?」 フジモリ 「あれ?フジモリの役割が取られてる…」 舞奈 「いやぁ、面白かったわぁ。早く最終巻でないかしらねぇ」 フジモリ 「それはいいんだけど、なんかフジモリの役割と舞奈の役割が入れ替わってないか?」 舞奈 「あら?気づいた?今回のテーマ「起承転結の「転」!」に併せて、私たちの役割も変化させてみたのよ」 フジモリ 「そ、そうなんだ」 舞奈 「それに誰からも突っ込みが来ないからネタばらしするけど、前回の『図書館内乱』書評で最初に「ネタバレ注意」と書いておきながら途中で私が「あと、ネタバレなしの書評なので詳細は伏せるけど、」って言ってたのは、「フジモリがネタバレ書評しようとしているのを知らずに私がネタバレなしの書評をしている」ってことをこっそり伏線として表現してたの。周到すぎてごめんなさいねぇ〜」 フジモリ 「誰もわかんないよ!」 舞奈 「わーん!後付けって言うなーっ!」 フジモリ 「言ってないって!」 舞奈 「あーもー!わかったわよ!白状するわよ!どーせこの書評もライブ型なんで後から面白おかしくこじつけてるだけよ!」 フジモリ 「言っちゃったよ!ぶっちゃけすぎだよ!」 舞奈 「…どう?やさぐれキャラにイメチェンしてみました。てへ」 フジモリ 「てへ、じゃ、ねえよ!」 |