| フジモリの脳内ラビリンス
〜a labyrinth in fujimori's brain〜 Onehundred-Twentysixth bookshelf 高殿円『カーリー 黄金の尖塔の国とあひると小公女』 |
セーラ=クルーの物語を知らない子は、たぶんイギリス中を探したっていないだろう。 舞奈 「今回取り上げるのは高殿円「カーリー〜黄金の尖塔の国とあひると小公女〜」です」 御影 「新顔やね」 舞奈 「そうね。この作者、「銃姫」や「カミングアウト!」などを書いているけど、今作はまたこれまでの作品とうって変わった小説ね」 御影 「オビに「ヴィクトリアン・ラブ・ストーリー」って書かれとぉね」 舞奈 「そうね。ヴィクトリアンでラブなのよ」 御影 「そのままやん」 舞奈 「そのままなんだからしょうがないじゃないのよ!」 御影 「い、いや、逆ギレせんでもええやん」 舞奈 「まあまあ。オープニングジョークということで」 御影 「ジョークちゃうし!」 舞奈 「というわけであらすじお願い、御影」 御影 「うう。相変わらずマイペースやなぁ。えーっと、 舞台は1900年代中期英国領インド――海に面した小さな都市パンダリーコット。祖国イギリスを離れインドに移り住むことになったシャーロット=シンクレアは、現地の女学校で東洋の宝石ともいうべく黒い瞳の美少女、カーリーと出会う。美しくも聡明なカーリーに惹かれ、急速に親しくなっていくシャーロット。しかし、この小さな出会いが、この神秘の国に新たな風を吹かせることになるのだった――。 ちゅう話や」 舞奈 「この物語はヴィクトリア王朝時代の面影が残る英国領である、インドが舞台なの。ヴィクトリアっていうのはイギリスで最も輝かしい時代を築いた女王ね」 御影 「懐かしいわぁ。世界史の時間にやったなぁ。「君臨すれども統治せず」っちゅうやつやね」 舞奈 「ヴィクトリア女王の時代、イギリスは世界各地を植民地化して一大植民地帝国を築き上げ、ヴィクトリアは「インド女帝」の称号を得てるわ。「君臨すれども統治せず」というモットーによって議会制民主主義を貫いて、彼女の寵愛するベンジャミン・ディズレーリ、そして、良き夫であるアルバートの助言によってイギリス帝国を繁栄させたの」 御影 「おお、博識や」 舞奈 「以上、wikipediaの情報から」 御影 「丸写しかいっ!」 舞奈 「もっとも、今作はヴィクトリア王朝時代からちょっとあとね。1939年、世界情勢がちょっと不穏になりつつある頃よ。英国領であるインドも一部独立運動の機運が高まってきている。舞台は英国支配下の北インドにある、海に面した小さな都市、藩王国パンダリーコット。物語は、主人公シャーロットが当地で駐在大使を務める父からの招来を受けてロンドンを離れ、インドへと渡航して海沿いの街にあるオルガ女学院に入学するところから始まるの」 御影 「港に入る途中で、シャーロットは学院の教会の上の十字架の上でたたずむ一人の女の子を見かけんねんな」 舞奈 「…えーっと、その表現次回ツッコミね」 御影 「なんでやねん!」 舞奈 「読んできゃわかるわよ。天使かと見まがうばかりのその子の名前はカーリー。黒髪と黒い瞳を持つ、美しく神秘的な存在。シャーロットにとって、運命の出逢いだった」 御影 「んーで、シャーロットは寄宿学校に入学すんねんな」 舞奈 「学院はいわば花嫁学校。淑女の嗜みを身につけるための授業。シャーロットは学校そのもの、ひいては「女性のありよう」について疑問を抱きながらも、学校生活、そしてカーリーとの日々を楽しんでいくの」 御影 「シャーロットっちゅう主人公もおもろいなぁ。ちょっとボケとぉようにみえて、いや、実際ボケてんねんけど、時々思う疑問や行動は周りの人間をどきっとさせよる」 舞奈 「そうね。彼女の考え方そのものは、現代の人々にとっては「当たり前」のことかもしれないけど、当時の人々、特にオルガ女学院のような保守的な場所ではさらに異質なの。でも、カーリーはその考え方に同調するわ。 「鋼鉄の枠を、なくしたい」(p85) それは、学校の制度、シャーロットやカーリーという「少女」という位置、「女性」に対する考え方、イギリスの官僚制度、インドの複雑な身分制度など全てを含んだ言葉なの」 御影 「うーん。社会派小説なんやねぇ」 舞奈 「ところが、物語そのものはそんなに重苦しくないわ。オルガ女学院に入学したシャーロットは、カーリーとともに学校生活を満喫する。もちろん楽しいことだけじゃなく、いじめっ子や厳しい先生など辛い出来事もある」 御影 「いじめっ子!縦ロール!うーん、王道やねぇ」 舞奈 「作者が自身のブログで言ってるけど、 世界名作劇場、 アニメで復活しないなら自分で書いてやる! と、一大決心してできあがったのが、これです。 といわゆるアニメのハウス名作劇場を意識してるのよね」 御影 「そぉいや、シャーロットも「小公女」に憧れて、「真夜中のお茶会」を開いたりしてんねんな」 舞奈 「小公女セーラ!懐かしいわぁ」 御影 「そやなぁ」 舞奈 「当時、小公女と小公子と紹興酒の区別がつかなかったのよねぇ」 御影 「ちゃう!最後のはちゃうって!」 舞奈 「居酒屋で「小公女ボトルで!」とか言っちゃったりしたっけ。てへ」 御影 「言わんわ!どんな思い出やねん!」 舞奈 「まあまあ。セカンド・ジョークということで」 御影 「セカンド!そんなマイルストンいらんて!」 舞奈 「とにかく、縦ロールのいじめっ子、真夜中のお茶会、怪しい隣人などシチュエーションは王道よね」 御影 「いじめっ子には双子のお付きがついとぉし、シャーロットの友達も関西弁の子や、メガネでおどおどしたドジっ子がおるし、そのやりとりを読んでるだけでニヤけてくるなぁ」 舞奈 「そうね。まあ、その「王道」については次作の書評で語ることにするわ」 御影 「そうなん?…んーで、「マリア様がみてる」みたいな女子寄宿舎学園物語が進められていくねんな」 舞奈 「ところが、途中から物語はその舵を異なる方向に向けるわ。シャーロットと、彼女の国を取り巻く不穏な動き。彼女は、偶然に、そして必然にその「動き」に巻き込まれていくの」 御影 「あれ?学園ものちゃうかったん?」 舞奈 「そう簡単にいかないところがこの物語の面白さなの。前半は学園小説、そして後半ではその雰囲気を残しながらも、がらっと変わっていくのよ」 御影 「へぇ」 舞奈 「とは言っても物語は一貫して「シャーロットとカーリーの心の交流」を描いているわ。作者は「ラブ」って言い切っちゃってるけど、「恋」を意識し始める年齢の少女がその想いに戸惑いながら心を通わせていく」 御影 「青春やなぁ」 舞奈 「そうね。この物語、「20世紀初頭のインド、女学院を舞台にした青春小説」と言い換えてもいいかもしれない。「運命の恋」を通じてシャーロットは「成長」、そして「変化」していく。今作は「第一話」と冠されているけど、まずは物語の舞台、そして主人公シャーロットとカーリーを取り巻く人々や学校などの環境、そしてその「シチュエーション」に溶け込むための導入部分だと考えていいわ」 御影 「まあ、導入いぅても、単品で楽しめるほど「これでもか!」とエンターテイメント要素が詰まっとぉけどね」 舞奈 「そうね。シャーロットとともに学園生活を楽しみ、いじめっ子の仕打ちに「負けるな!」と声援を送り、そしてカーリーとの会話ややりとりに身悶えてほしいわ」 御影 「身悶えんのん!?」 舞奈 「まあ「ヴィクトリアン・ラブ・ストーリー」だから」 御影 「そういうもんなんや?」 舞奈 「そういうものなの。とにかく、アイヨシが「カミングアウト!」で絶賛したように作者の構成力や筆力は折り紙つき。安心して読むことができる。今まで言ってきた単語にアンテナがぴっと引っかかるようだったら一読の価値はあるわ。主人公・シャーロットとともに学校生活を満喫し、そして彼女を取り巻く情勢に翻弄されて欲しいわね。それが、今回の感想かしら?」 御影 「いやぁ、おもろかった。小公女セーラ!ハウス名作劇場!懐かしくも心躍るシチュエーションやわぁ」 舞奈 「そうね。「カーリーはハウス」って言うぐらいだもんね」 御影 「言ってもた!誰しも思うけどベタ過ぎて言うの恥ずかしいから言わへんダジャレを言ってもた!」 舞奈 「うるさいわね。王道のシチュエーションなんだから王道のボケでいいのよ」 御影 「ま、まあ、そうかもしれんな。寄宿舎生活なんて、経験したこと無いだけに逆に憧れるもんなぁ」 舞奈 「そうね。で、自分のかつてのイベントと照らし合わせるのよね。真夜中のお茶会とか」 御影 「え?舞奈、真夜中のお茶会とかしたことあるん?」 舞奈 「もちろん」 御影 「ふわぁ。すごいわぁ。憧れるわぁ。…んーで、どんな感じやったん?」 舞奈 「そうね。堅苦しい寮生活の中の唯一の楽しみだったわ」 御影 「ふんふん」 舞奈 「夜中に寮を抜け出して…」 御影 「ん?」 舞奈 「洞窟に集まって詩を朗読しあったのよね…」 御影 「こらこらぁっ!それ、真夜中のお茶会ちゃうくて、「死せる詩人の会」やろがぁっ!」 舞奈 「いまを生きろ!」 御影 「わけわからんわっ!」 |