フジモリの脳内ラビリンス

〜a labyrinth in fujimori's brain〜

Onehundred-Twenty-fifth bookshelf
大西科学『ジョン平とぼくと』





ジョン平は、犬である。


フジモリ 「今回取り上げるのは大西科学「ジョン平とぼくと」です」

舞奈 「あら、初めて聞く作者ね」

フジモリ 「そのとおり。作者(になるのかな?)、大西科学とは架空の研究所のことで、その中の研究所員の一人であるジャッキー大西という人が書いたという設定だ」

舞奈 「ふうん。つまり、「三軒茶屋」という芸名でコントをするようなものね」

フジモリ 「コント関係ないって!余計わからなくなってるって!まあ、大西科学というサイトについては実際ご覧になっていただくとして、今回は小説「ジョン平とぼくと」について書評をしたい。とりあえず、舞奈、あらすじお願い」

舞奈 「はーい。

舞台は「科学」と「魔法」の立場が逆転した世界。人々は魔法を使い、使い魔と一緒に生活してるけど、火を点けるならライターを使い、戦争するなら銃を使う、そんな世界。魔法の苦手な主人公、北見重は大した能力もなさそうな使い魔・ジョン平とともにうだうだと日々を過ごしている。
そんなある日、重の通う高校に新任の物理化学教師がやってくる。それと同時に学校にはおかしな出来事が起こるようになり…。

という話です」

フジモリ 「この作品の舞台は現代。しかし今フジモリたちがいる現代とちょっと違う」

舞奈 「魔法が発達した社会なのよね」

フジモリ 「そう。作者インタビューにもあるとおり、「魔法が科学を駆逐した」世界だ。言わば、「科学が魔法を駆逐した」フジモリたちの世界と真逆に位置する」

舞奈 「「のび太の魔界大冒険」みたいなもんね」

フジモリ 「ま、まあ確かにそうだけど…」

舞奈 「魔法が勝った世界ということは、科学は存在してないの?」

フジモリ 「そういうわけではない。確かに明日の天気は「気象庁が予想」するのではなく、「占術庁が予言」する世界ではあるし、学校では魔法が修業科目になっているけど、移動するのは自動車だし、人を殺すなら銃のほうが速いし強い。そんな世界だ」

舞奈 「ふーん」

フジモリ 「つまり、魔法と科学が共存している世界であり、この作品は科学的虚構(サイエンス・フィクション)というよりも社会的虚構(ソサイエティ・フィクション)に近いのかもしれないね」

舞奈 「なるほど」

フジモリ 「そしてその「魔法」の描写も面白い。

「ランドセル。かえで。ろうそく。ぶどう酒。くじら」(p16)

これが「つむじ風」の魔法なんだ」

舞奈 「え?何これ?よくわかんない」

フジモリ 「そう。解説で小川一水も言ってるけど、「なんだかわからないもののが魔法」なんだ。関連性のない幾つかの単語をイメージし、唱えることで魔法の効果が発動する。詩的だよね」

舞奈 「そうねぇ」

フジモリ 「魔法が日常的に存在するという世界を違和感無く書いている。これは、作者の筆力のなせる技だと思うよ」

舞奈 「確かに。…そうだ、魔法だけじゃなくって、この世界、すべての人に「使い魔」がいるのよね」

フジモリ 「そう。すべての人が「使い魔」を持っている。猫、犬、カナリア、パンダなど様々な動物が使い魔として「ご主人様」と行動をともにしているんだ」

舞奈 「ぱ、パンダ!?」

フジモリ 「主人公、北見重(きたみしげる)の父親の使い魔はパンダだ。使い魔は人語を解し、喋り、それぞれ固有の「特殊能力」を持っている。重の幼なじみである鈴音の使い魔の黒猫トルバディンの特殊能力は「写真記憶」だし、友人浜野の使い魔の白烏ダガーの特殊能力は「穿孔」だ」

舞奈 「へー」

フジモリ 「そして使い魔はご主人様の死後もその意志を継ぎ生きる。重の父親は他界してしまったが、使い魔であるパンダ、エンダーは父親代わりに重に説教したりご飯を作ったりするんだ」

舞奈 「変わった世界ねぇ」

フジモリ 「そんな魔法の世界の中で、主人公北見重は使い魔「ジョン平」とともに、うだうだと学校生活を過ごしているわけ」

舞奈 「ジョン平という名前といい、なんか気が抜けるわねぇ」

フジモリ 「そうだね。いい意味で「ゆるさ」が出ているし、ジョン平の喋り方といい、作品のほんわかした雰囲気を良く醸し出してるよ。

「おはよう、しげる、おきた、か」 
 ぼくはぼうっとしたまま答える。
「ああ、ありがとう、ジョン平。起きたよ、もう大丈夫」
「じゃ、やくそく、してた、さんぽいこう、しげる。いいてんきだ、よ」(p7)

こんな感じ」

舞奈 「でも、重は落ちこぼれなのよね」

フジモリ 「この世界ではね。重は魔法が苦手な落ちこぼれだ。しかし、この世界では魔法と対称的な位置にある「科学」を、そして物理や化学、数学といったフジモリたち現実世界に存在している事柄に自身の才能を見出し、没頭している」

舞奈 「・・・それって、こっちの世界で例えると「勉強苦手だけどオカルト好き」ってこと?」

フジモリ 「微妙に違うような。とにかく、主人公である北見重の描写や性格が非常に親近感を持てるんだ。言わば、いかにもな「文系少年」てわけ」

舞奈 「文系?文系理系の文系?」

フジモリ 「違う。文化系のこと。体育会系の反義語。非社交的で、友達の輪からちょっと外れたところにいて、変に世を拗ねた目で見ていて、女の子と話をするときに緊張する。かつて(現在形でも可)文系少年だった人は、「あー、そうそう」と感情移入しちゃうんじゃないかな」

舞奈 「北見重はオレだ、オレなんだよ、ブチャラティッ!(泳ぎながら)」

フジモリ 「ナランチャかよ!」

舞奈 「でもまあ、そんな感じでしょ?過去を思い出して、身悶えて「わー!」と大声出したくなるような感じ」

フジモリ 「そうなんだけど、舞奈に言われるとなんか腹立つなぁ。以前「時をかける少女」書評で語った、「戻ってやり直したい過去」ではなく、「戻っても繰り返したくない過去」がこの作品の中にあるんだ。フジモリも読んでて、思わず身悶えするぐらい辛くなったり恥ずかしくなったりしたよ」

舞奈 「ふーん(かわいそうなものを見る目つき)」

フジモリ 「その目やめい。で、この小説はそんな北見重とジョン平のほのぼの学園生活を中心に描かれているんだけど、そんなある日、重の通う高校に新任の教師がやってくるんだ。でそれと同時に学校にはおかしな出来事が起こりはじめる。クラスメイトたちの「使い魔」が暴走したり、失踪したりするようになるんだ」

舞奈 「お、サスペンスの予感」

フジモリ 「途中、いい意味で緊張感は出るけど、基本は北見重とジョン平とのほのぼの。そして、北見重は落ちこぼれているがヘタレたりせず、しっかりと前を向いて生き、そして成長していく。事件に立ち向かう北見の成長は、感情移入していればしているほど爽快なカタルシスを得るよ」

舞奈 「そうね。自分に無かった過去を、物語を読んで補完してるのね…」

フジモリ 「だからそういう言い方はやめい。とにかく、しっかりした世界観のもと、これまたリアリティ溢れる「文系少年」が主人公のこの話。気の抜けた使い魔ジョン平の存在もあり、読み手をほのぼのさせるよ。そして、主人公の成長や苦悩に読者が一喜一憂する作品だ。超大作ではなく丁寧につくられた佳作と呼ぶべき作品だけど、ライトノベルでありながら単なる「青春小説」として楽しく、そして身悶えしながら読めた。北見重とジョン平の今後を読みたくなる、愛すべきキャラクタと世界が詰まっている小説。特に過去「文系少年」だった人にお勧めしたいな。それが、今回の感想かな?」




フジモリ 「いいなぁ。ジョン平。フジモリも使い魔がほしいなぁ」

舞奈 「そうね。フジモリって実家に帰るたびに飼い犬に吼えられてるものねぇ」

フジモリ 「う、うるさい。犬には忘れられてるが猫には懐かれてるぞ!」

舞奈 「ああ、たけいが鼻にワサビを塗った猫のことね」

フジモリ 「実話だけど関係ないって!」

舞奈 「いまだにたけいが家に来ると逃げるのよね…」

フジモリ 「内輪ネタはやめろってば!」

舞奈 「そう、文系少年だった頃の思い出…鼻にツンとくるわ…あ、涙が…(ワサビの匂いを嗅ぎながら)」

フジモリ 「文系関係ないって!うまいこといって締めようとするなぁっ!!」



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