| フジモリの脳内ラビリンス
〜a labyrinth in fujimori's brain〜 Onehundred-Twenty-fourth bookshelf 有川浩『レインツリーの国』 |
もし私が幸せになってもいいのなら、どうかあの人と少しでも長く一緒にいられますように。 どうか、あの人が私を幸せにしてくれたように、私もあの人を少しだけ幸せにできますように。 意固地な私があの人をあまり傷つけずに済みますように。 舞奈 「どーも」 御影 「なんやねんいきなり」 舞奈 「あなただけの舞奈です」 御影 「わけわからんし。しかも前回と言っとぉことがちゃうし」 舞奈 「今回の小説に合わせてみました」 御影 「ん、ま、まあ、確かに今回の小説は恋愛小説やけど」 舞奈 「今回取り上げる本、有川浩「レインツリーの国」は、前回書評しました「図書館内乱」(「図書館シリーズ」2作目の本です。1作目は「図書館戦争」ですので未読の方はご注意を)に登場した本です」 御影 「この本をきっかけに、どえらい事件が巻き起こったんよね」 舞奈 「そうね。で、この架空の本を自ら書いてしまったのが作者、有川浩のすごいところ。例えるなら、木尾士目「げんしけん」に登場する作中作「くじびきアンバランス」を本当に漫画化、アニメ化したようなものね」 御影 「例えは合っとぉけど、わかる人にしかわからんような…」 舞奈 「まあまあ。勢いってことで。というわけで、御影、あらすじ行ってみよう!」 御影 「えらいテンション高いな。んーと、 中学生の頃に読んだあるライトノベルを思い出し、その感想をネットで探していた新米社会人向坂伸行は、あるブログに辿り着く。 タイトルは「レインツリーの国」。 彼はそのブログの管理者ひとみに向けて一通のメールを出した。そして、それがすべての始まりだった。メールのやり取りを続けるうちに心を通わせる二人。ある時、伸行は二人で会って直接話をしたいと提案する。 しかし会うのを拒むひとみ。 彼女の頑なな態度には、ある理由があった…。 ちゅう話や」 舞奈 「今回は未読の方向けにややネタバレ控えめで行くわね。まずは導入部分」 御影 「この新米社会人、向坂伸行がネット上でとあるライトノベルの感想を探したのが物語の始まりやねんな」 舞奈 「中学生の頃読んで嵌まったライトノベル、っていうのがミソなのよね。今でこそ、読んだ本のタイトルで検索すれば意見を持っている人がたくさん見つかるけど、昔は仲間内で話すだけの限られたものだったの。フジモリだって当時読んだ本の感想を語り合ったアイヨシやたけいと未だにこうして一緒に書評サイトとかやってるけど、これって結構レアなケースだと思うわ」 御影 「まあそうやなぁ」 舞奈 「ドイツ語で言う「腐れ縁」ってやつ?」 御影 「ドイツ語では言わへん」 舞奈 「えー、じゃあ、クシュカ語で言う「類は友を呼ぶ」ってやつ?」 御影 「クシュカ語って何やねん!言っとぉことは合っとんやから、回りくどいことせんでもええやん!」 舞奈 「まあまあ。回りくどさこそ恋愛の本質じゃない」 御影 「いきなり悟ったようなこと言いよんなぁ」 舞奈 「てなわけで、この伸行の「誰かと読んだ本の感想を語りたい!」という気持ちはすごくわかるし、管理人ひとみが「誰かに読んだ本の感想を伝え、共有したい!」という気持ちもすごく共感したわ」 御影 「そやなぁ。まがりなりにもこうやって書評サイトとかやっとぉし、この広いインターネットの海に、手紙を入れた瓶を浮かべるように「誰か」に気持ちを伝えたい、ちゅう気持ちは良ぉわかるわぁ」 舞奈 「そして伸行が辿り着いたブログ「レインツリーの国」。伸行は感想を「共感」し、「共鳴」したの」 御影 「正確に言うと、同じ本を読んだという「共感」から、その管理人に自分の声を伝えたくなったわけや」 舞奈 「ブログにしても普通の書評サイトにしても、読んだ側がその声を伝えるってことは凄く勇気がいることだと思うわ。私だって良く行くサイトがあっても、掲示板やブログにコメントを書くだけでかなりの度胸がいるもの。ましてやメールを書くなんてなおさらだわ」 御影 「そやなぁ。この「三軒茶屋」も掲示板に書き込みしてもろぉたり、たまにメールをいただくこともあんねんけど、フジモリたちも、めっちゃ感謝しとぉ言っとったもん」 舞奈 「それだけで書評が3作書けるぐらいのモチベーションになるって言ってたものね。まあフジモリの話はどーでもいいから話を戻すとして、「レインツリーの国」の管理人ひとみにメールを出した伸行に対して、ひとみから返信が来るの。お互いにその好きだったライトノベルの話題で盛り上がり、意見を交わすうちにだんだんお互いの心が近づいていく」 御影 「んーで、伸行が意を決して「会ってみよう」ちゅうわけやな」 舞奈 「しかし頑なに拒むひとみ。伸行は押し引き交え説得する。で、ついに二人は会う事になったわけ」 御影 「実際に会ぉて会話するうちに、伸行は違和感を覚えんねん。で、最後にその違和感の正体が明かされる。実は…」 舞奈 「「図書館内乱」既読の方はその理由はわかると思いますが、未読の方向けに若干伏せますと、彼女はあるハンディキャップを持ってたの」 御影 「ひとみは伸行にそれを隠したかったんやな。せやけど、それが逆に話をこじらせてしもぉてん」 舞奈 「そして、物語の真の始まりはここから。「理由」が分かったあとの二人のメールのやり取りは、まさしくお互いの想いをこれでもかとぶつける銃撃戦。そこには照れや建前なんか何もない、本音のぶつかり合い。伸行は「想い」をメールにのせてぶつける。 ケンカしようや。ガッチリやろうや。お互い言いたいことも溜まってると思うし、仲直りするためにケンカしようや。(p95) 有川浩っていう作者は、これまで「塩の街」「空の中」「海の底」など骨太なSFを書いていて、今作のような「直球ど真ん中恋愛小説」っていうのは初めてに等しいわ。でも、それまでの作品のような「地に足ついた」骨太な「言葉の銃撃戦」は、読む人の心に深く突き刺さる」 御影 「今回の話はハンデキャップを持っとぉ人とそうでない人との恋愛やけど、そもそも、恋愛にはお互いの「差異」をぶつけるフェーズが必ず発生するもんなぁ」 舞奈 「そうね。ひとみは「所詮、あなたは健常者で私の気持ちは分からない」と自ら溝を作る。しかしそれはハンディキャップという「わかりやすい」差異なだけで、実際どんな人たちだって多かれ少なかれ「差異」はあるわ」 御影 「そやなぁ。生まれた場所や家族、友人、歩んできた道程。考え方や身分もそうやし、そもそも男と女っちゅう時点で大きな「差異」やもんなぁ」 舞奈 「その「差異」による衝突っていうのは、恋愛を経験した人なら誰でもしたことがあると思う。恋愛っていうのは奇麗事だけじゃないっていうことをこれでもかと読者に突きつけてくる」 御影 「そしてそれが、この小説が奇麗事で虚飾された「恋愛小説」と一線を介するところでもあんねんな」 舞奈 「ひとみが築こうとする差異による「バリア」に逃げずに立ち向かう伸行。メールの口調が関西弁なこともあるのかもしれないけど、恐れずに「一歩」踏み込もうとする伸行の行動には胸を打たれるわ」 御影 「うん、やっぱ関西弁はええねぇ」 舞奈 「それはどーでもいいけど。で、そうやって二人は…」 御影 「スルーすんなや!」 舞奈 「いや、御影の関西弁を持ち上げる気は一切ないし」 御影 「うう、ひどい…」 舞奈 「まあまあ。話戻すけど、伸行がひとみから幾度となくひどい言葉を投げかけられてもへこたれずにメールのやり取りを続けたのは、やっぱり伸行がひとみのことを本当に好きだったからだと思うの。そうじゃなかったらこれほどまでに相手の間合いに踏み込もうとしないし、相手が作った壁を除こうともしないわ」 御影 「フジモリは「恋愛は男がキレたら負け」言っとったなぁ」 舞奈 「ふーん。勝ちとか負けとか言ってる時点で間違ってると思うけど」 御影 「こ、今回はいつにも増してズバっと斬るなぁ」 舞奈 「あんな恋愛偏差値の低い人の言うことまともに受けちゃダメよ。でもまあ、確かに一理あるけどね。伸行も「キレずに」ひとみとのやりとりを続ける。伸行の熱意と彼の考えに触れるにつれ、ひとみも「自分から壁を作っている」ことに気付いていくの。そして二人はもう一度会う事になったわけ」 御影 「せやけど、また衝突してまうねんな」 舞奈 「そして、ひとみは「レインツリーの国」を一時閉鎖してしまう。二人の「繋がりのきっかけ」を閉ざしてしまうの」 御影 「二人はこれからどうなるんか、最後は読者自身に確かめて欲しいわぁ」 舞奈 「そうね。この本、作者も意識してるけど直球ストレートの恋愛物。でも、それまでの作品と同じく地に足ついた骨太の作品。ハンディキャップを背負った人の苦悩やそれを取り巻く環境、二人がやり取りするメールなどリアリティに溢れていて、読者に「架空の物語」と意識させないほど作品に入り込ませているわ。恋愛はお互いの「差異」がぶつかり合い、その差異を「理解」し「受け入れる」ことから始まるんだと読者に気付かせるのよね」 御影 「なんや普段とキャラちゃうね」 舞奈 「余計な茶々入れない!…とにかく、伸行とひとみの「成長物語」でもあるこの本「レインツリーの国」。読み終わったあとに、読んだ人が少しだけ「優しく」なって、大切なパートナーに対し「ありがとう」と言いたくなるような物語だったわ。恋愛小説が好きな人にも、普通の恋愛小説に拒否反応を示す人にも薦められる恋愛小説。これが、今回の感想かしら」 御影 「ふわぁ、それにしても慣れない恋愛小説の書評したから疲れたわぁ」 舞奈 「そう?私は久々に素のキャラ出せて良かったんだけど。恋愛相談室のお姉さんキャラ」 御影 「いや、そんなキャラおらんし。素ちゃうし。初耳やし」 舞奈 「いいじゃないのよ!ちょっとぐらいいいとこ見せたいんだから!そんなに否定しなくてもいいじゃない!」 御影 「まあまあ。…せやけど、本のタイトルにもなったブログの名前「レインツリーの国」。ええタイトルやね。響きもええし、最後に明かされるタイトルの由縁もまたええわぁ」 舞奈 「それを言うならこのサイト「三軒茶屋」もいいタイトルだと思うんだけど」 御影 「なんでやねん!酒の席で勢いで決めたええ加減なタイトルやろが!」 舞奈 「そうね。アイヨシ、たけい、フジモリが幼少の頃過ごした三軒茶屋。子供の頃の思い出をいつまでも忘れないようにしようってサイトのタイトルにしたのよね…」 御影 「ほんもんの三軒茶屋は全然関係ないって!三人とも山梨出身やし!三軒茶屋と接点は全くないし!」 舞奈 「三軒茶屋リトルリーグでお互いポジションを競い合った頃が懐かしいわ…」 御影 「なに過去を捏造しとんねん!三人ともブラスバンド部やったやろが!」 舞奈 「うるさいわね!嘘の一つも吐けないようじゃ恋愛はやってけないのよ!」 御影 「今までの話と言っとぉことが全然ちゃうやろが!ええかげんにせんかいっ!」 |