フジモリの脳内ラビリンス

〜a labyrinth in fujimori's brain〜

Onehundred-Twenty-third bookshelf
有川浩『図書館内乱』(ネタバレ書評)


註!
今回の書評には内容に関するネタバレがあります。未読の方はご注意ください。



一冊の本を攻撃することは、その本を愛する人を傷つけるということだ。


舞奈 「どーも」

ドクトル 「い、いきなり「どーも」って…。えーっと、初めての方は初めまして。そうでない方はお久しぶりです。ドクトルです」

舞奈 「みんなの舞奈です」

ドクトル 「みんなって分けわかりませんよ。今回取り上げる本は、有川浩「図書館内乱」です」

舞奈 「事件は現場で起きてるんじゃない。会議室で起きているんだ!」

ドクトル 「いや、逆でしょ、普通」

舞奈 「んー。とある書評で使われたネタをパクってみました」

ドクトル 「パクっちゃ駄目でしょうが!」

舞奈 「まあまあ。今回取り上げる本、エンタテイメント要素たっぷりの作品なんだから、これぐらいのお茶目はいいでしょ」

ドクトル 「お茶目という言葉はどうかと思いますが…。まあ、いいです。今作「図書館内乱」は以前に書評しました「図書館戦争」の続編です。じゃあ、まずあらすじから。

相も変わらず図書館は四方八方敵だらけ!山猿ヒロインの両親襲来かと思いきや小さな恋のメロディを叩き潰さんとする無粋な良化「査問」委員会。迎え撃つ図書館側にも不穏な動きがありやなしや!?どう打って出る行政戦隊図書レンジャー!いろんな意味でやきもき度絶好調の『図書館戦争』シリーズ第2弾、ここに推参!

という話です」

舞奈 「まあ、基本的な舞台設定やキャラクタの話は前回フジモリと御影が話したんで割愛するとして、さっそく内容から入りましょうか」

ドクトル 「今回は起承転結で言うと「承」でしょうかね。前作で舞台や登場人物に多く筆を裂いた分、今作は読者がスムーズに物語に入っていけます。全部で5章に分かれていますが、5作の中篇という感じで独立して楽しめますね。しかしながら一本の事象が軸を貫いており、シリーズ(と、言い切ってしまいましょう)の全体像も見えてくるという、見事な構成です」

舞奈 著者インタビューで主人公・笠原郁をはじめとする主要キャラ5人を「行政戦隊図書レンジャー」と称したけど、今作ではこの5人をより深く掘り下げてるわよね」

ドクトル 「そうですね。前作で5人の紹介と立ち位置を明示し、今作でそれぞれに焦点を当てたエピソードを描いています。シリーズ全体の構想があるからこそ出来る技ですよね」

舞奈 「そうね」

ドクトル 「うーむ。見事な構成ですね。あ、ひょっとして、今回の書評も「各キャラクタに焦点を当てる」ことを意識して、私と舞奈さんで進めてる、ということなんでしょうかねえ」

舞奈 「あ、えーと、そうね。そういうことにしときましょう」

ドクトル 「…「しときましょう」ってどういうことですか」

舞奈 「あーうっさい!とにかく、この書評で初めて私を知る人もいるかもなんで改めて自己紹介しなくちゃね!初めまして、舞奈です。書評ではマイナなボケを担当しています」

ドクトル 「はあ」

舞奈 「マイナって言うな!ニッチって言え!」

ドクトル 「な、なんですかいきなり」

舞奈 「お約束なもんで」

ドクトル 「よくわからないんですけど…。まあいいです。改めて、初めまして、ドクトルです。書評ではデータベース担当です。一応冷静なツッコミ役です」

舞奈 「自分で「冷静なツッコミ役」とか言うと寒いわよ」

ドクトル 「今回の書評がキャラの掘り下げだから立ち位置を明示したんでしょうが!」

舞奈 「まあ、こんなやりとりに時間かけてもしょうがないわ。今作「図書館内乱」、各章の話をしていきましょうか」

ドクトル 「そうですね。まず第1章「両親攪乱作戦」。これは「行政戦隊図書レンジャー」のアカレンジャーこと主人公・笠原郁一等図書士に焦点を当てた話ですね」

舞奈 「前作「図書館戦争」で振ったネタ、「両親が訪ねてくる」をエピソードにしたのね。両親には最前線で戦っている自分の所属部署を隠さなければならない。さまざまな突発イベントにあたふたする笠原と両親のやり取りは、前作から引き続き、テンポのよいやり取りと小気味いい文章表現満載で、お腹を抱えて笑っちゃうわよね」

ドクトル 「それとともに、堂上、小牧をはじめとする図書特殊部隊(ライブラリー・タスクフォース)やルームメイト・柴崎らが笠原に対し固い絆と信頼で結ばれているのがわかりましたね」

舞奈 「あと、両親にとったら娘(息子もなんだけどね)はいつまでたっても子供なんだな、ということも感じたわ。まあ、これは余談なんだけど」

ドクトル 「第2章は「恋の障害」。笠原の上司である小牧幹久二等図書正が主人公です」

舞奈 「ミドレンジャーね。前作では笑い上戸、ソフトに見えて言うことがきついという、いわば冷静なツッコミキャラという位置付けだったけど、今作では意外と「熱い」キャラなんだってわかって面白かったわ」

ドクトル 「小牧の過去についても語られていますし、小牧と堂上の友情の深さについても感じ取ることが出来ました」

舞奈 「そうね。今作ではそれぞれのキャラクタについて焦点が当てられているのと同時に、キャラクタの相関関係についても焦点を当てているわ。前作でキャラクタの立ち位置を描き、今作ではキャラクタ同士の立ち位置を描いている。いわばゲシュタルトボードみたいなものね」

ドクトル 「マイナー過ぎて誰も分かりませんよ!」

舞奈 「あと、ネタバレなしの書評なので詳細は伏せるけど、この「図書館戦争」「図書館内乱」の世界のキーワードである、表現を取り締まる法律「メディア良化法」の悪用についても語られてたわよね。読みたい本が読めないだけではなく、言いたいことも言えなくなってしまう、または言ったこと、行ったことが曲解される危険性があるという「事件」が今回発生するの。この「図書館」シリーズの世界は「メディア良化法」が成立し図書館が表現の自由を守るため自立、武装化した世界を舞台としてるわ。前作の書評では「半歩先の世界」と称したけど、「ありえない未来」ではなく「ありえる未来」なの。例えば2006年2月10日に自由民主党の行政改革推進本部は、国立国会図書館を独立法人化するよう両議院長に提出している。「図書館」シリーズは完全な「社会的虚構(=ソサイエティ・フィクション)」ではなく、「ありえるかもしれない世界」として非常に身近な怖さを感じたわね」

ドクトル 「そうですね。そしてそれを一番感じたのは第3章「美女の微笑み」。モモレンジャーこと柴崎麻子一等図書士が主人公です。話の軸は柴崎女史に言い寄る謎の美男子と柴崎女史のやり取りなのですが、ここで取り扱われる話題が「図書館による閲覧制限」。この「図書館内乱」が出版されるまさにその日、幾つかの図書館が、とある未成年が起こした事件において実名を記載した新聞を閲覧制限しました」

舞奈 「知る権利は絶対なのか。それを「図書館」が判断し、自ら「閲覧制限すること」の意味。非常に考えさせられたわね」

ドクトル 「あとは、クールな毒舌で情報屋のキャラである柴崎が、自らのキャラを維持する苦労も見え隠れして面白かったですね」

舞奈 「まさしく私と一緒ね!」

ドクトル 「さて、次は・・・」

舞奈 「スルーしないでよ!」

ドクトル 「いや、キャラ、全然かぶってませんから。さて次は第4章「兄と弟」。キレンジャーこと、笠原の同期、手塚光一等図書士が主人公です」

舞奈 「この話の中で「ラスボス」(であるかと思われる)の組織の正体が明かされるわ。手塚の兄である手塚慧が設立した組織「図書館未来企画」。組織の目的など詳しい内容は5章に回すけど、手塚光の思想の根底にあるものや生い立ちをこの章で掘り下げているわ」

ドクトル 「この話で感じたのは、「書評」のあり方ですね。この章では、小牧が関東図書館(笠原たちが所属しているところね)のHPで、本の「批評」コラムが掲載されているのを発見するところから始まります。第3章から就任した新館長は「バランス」をモットーとした人で、その思想から閲覧制限をしたり、「お奨め図書」のアンチテーゼとして「一刀両断レビュー」という「批評」を許可します。しかし、本の閲覧というサービスを提供する立場の者が本を「貶して」いいものなのか。まあ、これに対する解は、堂上の言葉である

「(中略)視点の軸を否定に据えるのは公共サービスとして健全ではないだろう」(p219)

に集約されていると思いますけど」

舞奈 「そうね。私たちも様々な本を書評してるけど、「自分達が奨める本しか書評で取り上げない」。他の本は「可能な限り」貶さない、という立ち位置からぶれないことを心がけているわ。それこそ、どんな本でも、その本を好きな誰かがいるんだから」

ドクトル 「別に「批評する」人を批判しているわけではありません。ニーズがあるからこそ「批評」が存在するんですから。でも、

一冊の本を攻撃することは、その本を愛する人を傷つけるということだ。(p241)

という考えを常に頭に置き、胸襟を引き締めて書評していきたい、と思いました」

舞奈 「まあ、こんなふうに、エンタテイメントの中にたくさんの「考えさせられること」があるっていうのは前作から引き続いている要素よね」

ドクトル 「そして最後は第5章「図書館の明日はどっちだ」。アオレンジャーこと堂上篤二等図書正、そして再び笠原郁が主人公のお話です」

舞奈 「前章で「査問会」に召集された笠原。容疑は「在庫の焚書」」

ドクトル 「そして、この「図書館による在庫の処分」という事件も前例があります」

舞奈 「えーっと、ソースはアイヨシが調査したものなのでいずれ「週刊さんちゃ」で話題にしてくれると思います」

ドクトル 「ぶ、ぶん投げちゃいましたね…」

舞奈 「まあまあ。「図書館」シリーズはアイヨシ的な視点で語っても面白い小説なんだし、そこは餅は餅屋でいかないと」

ドクトル 「うーむ。じゃあ、アイヨシさんお任せしました。で、この査問会と並行して手塚兄の「図書館未来企画」の陰謀(というほど「悪」ではないんですけど…)が明らかになるわけですね」

舞奈 「手塚兄は「図書館中央集権主義者」であり、地方自治、独立組織である現在の図書館の考え方を真っ向から否定しているわ。現状の「検閲」というメディア良化法に対抗するため、図書館を国家組織に組み入れ、「メディア良化法」を一度受け入れたうえでその「検閲」の幅を狭めるよう進めていくことを最終目的としているの」

ドクトル 「確かに、「今、この本を読めること」に目をつぶり、「将来的にこの本が読める(かもしれない)こと」を勝ち取る、という考え方には一理あると思いますが…」

舞奈 「でも、第2章であったように、一度成立したことが悪用される危険性もあるわ。そして、「読めるかもしれない」というのはあくまで可能性であって確約されたものではないの。作品内での現状の「図書館」の立ち位置が「1歩ずつ進もう。下がらないようにみんなで努力しよう。最終的に10歩進もう」ならば、図書館中央集権主義は「10歩進むために今は9歩退こう」というもの。みんながみんなはこの意見に賛同できないと思うし、9歩下がった状況のままである可能性もあるわ。更に恐ろしいのは、「9歩下がることができるなら10歩下がることも出来る」という口実を与えてしまうこと。これは今作の「図書館」に関することだけではなく、今、私達を取り巻いている全てのことに言えると思うわ」

ドクトル 「いつに無く社会派ですね」

舞奈 「マイノリティは差別と弾圧と偏見からの解放をアイデンティティの一つとしてるもの。他人事じゃないのよね」

ドクトル 「で、物語はこの手塚兄の考え方に、笠原や堂上がどう向かっていくか、というお話です」

舞奈 「で、最後にとてつもないサプライズがあって「次巻に続く!」なのよね」

ドクトル 「これ以上ないほどすごい引きですよね。ほんと、シリーズ全体の構想があってこそ出来る引き」

舞奈 「大人の余裕よねぇ〜」

ドクトル 「わけわかんないんですけど」

舞奈 「言ってみただけ。とにかく、今作「図書館内乱」では、前作で語られた「世界」や「キャラクタ」(キャラクタ個人と各キャラクタの関係性)をより深く掘り下げ、前作が楽しめた人なら否応なしに楽しめること間違いなし。そして前作以上にエンタテイメント色が強く、ラブでコメしながらも読者に色々と考えさせるわ。何も考えずに読んでたら、何も考えずに楽しめるんだけど、結局のところ考えさせられちゃうという不思議な気分ね。早く次巻が読みたい!と誰しもが思う小説。これが、今回の感想かしら」




ドクトル 「それにしても、今作も楽しめて、ためになりましたねぇ」

舞奈 「ほんと、教育番組みたいよね。ねぇモグタン」

ドクトル 「誰がモグタンですか!」

舞奈 「いや、もののはずみで」

ドクトル 「どんなはずみですか。まあ、オスカー・ワイルドじゃないですけど、「自然が人工を模倣する」という言葉に相応しい内容でしたよね」

舞奈 「そうね。書かれている内容は「明日の」私達に起こりうる話かもしれないものね」

ドクトル 「この書評では言及していませんけど、

「お膳立てされたキレイな舞台で戦えるのはお話の中の正義の味方だけよ。現実じゃ誰も露払いなんかしてくれないんだから。泥被る覚悟がないんなら正義の味方なんか辞めちゃえば?」(p66)

というように、自分達の働いている場所が完全な善ではないという自己矛盾を抱えながら笠原は職務を全うし、「読者」のために戦っています。「内乱」というタイトルの通り、今回は「身内」との戦い、という意味合いが込められています。次巻ではこの部分にも深く斬り込んでいくんでしょうね」

舞奈 「そうね。…まあ、信念を貫くための身内との戦いって、別にこの本に限ったことではないんだけどね」

ドクトル 「え?それはどういう…」

(遠くから)フジモリ 「さ、今回は「図書館内乱」の書評だな」

(遠くから)御影 「いやあ、今回もおもろかったなぁ。はよ語りたいわぁ」

ドクトル 「え?(舞奈を見る)え?、どういうことです?」

舞奈 「と、いうわけで、あとよろしくね〜。私は「出番を増やしたい」という信念のために戦い続けるの…(と言いながら去っていく)」

ドクトル 「え?え?」

フジモリ 「あれ、どうしたの、ドクトル」

御影 「これから「図書館内乱」の書評すんねんけど、一緒にまざる?」

ドクトル 「え、えーっと…」

(遠くのほうで)舞奈 「悲しいけれど、これも戦争なのよね…」

ドクトル 「って、こらぁっっ!!」



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