フジモリの脳内ラビリンス

〜a labyrinth in fujimori's brain〜

Onehundred-Twentieth bookshelf
有川浩『図書館戦争』





本を焼く国ではいずれ人を焼く、言い古されたその言葉は反射のように脳裏に浮かんだ。


フジモリ 「事件は現場で起きてるんじゃない!図書館で起きてるんだ!」

御影 「いや、別に事件起きてへんし。ここ図書館ちゃうし。そもそも事件が起きた場所が現場やから」

フジモリ 「うまく書評に入ろうとしてるんだから冷静に突っ込んで話の腰折るなよ!」

御影 「ふふん。正しく使う正論は武器やねん」

フジモリ 「お、作品内で出たキーワードだね。ということは御影も読んだんだ」

御影 「そやね。めっちゃおもろかったわ」

フジモリ 「というわけで紹介が遅れましたが今回取り上げる本は有川浩「図書館戦争」だ。作者、有川浩は「塩の街」「空の中」「海の底」など骨太なSFを書く作家で、今作もまたその手腕が遺憾なく発揮されている。ライトノベル出版社がハードカバーという形体で出版しているところからも、この作者にかける期待と意気込みが伝わってくるね」

御影 「「塩の街」では塩、「空の中」ではバルンガ、「海の底」では巨大エビが主人公やったんよね」

フジモリ 「いや、主人公じゃないけど。しかも「空の中」に出てくるのはバルンガじゃないし。とにかく、今回の舞台は図書館だ。ではまず、あらすじをお願い」

御影 「はいな。

時は正化31年。昭和最後の年に公序良俗を乱し人権を侵害する表現を取り締まる法律として「メディア良化法」が成立、施行されて30年経っていた。武力をも行使して出版物を検閲するメディア良化委員会に対抗し、図書館は図書隊という自前の防衛部を所持するようになった。
主人公、笠原郁はある出来事がきっかけで、女性では珍しく防衛部への配属を希望して図書隊に入隊した。郁は鬼教官の堂上にしごかれながら、一人前の図書隊員を目指すのだが……。

ちゅう話や」

フジモリ 「まず特筆すべきは物語の舞台。これまでの作品では塩やバルンガや巨大エビといういわば「現実ではありえない」存在が登場したけど、今回は「メディア良化法」といういわば表現規制の法律をきっかけに生まれた「架空の世界」。しかしながら本当にありえそうな「半歩先の世界」を描いている」

御影 「以前フジモリが話した、「社会的虚構(ソサイエティ・フィクション)」になるんかいな?」

フジモリ 「そうだね。そういう意味で、科学的虚構=サイエンス・フィクションであるこれまでの作品とは異なっているね」

御影 「せやけど、読みたい本が読めなくなるっちゅう世界は怖いわなぁ」

フジモリ 「ああ。フジモリにとっては最悪の未来だ。そしてそれに対抗するのは自衛権を持つ図書館。この「図書館が本(=表現)を守る最後の砦」というのも面白いね。図書館とメディア良化委員会の対立を軸に、実に足元がしっかりした世界観で物語が奏でられている」

御影 「んーで、その「正義の味方」図書館図書隊防衛部を志望するのが主人公の笠原郁。正義感の塊で猪突猛進という主人公という、直球過ぎて逆に珍しいキャラクタやね」

フジモリ 「しかし、女性では珍しく防衛部への所属を目指すという変り種だ。いわば、この「図書館戦争」の世界の中では異質な存在なわけだ。通常と異なる「世界」にさらにその世界で異なる「キャラ」を配置するというのはある意味冒険だ。通常ならば、「世界」の異質さを強調するために「通常」なキャラクタを置くからね」

御影 「んー。異世界の「私立リリアン女学園」に「通常」である庶民「福沢祐巳」を配置するようなもん?」

フジモリ 「ま、まあそんな感じだ。しかし、本作「図書館戦争」では図書隊やメディア良化委員会の存在など、通常のフジモリたちの世界と異なりながらも、非常にリアリティがある。そのため、「変り種」である笠原郁がその世界では異質ながらも読者から離れすぎない距離に存在しているように感じた」

御影 「つまり、浮きすぎない、ちゅうことかいな?」

フジモリ 「そうだね。それは笠原が「本が読めなくなる世界は嫌だ」という想いを持ち、読者と同じ目線に立っているからかもしれない。そして、笠原郁をとりまく人々も個性的だ。厳しいようにみえて温かい堂上と、ソフトそうにみえて実は言うことがきつい小牧の教官コンビ、美人で頭が良くて毒舌のルームメイト柴崎、さらに、エリートでことあるごとに笠原にライバル意識を燃やす同僚、手塚」

御影 「なんやTVドラマみたいやね」

フジモリ 「あとがきで作者が「月9連ドラ風で一発GO!」と書いてあるとおり、TVドラマ(例えば「踊る大捜査線」など)の文法を意識しているのは間違いない。そしてこれまでの作品と異なりコメディタッチであり、エンタテインメント要素を高めている。物語で取り扱っている内容がけっこうシビアで論争の火種となる要素を孕んでいるため、あえてコメディ風の味付けをしたんだと思うけど、それでも読者にはこの「半歩先の未来」という警鐘が心に響く」

御影 「そやなぁ。犯罪の原因を犯人の読書嗜好に押し付け、本を規制しようというのは現実でも起きかけとぉ流れやもんなぁ」

フジモリ 「規制をするのは簡単だが、これまで規制を行って犯罪率が減った試しがない。そもそも、昔に比べて少年犯罪って減ってるのにここ10年の記録を例にとって「以前より少年犯罪が増えています」と言い張ったり、あるいはそういった統計データすら出さず感覚論で話す人々がいる。そういった一律的な考え方にもアラームをあげているんだよね」

御影 「そういう意味では、図書隊は「正義の味方」やんね」

フジモリ 「ところがそうでもないんだ。組織である以上、一枚岩というわけではない。原則派と行政派という派閥の絡みがあったり、一方で「なぜ本を規制しないのか」「利用者の情報を提供するべきではないか(本来規約により利用者の情報を外部に提供することは出来ない)」という世論もある。国から補助がおりないこともあり、財政もアップアップ。そしてなにより、専守防衛である以上こちらから攻撃を仕掛けることが出来ない」

御影 「そやなぁ。何かを「否定する」ことは簡単やけど、「否定すること否定する」っちゅうのは矛盾を抱えるもんなぁ」

フジモリ 「他人の意見を否定してはいけない、という意見自体が他人の意見を否定しているからねぇ。とにかく、図書隊は正義の味方ではない。「正義の味方」を目指し図書隊に入った笠原郁もこの壁にぶち当たるわけだ」

御影 「それでも、郁は持ち前の正義感と猪突猛進でその壁を壊そうとするんやね」

フジモリ 「彼女の気持ちは周囲にも影響を与える。今作はシリーズ1作目ということもあり、図書隊や舞台背景の説明に多く筆を裂いているけど、座学が苦手な主人公に上司や同僚が教えるという形で読者に違和感無く知識を与えているね。読者はこの「半歩先の未来」を憂い、そしてその憂いを吹き飛ばす主人公笠原郁の行動にカタルシスを得るわけだ。
さらに、文章の表現方法も小気味よかったり表現が秀逸だったりする。

−−それはあれか、あたしに喧嘩売ってんのか売ってんだなよし買った!(p23)

とか、

「乙女が!乙女がここにいます軍曹ー!」(p149)

とか、クスリと笑ってしまうよね」

御影 「確かに。おもろいなぁ」

フジモリ 「今作「図書館戦争」はエンタテイメント色を濃くしているけど、現実離れしてはいない。それはこれまでの作者の地力に裏づけされた「世界を構築する能力」があるからだ。「図書隊が存在する近未来」という「世界」があり、その「世界」が「ストーリィ」を作り、そのストーリィの上で個性豊かな「キャラクタ」が生き生きと動いている、という印象を受けた。フジモリが今まで言っている、物語を構成する要素「世界」「ストーリィ」「キャラクタ」が見事にバランスよく融合している作品だ、と思ったよ」

御影 「なんやべた褒めやね」

フジモリ 「まあフジモリが本好きなのもあって、この世界に入り込みやすかったというのもあるけどね。主人公笠原の啖呵に胸をすっとさせ、鬼上司・堂上とのやりとりに声を出して笑い、そして図書館が「武装」する未来を想像し考えさせられた。エンターテイメントがいっぱい詰まった小説で、非常に楽しく読めたな。すべての本好きの人に送る、というとちょっとオーバかもしれないけど、読み手を選ばない作品だと思うので、ちょっとでも興味があったら読んで欲しいと思う。それが、今回の感想かな?」




御影 「うーん、おもろかったなぁ。エンタテイメントかくあるべし!ちゅう作品やった」

フジモリ 「エンタテイメントの殻に包みながらも読者に考えさせる要素を与える、って言うのは、フジモリの書評が目指すところでもあるんだけどね」

御影 「んーまあ、フジモリの書評にはリアリティないし」

フジモリ 「う。ま、まあ、確かに。ただ、会話風にして親近感もたせてるだろ?」

御影 「いや、そもそもほんまに読後の会話をイメージしてるんやったら、ネタバレなしで会話してること自体不自然やろが。ネタバレなしで本の会話をするっちゅうことはありえへん!(偏見)」

フジモリ 「い、いや、それを言っちゃおしまいだろうが」

御影 「ちゅうわけで、リアリティ出すためにも今からネタバレをするわぁ。いやぁ、再読するとネタがわかってるから余計おもろいよなぁ。笠原とアイツの会話とか…」

フジモリ 「こらぁっ!せっかく未読者に読んでもらおうとネタバレなしの会話をしてるのに台無しにするなぁ!」

御影 「うう。不当なネタバレに対する規制に断固反対するぅ!立ち上がれ!ガンダム!」

フジモリ 「最後のはわけわかんないよ!」



TOPページにもどる