フジモリの脳内ラビリンス

〜a labyrinth in fujimori's brain〜

Onehundred-Fifteenth bookshelf
森博嗣『すべてがFになる』(ネタバレ書評)


註!
今回の書評には内容に関するネタバレがあります。未読の方はご注意ください。



いいかい?西之園君……。一昨日の午後七時から、65535時間まえはいつ?


フジモリ 「さて、森博嗣「すべてがFになる」書評その2だ。今回はこの作品のトリックについて解説したい」

御影 「ん?フジモリがトリック解説って珍しいやん。普段は本の内容についてとりとめも無く漫談してるだけやけど」

フジモリ 「漫談の原因は御影たちだろうが!…まあ、確かにフジモリがミステリィのトリック解説をするのは珍しい。普段は「読者はトリックについてわかっている」前提で話をすすめているからね。しかし、よくよく考えてみるとこの本、「すべてがFになる」からミステリィに入った人もいるだろう。そういう方々はいわばミステリィの「文法」を初めて知る人もいるかもしれない。検索エンジンですべての書評にフラットに接する可能性がある現在、「トリックがわからない」「トリックの解説が知りたい」という人もいるだろうと思うんだ」

御影 「なるほど」

フジモリ 「で、一番多く森博嗣入門書になるであろう「すべてがFになる」のトリックを解説してみようと思ったわけ」

御影 「ふむふむ」

フジモリ 「というわけで以下は完全ネタバレ。未読の方は覚悟の上お進みください。また、今回の解説はオープンソース風に、ご指摘や質問あれば随時追加していきたいと思っているので宜しくお願いします」

御影 「はいなぁ」

フジモリ 「それともう二つ」

御影 「まだあるんかい」

フジモリ 「一つは、今回の解説根拠として同じく森博嗣作品「四季」を参考にしていること。「四季」自体のネタバレは入れていませんが、未読の方は気になる単語があっても無視してください」

御影 「なんやねんそれ」

フジモリ 「もう一つは、今回の「真実」をとりあえず「すべてがFになる」を「正」として解説していく、ということ」

御影 「は?」

フジモリ 「まあ、「すべてがFになる」およびS&Mシリーズしか読んでいらっしゃらない方などは気になさらず読み進めていただいて結構です」

御影 「ほんまわけわからんわ」

フジモリ 「まあまあ。ではまず最初に、今回の事件年表を提示する」

(表1…事件年表)


御影 「おお。こぉなっとんや。…にしても、なんで1994年って断言できるん?」

フジモリ 「これは、同じく森博嗣の「四季 秋」から。

「真賀田博士に興味があるのは、どうして?」
「みんなが探している」
「みんなって、警察?」
「そう、警察も」保呂草は頷いた。「殺人犯だ」
「無罪になったんだよ。その認識は間違い」(※1)
「九四年の方だよ」(※2)
「何も立証されていない」
「では、重要な参考人というべきかな」(p136)

(註:保呂草という単語がわからない方は気にせず読み進めてください)

このことから、「すべてがFになる」の事件は※2である1994年だとわかる。ちなみに、別の部分に「19.01.2001」という記載もあるので2094年という叙述トリックの可能性はない」

御影 「なるほど」

フジモリ 「「すべてがFになる」で行われる事件の前段階について説明しよう。真賀田四季が両親を殺したのは15年前の夏、14歳のときだ(解説(1)参照)。アイヨシが桜庭一樹「少女には向かない職業」の書評で説明している通り、殺人罪が適用できるぎりぎりの年齢だ」

御影 「ふむふむ」

フジモリ 「このとき、真賀田四季は妊娠4ヶ月だった(P443参照)。真賀田四季がミチルを産み、妃真加島で幽閉生活を始めたのが「すべてがFになる」事件の15年前。事件の絶対時間が1994年8月2日なので、ミチルが15歳になる日(すなわち誕生日)は7〜8月。その数ヵ月後に妃真加島に移ったんだろう(解説(2)参照)」

御影 「んーで、脱出決行日の65535時間前に今回のトロイの木馬を仕込んだ「レッドマジック・バージョン4」を起動させるわけやね(解説(3)参照」

フジモリ 「その通り。そして決行の3年前にダイエットで体調を崩したと偽り、真賀田ミチルと入れ替わる(解説(4)参照)。では、事件当日のタイムテーブルを」


(表2…事件当日のタイムテーブル)


御影 「まず、8月2日、犀川たちが妃真加島にキャンプに来た夜7時にトロイの木馬が起動したわけやね(解説(5)」

フジモリ 「そう。OS「レッドマジック・バージョン4」は忠実に命令を実行した」

御影 「そもそも、OSってなんなん?何で真賀田四季の部屋にロックかけたりとかいろいろできたん?」

フジモリ 「ではまずそこから説明しよう。OSとは「オペレーション・システム」の略。ものすごく簡単に言うとパソコンにあるアプリケーションを動かすおおもととなるソフトのことだ。windowsとかMS-DOSなんかがそうだね。アプリケーションというのはOSのもとでそれぞれの目的を実行するソフト。word、excelなんかが代表格だ。妃真加島のドアを閉めたり監視カメラの録画やデータ管理をするのも真賀田四季が開発したOS「レッドマジック」配下にあるアプリケーションソフト、というわけ」

御影 「ふむふむ。んーで、なんでこいつが悪さするん?」

フジモリ 「悪さの原因はいくつかあるけど、「バグ」というプログラム上の間違い部分や、「ウイルス」という攻撃対象であるプログラムを改ざんし本来の行動と異なる行動をさせてしまうプログラムなどが大きな要素だ」

御影 「そぉいや、最初に犀川研究室のコンピュータがウイルス被害にあっとったなぁ(P40)」

フジモリ 「あれは、コンピュータウイルスやトロイの木馬がどういうものかを説明する伏線だったってわけ。しかし真賀田四季が脱出できたのはバグやウイルスではない。そのプログラムそのものに「65535時間後、以下の動きをしなさい」というプログラムを入れたんだ。バグやウイルスではなく「規定の行動」のため、OSはエラーを検知できない」

御影 「なんで65535時間なん?」

フジモリ 「時間を数える単位を16進法とし、「FFFF」=(15×163)+(15×162)+(15×161)+(15×160)= 61440+3840+240+15 = 65535時間後に一連の動作が動くようプログラムしたってこと。16進法っていうのは、1の位を15まで数え、16になったら一桁繰り上がるようにする数え方のこと。普段フジモリたちが使っているのは10進法で、たとえば115というのは(1×102)+(1×101)+(5×100)に分解できるわけで、普段10以上の数は桁を増やしているけど、16進法では便宜的に10を「A」、11を「B」、12を「C」、13を「D」、14を「E」、そして15を「F」としている。だから、すべてが「F」になった瞬間にこの脱出劇を可能にした仕組みが動き出したってわけ。これはプログラムの一環であるからバグでもなくウイルスでもない。したがってエラーで検出されないんだ」

御影 「せやけど、ほんまにこんなこと出来るんかなぁ?」

フジモリ 「近い例として、以前「2000年問題」というのがあった。西暦を「19XX年」とせず「XX年」と下二桁だけでプログラミングしていたため、2000年になったときに下二桁が「00年」となり、システムが「1900年」と勘違いしてしまうことから全世界の様々な機械が誤作動してしまう可能性がある、という問題だ。これは「すべてが0になる」だね」

御影 「ほうほう」

フジモリ 「ともあれ、すべてがFになった時間、1994年8月2日19:00にプログラムは起動。そして23:00に真賀田四季の部屋のドアを開け、ウエディングドレスを着た真賀田ミチル(この時点では真賀田四季だと思われている)の死体とともに搬送ロボットを部屋から出した。皆が死体に気をとられている隙に真賀田四季は部屋から脱出した、ということだ(解説(6)参照)」

御影 「OS「レッドマジック・バージョン4」はトロイの木馬に仕込まれた「1994年8月2日23:01の監視カメラ映像データを1994年8月2日23:00に上書きしろ」という命令を実行したため、真賀田四季が脱出した1994年8月2日23:00〜23:01までの1分間の映像がなくなってしまい、真賀田四季から脱出した人がいない=密室状態を完成させたわけや」

フジモリ 「その通り。そして真賀田四季はエレベータで屋上に移動。これはP241などで萌絵が指摘している通り。そして屋上にヘリで到着した新藤所長のヘリに乗り込み、新藤所長を殺害。萌絵たちに「真賀田未来」として接触後、何食わぬ顔で階下に降りたわけだ(解説(7)参照)」

御影 「萌絵たちが新藤所長に会った時点で新藤所長は殺されとったってわけやね。しかし殺されたんに気付いたんはその30分後(解説(8)参照)」

フジモリ 「その時間には真賀田未来となった真賀田四季は自分の部屋にいる。つまりアリバイが成立しているわけだ」

御影 「せやけど、そう簡単に真賀田四季が真賀田未来に化けられるもんかなぁ?」

フジモリ 「まず、本物の真賀田四季は真賀田ミチルと入れ替わっているため、真賀田四季本人の姿は入れ替わった3年前から知られていない。見抜かれる危険性は少ないだろう。そして「真賀田未来」という存在だが、これは共犯者である新藤所長が前々から言っているのだろうし、妃真加島の研究所員は疑わないだろう。1994年なら「検索」という手段もまだ黎明期だったろうしね。バッグを無くしたことにすれば、手ぶらで妃真加島に降りたことも説明がつくし」

御影 「せやけど、真賀田未来って実在せぇへんのやろ?新藤所長の妻は真賀田四季の実家(山梨)で2〜3回会ぉた、言ぅてんねんけど」

フジモリ 「真賀田四季が新藤所長を経由して捏造したからだ。「四季 冬」で

「叔母様は、私の妹のことをお話しになるかしら?」
「ああ」新藤は頷いた。「ちゃんと言い含めた。お願いだ。彼女だけは、助けてやってほしいんだ」(p53)

というやりとりがある。
思えば、今回の事件で2番目に真実に近かったのは新藤所長の妻、裕見子だったんじゃないかな?(1番目は新藤所長)真賀田未来の存在が嘘だと知っているのは新藤所長を除いて彼女だけだ。そこから事件の真相にたどり着いてもおかしくない」

御影 「真実を告げたらまた事件は変わっとったんかなぁ?」

フジモリ 「うむ。難しいところだね。新藤裕見子が言い含められたのは「真賀田未来と実家で会ったこと」だ。真賀田未来の非存在そのものではないだろう。新藤裕見子が「夫・新藤所長に真賀田未来と実家で会ったことを言い含められるよう言われた」と糾弾しても真賀田未来(=真賀田四季)が「言い含めたこと」に対する適当な理由で言い負かし、真賀田未来が存在することを証明してしまうだろう。そして、真賀田四季を失った妃真加島の研究所のメンバとしては、存在しようがいまいが現にここに真賀田未来は「いる」のであり、真賀田四季の代理にするには「真賀田未来」という存在があったほうがありがたい。そんなわけで、妃真加研究所の所員たちを味方につけ、あとは同じ流れになっていくんじゃないかな?」

御影 「なるほど」

フジモリ 「真賀田未来として迎えられた真賀田四季は、島から脱出するタイミングを待ち、所内にいる。脱出に際し一番の危険は、島への船が来る前に警察に到着され足止めを食らうこと。そのためヘリの無線機を壊し(実際には新藤所長に壊させ)、トロイの木馬により通信を遮断した。真賀田四季は所内のメールを盗み見し、船が来るのは最短で8月4日の昼12時頃、儀同世津子がこの島に来る時だと知る」

御影 「せやけど、真実に気付いた山根副所長が「レッドマジック・バージョン4」をリセットし、他のOSに切り替えようと言い出したわけや」

フジモリ 「「レッドマジック・バージョン4」がリセットされ、他のOSに切り替わると通信遮断をしているアプリケーションをはじめ真賀田四季の逃亡を手助けするソフトが使えなくなってしまう。そこで船が妃真加島に着いて真賀田四季が脱出できる時間稼ぎをするため、山根副所長を殺害し、山根副所長になりすましたわけだ」

御影 「会話は社内ネット経由で本人に会うわけやないから、バレへんもんね」

フジモリ 「そして時間稼ぎをし「レッドマジック・バージョン4」を11:00にリセット(解説(9)参照)。警察と連絡をとり、警察が来たのは12時ごろ。その頃真賀田四季は犀川研究所のメンバと一緒に儀堂世津子が来た船に乗り込み、妃真加島から脱出した、というわけ(解説(10)参照)」

御影 「んーで、あとは真賀田未来の部屋で会話していると見せかけ、実際は島の外におったわけや」

フジモリ 「天才だ、まさに天才!」

御影 「確かになぁ。こうやって改めてタイムテーブルで事件と真賀田四季の動きを見てみると、どんな事象があっても、最低でも真賀田四季自身は島外に脱出できるっちゅうフェールセーフが確立されとぉのがわかるわ」

フジモリ 「そうだろ?…というわけで今回は「すべてがFになる」のトリック部分について詳しく解説してみた。改めて、周到に張られた伏線と、当時としては最先端の技術をふんだんにとりいれていることが良くわかったよ。それが、今回の感想だ」

御影 「そやなぁ」

フジモリ 「内容の誤りや疑問点あれば、ご指摘内容を更にブラッシュアップしていきたいと思うのでお願いします(ぺこり)」

御影 「お願いしまぁす(ぺこり)」



御影 「んーで、オチなわけやが」

フジモリ 「いや、別にオチはいらないし」

御影 「そぉいや、この書評めっちゃおそいやん。森博嗣書評をさんざんしときながら、115回目って」

フジモリ 「いや、最初逃したらこのタイミングしかないだろ?」

御影 「?、どぉいうこと?」

フジモリ 「いや、「すべてがFになる」だけに本当は15回目にしたかったけど、タイミング逃しちゃったから」

御影 「いや、115回って中途半端やろ。10進法と16進法が混ざっとるで」

フジモリ 「ふふん。さにあらず。この書評のURL見てみて」

御影 「ん?えーっと、このページのアドレスが
http://www.sancya.com/book/book/special_a15-2.htm
やね」

フジモリ 「というわけでこの書評はa15回目!すべて…じゃない、一部が、F…フィフティーンになったわけだ!どうだこの周到な伏線は!」

御影 「周到でもなんでもないわ!ええかげんにせんかい!」



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