| フジモリの脳内ラビリンス
〜a labyrinth in fujimori's brain〜 Onehundred-Fifteenth bookshelf 森博嗣『すべてがFになる』 |
すべてがFになる 御影 「御影です」 フジモリ 「フジモリです」 御影 「二人合わせて「御影フジモリ」です」 フジモリ 「合わせなくていいって!」 御影 「なんや人の名前みたいやな。「ワタシーのナマエはー、フジモリ・ミカゲ、デスー」とか」 フジモリ 「なんで片言なんだよ!進めるよ。今回取り上げるのは森博嗣「すべてがFになる」だ」 御影 「お、森博嗣のデビュー作やね」 フジモリ 「正確にはデビュー作ではない。作者・森博嗣は作品発表当時(1996年)は国立N大学環境学研究科、都市環境学専攻助教授だった。専門分野はコンクリート。正確には「粘塑性体の流動解析手法」だね。1995年の夏休み、家族に読ませるために処女作「冷たい密室と博士たち」を一週間で書き上げた。「つまらない」と言われて納得がいかなかったので、たまたま目に付いた講談社に送りつけたそうだ。編集者から連絡があったときは既にシリーズ第4作に取り掛かっていたが、そのプロットを聞いた編集者の英断により、それを第1作に変更してデビューが決定する。その作品こそが「すべてがFになる」なんだ(以上、エキサイト・ブックス現代作家ガイドより抜粋、文言を若干修正)」 御影 「それが第1回メフィスト賞を受賞したんやんね」 フジモリ 「メフィスト賞は講談社発行の小説雑誌「メフィスト」から生まれた文学の賞だ。(詳細はwikipediaを参照)漫画などでは多い「出版社への持ち込み」を小説で制度化したような賞であり、そもそもこの賞は森博嗣のために設立されたとも言われている賞だ」 御影 「へぇ。そうなんや」 フジモリ 「メフィスト賞はその後も舞城王太郎や殊能将之、西尾維新など様々な小説家を世に送り出している(正確にはメフィスト賞受賞前からデビューしている作家もいるけどね)。まさに「小説界の手塚賞」と言っても過言ではない」 御影 「たまに「赤塚賞」が混ざっとぉけどね」 フジモリ 「それは言わなくていいって!・・・さてその第1回メフィスト賞に輝いた森博嗣の「すべてがFになる」。今回は未読者の方をメインターゲットに、ネタバレ無しで紹介していきたい。御影、あらすじお願い」 御影 「今回、言ぅことは次回があるんかな?まあええわ。あらすじいくで。 孤島のハイテク研究所で、少女時代から完全に隔離された生活を送る天才工学博士・真賀田四季。彼女の部屋からウエディング・ドレスをまとい両手両足を切断された死体が現れた。偶然、島を訪れていたN大助教授・犀川創平と女子学生・西之園萌絵が、この不可思議な密室殺人に挑む。 ちゅう話や」 フジモリ 「ネタバレなしなんで、この作品の外側から語ってみたい。森博嗣の作品はこの「すべてがFになる」を筆頭に、「理系ミステリィ」と呼ばれていることが多い」 御影 「なんで理系なん?」 フジモリ 「これには、いくつか要因があるんだけど、一つ目として登場人物に「理系」の人が多いことが挙げられる」 御影 「「理系」の人ってどんなんやねん」 フジモリ 「これは強引なカテゴライズなんだけど、「文系」の対義語としての「理系」で、例えば主人公の犀川創平は国立N大工学部の建築学科の助教授であり、犀川に好意を寄せるお嬢様、西之園萌絵も同大学工学部の学生。国枝助手をはじめ、犀川ゼミのメンバも工学部で理系。事件の舞台となる研究所の所員もほとんどプログラマと理系尽くしだ」 御影 「ほんま、みんな理系やな。古書店の主人やら小説家やら探偵やらは出てこぉへんの?」 フジモリ 「それは別の作者の作品だって!とにかく、登場人物が理系。といっても、理系を「非・文系」として、文系の真逆にある存在を称しただけかもしれないけどね」 御影 「つまり「ウチは理系であるかまたは関西弁である」ことの否定は「ウチは理系ちゃうし関西弁やない」ちゅう話や」 フジモリ 「ド・モルガンの法則かよ!しかも自身で「関西弁ちゃう」と言っている自己矛盾はクレタ人のパラドクスしてるよ!まあ、こういう理系の用語を用いるのが「理系チック」と言えなくもない」 御影 「そぉいや、舞台も「理系」やね」 フジモリ 「そうだね。舞台となる妃真加島の研究所では、音声認識コンピュータ、指紋認証装置、ロボット、デジタル監視カメラなど今でこそ人口に膾炙しているものの発表当時はハイテクな装置が満載だ。この舞台で殺人事件が起こるんだから、今までには無いシチュエーションだよね。SFチックだ」 御影 「せやな。こんな発言もあるし。 「アニメ見てる方がずっと良いわ」文子が続けた。「今に、恋人なんて、コンピュータが作ってくれるようになるわ。アニメキャラの方がデータ量が少なくてすむんだから……」(p265) まさに慧眼!先進的ぃ〜」 フジモリ 「い、いや、ちょっと違うと思うけど・・・」 御影 「違わへん(きっぱり)。あとは、プログラマ用語が満載なところやね」 フジモリ 「満載というほどあるかどうかはわからないけど、ワークステーション、インクリメントイコール、トロイの木馬、などコンピュータ用語が飛び交っているね。発表当時が1996年だったことを考えると、かなり先進的だ。今でこそ「オペレーションシステム」だとか「チャット」だとか「コンピュータ・ウイルス」だとかのコンピュータ用語に対する認知度は高まったけど、当時としては「なんじゃこりゃ?」な単語の洪水だったわけだ」 御影 「確かになぁ。せやけど、フジモリも普通に使っとぉやん」 フジモリ 「サーバ、とかコンピュータ、とかの語尾に「ー」をつけないのはフジモリがシステム会社で働いているからかな。ただし、語尾が「y」で終わる単語に「ィ」をつけるのは明らかに森博嗣の影響を受けてる」 御影 「ミステリィ、とかファンタジィ、とか「ウリィィィィ!」とかな」 フジモリ 「最後のは違うだろ!なんでディオが出てくるんだよ!」 御影 「俺は人間をやめるぞーっ!ジョジョーっ!」 フジモリ 「石仮面かぶるなよ!関係ないだろうが!」 御影 「まあまあ。せやけど、なんや用語や言葉の使い方からしてクールやんな。SFみたいや」 フジモリ 「ところが内容は本格ミステリィ。妃真加島で起こる殺人事件とそれに立ち向かう犀川・西之園ペアの推理を堪能して欲しいね」 御影 「この二人、これまた一風変わったキャラクタやんね」 フジモリ 「そうだね。二人ともいわゆる「天才」キャラ。萌絵なんかは数桁の掛け算を一瞬にして解いてしまうほどの処理能力の持ち主だ」 御影 「犀川先生も、ときおり発言する言葉が妙に哲学的なんやんね」 フジモリ 「そう。この小説、哲学的な発言やいろいろと考えさせられる言葉がたくさん含まれている。 「先生……、現実って何でしょう?」萌絵は小さな顔を少し傾けて言った。 「現実とは何か、と考える瞬簡にだけ、人間の思考に現れる幻想だ」犀川はすぐ答えた。「普段はそんなもの存在しない」(p357) とか、 「(中略)僕ら研究者は、何も生産していない、無責任さだけが取り柄だからね。でも、百年、二百年さきのことを考えられるのは、僕らだけなんだよ」(p81) なんかそうだね。それに、現代ではSFではなくなった「ヴァーチャル・リアリティ(仮想現実)」についての考え方についても深い考察があり、 「(中略)仮想現実は、いずれただの現実になります」(p19) なんて発言がある。この発言は冒頭の真賀田四季と西之園萌絵の面会の際にあったものだが、ここから仮想現実論に移る。詳細は読んで欲しいんだけど、今読んでもじゅうぶん頷けるものがあるね」 御影 「そやなぁ。ハードの問題はとりあえずクリアして、実際に「ヴァーチャルの世界」が現実化しよった。オンラインゲームなんてその経過点に近いもんがあるなぁ」 フジモリ 「…というわけで、内容に出来るだけ触れずにこの作品の見所を紹介したわけだけど、いやあ、難しいね」 御影 「実際に読んでもらうんが一番手っ取り早いけど、未読の方もこの書評を読む可能性もあるわけやし、そんな人がウチらの書評を読んでこの作品に興味を持ってくれたら嬉しいわぁ」 フジモリ 「「理系ミステリィ」と称され、「理系」な登場人物、「理系」な舞台、そして「理系」な用語が飛び交う本格ミステリィ。しかしながら魅力的なキャラクタと哲学的な発言で本筋以外にも楽しめる。森博嗣に興味をもたれたらまずこの本をオススメする、そんな作品だね。これが、今回の感想かな?」 御影 「…にしても、ネタバレなしの書評は思ったよりしんどいなぁ」 フジモリ 「言葉を選んで書評し、さらに単なる感想で「読め読め」にならないようにしなくちゃいけないからね」 御影 「で、今回の書評はこれで終わり?」 フジモリ 「いや。とりあえず既読の方推奨で、「トリック解説」と「ネタバレ書評」の2本を準備した。それに、犀川&萌絵シリーズ全巻読んだ方にはまた別に「森博嗣「犀川&萌絵シリーズ」を振りかえる」というコーナで解説しているので、該当者(あるいは該当しなくても覚悟の上読み進められる方)は足を運んでいただけると嬉しいです」 御影 「大盤振る舞いやね!ちゅうことで、来週の「すべF」わぁ〜 ・フジモリ、トリック解説をする ・フジモリ、ネタバレ書評をする ・フジモリ、墜つ の3本でお送りしまぁす!んがんっぐっ、ちゃうわ、じゃーんけーんぽーん!」 フジモリ 「最後のは違うだろうがぁっ!」 ネタバレ書評その1(トリック解説)はこちら ネタバレ書評その2(内容解説)はこちら |