フジモリの脳内ラビリンス

〜a labyrinth in fujimori's brain〜

Onehundred-Fourteenth bookshelf
桜庭一樹『ブルースカイ』




君は絶滅危惧種だ。なんだかわかってきたよ。君は少女だ。


舞奈 「♪あぁ〜おくぅ〜眠るぅ〜水の星にぃ〜そぉっとぉ〜」

フジモリ 「なにいきなり歌ってんだよ」

舞奈 「というわけで、今回取り上げるのは桜庭一樹「ブルースカイ」です」

フジモリ 「青しか合ってないよ!その曲「水の星に愛をこめて」だろうが!」

舞奈 「青がつく歌といったらこの曲しか思いつかなかったもの」

フジモリ 「わざわざ歌わなくていいから!」

舞奈 「まあまあ。で、この「ブルースカイ」なんだけど、桜庭一樹の本をフジモリが取り上げるのは初めてなんだよね?」

フジモリ 「そう。アイヨシは「赤×ピンク」「砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない」「少女には向かない職業」とけっこう書評してるけど、フジモリは初めてだね。ではまずあらすじを」

舞奈 「りょーかい。

西暦1627年、ドイツ…魔女狩りの苛烈な嵐が吹き荒れるレンスの町で、10歳の少女マリーは“アンチ・キリスト”に出会った…。
西暦2022年、シンガポール…3Dアーティストの青年ディッキーは、ゴシックワールドの昏い眠りの中、絶滅したはずの“少女”というクリーチャーに出会う…。
そして、西暦2007年4月の日本。死にたくなるほどきれいな空の下で…。

という話よ」

フジモリ 「この作品は新城カズマ「サマー/タイム/トラベラー」、桜坂洋「スラムオンライン」と同じく、ハヤカワ書房が提唱する「リアル・フィクション」の作品群に位置付けられる」

舞奈 「「リアル・フィクション」とは、「現実の再構築」を目的としているのよね」

フジモリ 「その通り。そして、「ブルースカイ」でもそれはきっちりと描かれているんだ」

舞奈 「舞台は過去、未来、現在と飛ぶけど、それぞれの世界に迷い込んだ「少女」とその世界の住人との交流を描いているわね」

フジモリ 「そうだね。桜庭一樹は一貫して「少女」を描きつづけている作家だと思っている。闘うことで自らの存在意義を確かめる少女たちを描く「赤×ピンク」、空想・虚言という砂糖菓子の弾丸で自らの砦を守ろうとする少女たちを描く「砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない」、自らを取り巻く世界を殺人という方法で打破しようとする少女たちを描く「少女には向かない職業」、恋を通じて子供から大人に成長していく少女たちを描く「荒野の恋」など、舞台やシチュエーションは違えど、その中心にいるのは紛れもない「少女」だ。そして今作「ブルースカイ」では少女という「存在」について言及されている」

舞奈 「そこで私の出番なわけね。少女だし」

フジモリ 「えーっと、すみません、わけがわからないんですけど」

舞奈 「なぜにいきなり敬語!?いーじゃないの、ヴァーチャルな世界なんだから、自分のこと少女って言い張っても!」

フジモリ 「またメタな話をするなぁ。まあ、ぶっちゃけ舞奈や御影など書評に出てくるキャラの細かい設定とか一切考えていないんで、言ったもん勝ちだけどさ」

舞奈 「よし!じゃあ、今回だけは少女の設定で」

フジモリ 「今回だけかよ!」

舞奈 「で、どうだった?この作品?」

フジモリ 「最初に結論を言ってしまったけど、この作品も桜庭一樹の「少女観」が出ていて非常に興味深かった。異なる世界に「現代の少女」を紛れ込ませることでそれぞれの世界に「歪み」が生ずる過程は、「異分子による日常世界の崩壊」をうまく表していると思ったよ」

舞奈 「最初の舞台は魔女狩りという「恐怖」が街を覆うドイツ。当時は「子供」が結婚し子供を産むと「大人」とされる。その中間地点である「少女」という存在はなかった。そんな中、10歳の少女マリーが「身体は大人と同様なのに精神は子供」という「その世界にありえない存在」である「少女」と出会うのね」

フジモリ 「存在しない存在。マリーが少女を「アンチ・キリスト」と呼ぶのも頷けるね。この作品、ある意味「異世界漂流もの」だ。現代の人間が異世界に突然移動し、その世界で冒険を繰り広げるファンタジィ。漫画や小説など、昔から様々な作品が出ているよね」

舞奈 「神坂一「日帰りクエスト」とか?」

フジモリ 「またマイナなとこ突いてくるなぁ」

舞奈 「マイナーって言うな!ニッチって言え!」

フジモリ 「いいよどっちでも。とにかく、題材としては昔からあるものだけど、この「ブルースカイ」では異世界の住民からの視点で描かれている。日常の世界に異世界のものが入り込む話というのも漫画や小説の題材としては多いよね」

舞奈 「撲殺天使ドクロちゃん」とかね!」

フジモリ 「またそんなところを突く・・・。まあ、その書評で「ドラえもん型」として「異世界の住人が主人公の世界(多くは同じ家に)居候する話」を紹介しているんで補足になるか」

舞奈 「えへん」

フジモリ 「いや、狙ってやったわけじゃないだろが。話を戻すと、「ブルースカイ」は物語の構造としては「自分たちの世界の住人が異世界に行く」という「異世界漂流もの(異世界召還ものとも言うかも)」でありながら、視点の軸は異世界の住人に置き、読者は「日常世界の住人」である「少女」を「異分子」として見る。「日常」が「異端」であるという倒錯した構成だ。舞台が2022年のシンガポールの場合も同じ。この世界でも「少女」という存在はフィクションの中にしかいない。そこに紛れ込んだ「少女」。それによって崩れる世界」

舞奈 「で、最後にその「少女」が本来存在した「日常」である2007年の日本に舞台が戻るわけね」

フジモリ 「そう。「ブルースカイ」は「リアルフィクション」というカテゴリーの中、「少女」という「リアル」を再構築した。ケータイを通じて世界との繋がりを感じ、身体と精神の不安定なバランスを内包した存在。それが今、ここにある「リアル」なんだ、と作者は描いているんだ」

舞奈 「常に「少女」を描きつづけてきた桜庭一樹だからこそ、「少女」というリアルをフィクションを通じて再構築できるのよね」

フジモリ 「そうだね。新城カズマは「サマー/タイム/トラベラー」で「閉塞感と打破」という「リアル」を描き、桜坂洋は「現実と虚構の二重世界の行き来」という「リアル」を描いた。そして桜庭一樹は「少女」という「リアル」を描く。「フィクションという手段によるリアルの再構築」というだけでこれだけバラエティある作品が読めただけでも満足だし、桜庭一樹の作品に一貫して描かれている「少女」という題材が煮詰まった(当然良い意味で使ってますよ)作品だと思う。「リアル・フィクション」としても「桜庭一樹作品」としても楽しめる作品。これが、今回の感想かな?」




舞奈 「少女というリアルの再構築かぁ。深いわねぇ」

フジモリ 「そうだね。桜庭一樹作品は時にダークに、時にコミカルに少女を描いているけど、この作品もその流れを受け継いでるね」

舞奈 「と、いうことで!」

フジモリ 「どういうことだよ?」

舞奈 「最後は少女にちなんだ歌で締めたいと思います!」

フジモリ 「言ってる意味が良くわかんないんだけど・・・」

舞奈 「まあ、私も一貫してマイナーなネタを描きつづけているから」

フジモリ 「人の話聞いてる?」

舞奈 「♪思春期にぃ〜少年からぁ〜大人にぃ〜変わるぅ〜」

フジモリ 「思いっきり「少年」じゃねぇかよ!」

舞奈 「♪花ぁ〜咲くぅ〜乙女ぇ〜たちぃ〜」

フジモリ 「乙女だろうが!ちゃんと少女の曲歌えよ!」

舞奈 「知らないんだからしょうがないじゃない!」

フジモリ 「逆ギレ!?」

舞奈 「しょうがないわね。じゃあ、私が唯一知っている少女の歌をちゃんと歌ってあげるわ」

フジモリ 「めちゃめちゃ不安なんだが・・・」

舞奈 「♪香菜ぁ、あした君をぉ、名画座に連ぅ、れぇ、てぇ、いぃこぉ〜」

フジモリ 「筋肉少女帯かよ!わけわかんないよ!」



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