フジモリの脳内ラビリンス

〜a labyrinth in fujimori's brain〜

Onehundred-Eleventh bookshelf
桜坂洋『スラムオンライン』




こちらの画面に映った辻斬りはぼくにとっての彼の人格のすべてであり、彼の画面に映ったテツオは彼にとってぼくの人格のすべてなのだった。


フジモリ 「今回取り上げるのは桜坂洋の「スラムオンライン」だ」

御景 「ほなぁ、ウチの出番やなぁ」

フジモリ 「なんでだよ。妹キャラなら御景の出番かもしれないけど、この本には出てこないぞ」

御景 「いや、眼鏡キャラ出てきてはるから」

フジモリ 「出番が欲しいだけかよ!眼鏡関係ねぇよ!」

御景 「ほな、あらすじいくでぇ。

Aボタンをクリック。ぼくはテツオになる。
−−現実への違和感を抱えた大学1年の坂上悦郎は、オンライン対戦格闘ゲーム“バーサス・タウン”のカラテ使い・テツオとして、最強の格闘家をめざしていた。大学で知りあった布美子との仲は進展せず、無敵と噂される辻斬りジャックの探索に明け暮れる日々。リアルとバーチャルの狭間で揺れる悦郎は、ついに最強の敵と対峙するが…。

ちゅう話やぁ」

フジモリ 「御景ってめちゃめちゃマイペースだな」

御景 「桜坂洋の作品を取り上げるんは初めてやねぇ」

フジモリ 「聞けよ人の話!」

御景 「いや、ウチ、眼鏡キャラやし」

フジモリ 「だから眼鏡関係ねぇよ!うう。話進まないんで答えるけど、この作者を取り上げるのは初めてだ。「スラムオンライン」を書いた桜坂洋は魔法を新解釈した斬新な世界設定の「よくわかる現代魔法」シリーズで一躍有名になった。今作はハヤカワ文庫での作品になる」

御景 「ちゅうことはSFなん?・・・ん?帯に「リアル・フィクション」いぅフレーズがあんねんけど」

フジモリ 「そう。この作品、ハヤカワ書房が提唱する「リアル・フィクション」というカテゴリーの作品群の一つ。以前書評した新城カズマ「サマー/タイム/トラベラー」もそうだね」

御景 「んー?りある・ふぃくしょんってなんなん?」

フジモリ 「それは後ほど説明するとして、まずはこの作品単体の感想に移ろうか」

御景 「はいな。んーと、この「スラムオンライン」では、架空のゲーム「VT(バーサス・タウン)」が軸になっとぉやんね」

フジモリ 「そう。SEGA「バーチャファイター」をオンライン(インターネット回線を通じた多人数参加型対戦ゲーム)にしたイメージ。舞台はこの「VT」内の「ヴァーチャル(=虚構)」と「リアル(=現実)」が並行しているんだ」

御景 「主人公の坂上悦郎は「VT」内では「テツオ」というカラテ使いやねんな」

フジモリ 「で、テツオは最近VT内で噂になっている「辻斬りジャック」というキャラクタと戦いたいと思い、VT内を探索する。一方、現実世界で悦郎は大学で知り合った薙原布美子という女性から新宿で都市伝説になっている「青い猫」を一緒に探そうと誘われるんだ」

御景 「出た!めがねッこ!そこでウチの登場なわけや」

フジモリ 「しねぇよ!」

御景 「銀縁の眼鏡というのがまた渋いチョイスやねぇ」

フジモリ 「眼鏡の解説はいいよ!作品を解説しなきゃ!」

御景 「せやけど、桜坂洋ってめがねッこ好きやん。めがねッこ写真集「ガールズ・メガネ」に短編を寄稿しとぉし」

フジモリ 「確かにそうだけど、この作品と直接関係はないから!この作品の軸はめがねッこじゃなくて、「ヴァーチャル」と「リアル」の境界線の喪失なんだから」

御景 「え?そやったん?」

フジモリ 「今知ったのかよ!・・・物語が進むうちに、悦郎は「リアル」に対するリソースを「ヴァーチャル」につぎ込むようになる。

「どうしたの」
「大切なことを思いだした。きょうは帰る」
「ちょっと。講義中だよ」
「わるい」
足早に教室を出る。ぼくは、バーチャルな世界が待つ家へと向かった。(p122)

そしてその後布美子と喧嘩別れし、「ヴァーチャル」での「辻斬りジャック探し」に注力するようになるんだ」

御景 「うーん。よくある光景やなぁ。「私とゲームどっちが大事なの!」っちゅうやつやね」

フジモリ 「もう一歩踏み込んで、このシチュエーション、実は「ヴァーチャル」の「リアル」への侵食なんじゃないかと思った。虚構世界が現実世界を蝕み始める話。アイヨシが取り上げた「バーチャライズド・マン」など、SFの世界では枚挙に暇がないんじゃないかな。実際、「テツオ」として「VT」内にいるとき、身体(ハード)は現実世界にあるけど、意識(=ソフト)は「VT」内にある。そして「VT」内ではポリゴンの「身体」がある。この場合、「自分」ってどこにあるのか定義が難しくなるよね。「自分」が限りなくヴァーチャルの世界にいる」

御景 「確かに。例えば友人と面と向かって喋ってても、携帯電話の着信があって遠くの友人と会話したとき、意識は「ここ(=目の前の友人と喋る自分)」ではなく、「携帯電話で会話している相手先」にあるもんなぁ」

フジモリ 「ハヤカワ書房が提唱する「リアル・フィクション」。一つの目的として、「リアル(=現実)の再構築」がある。フィクションみたいなことが現実に起きている現在、あえて「リアル(=現実)とは何か」を問う必要があるわけだ。「リアル」が定義されないと、「フィクション」が構築できない。そして、「スラムオンライン」で語られている「現実」はまさしく今、「ここ」にある「リアル」なんだ」

御景 「それが「ヴァーチャル」と「リアル」の共存いぅこと?」

フジモリ 「その通り。ややこしくなっちゃうけど、再構築されるべき「リアル(=現実)」とは「ヴァーチャルとリアルを行き来する僕ら」であり、それをフィクションである「スラムオンライン」という作品の中で「悦郎」と「テツオ」が表わしている。時にはヴァーチャルの世界にリソースを使いすぎてリアルでの人間関係に影響を与え、時にはリアルでの悩み事をヴァーチャルに持ち込みどちらの世界でも行き詰まる。それが、「僕ら」のいる「リアル」ってことだ」

御景 「なんやそう言ぅと「現実と虚構の区別がつかない若者が〜」言ぅエセ識者みたいやな」

フジモリ 「だが、一方で「ヴァーチャル」で得た経験を「リアル」に還元することもできる。「リアル」の世界で歌舞伎町の住人・ルイにアドバイスを受け「なぜ自分は辻斬りジャックと戦いたいのか」を頭の中で整理し、一方で「VT」で辻斬りジャックと対したときに「薙原に対しどう接すればよいのか」を理解する。

布美子とぼくは別種の人間で、考えかたや生活パターンはまったく異なった。好みも違えばこだわる場所も違う。ノートにペンを走らせる速度も階段を登る速度だって違った。布美子のこだわりがぼくにはわからず、ぼくのこだわりが彼女にはわからなかった。理性ではわかるし同意も示せる。それでもぼくらは別々の生き物だった。でも、だからこそ、ぼくらは一緒にいたのだろう。(p230)

ヴァーチャルからリアルへの、そしてリアルからヴァーチャルへの還元。この二つの世界をバランスよく行き来する、それもまた、いや、それこそが「リアル」なんだ」

御景 「確かに。昔は「ヴァーチャルの世界とリアルの世界を行き来」言ぅたらフィクションの中でしかなかってんけど、それが現実になってんねんもんなぁ」

フジモリ 「桜坂洋は限りなくリアルに近いフィクションを書くことで「リアル」を再定義した。そして彼の書く「リアル」とは「虚構と現実の二重世界を行き来する僕ら」という「リアル」だ。非常に込み入っているようだけど、実経験がある人にとっては当たり前のこと。しかしこの「当たり前」のことを題材にし、エンタテイメントに昇華させた作者の眼力と筆力には驚嘆するものがあるね」

御景 「せやなぁ。話としては「単なるゲームの話」やけど、リアリティあふれるディティール、そして「バーサス・タウン(=ヴァーチャル)」と「新宿(=リアル)」の二重世界で並行して進められ、それぞれの物語が一つに収束していくストーリィテリングで「単なるゲームの話」が「単なるゲームの話」に終わらへんねんもんなぁ」

フジモリ 「そう。身近な話題、身近なストーリィ。「リアル」を描きながらきっちりと「フィクション」を描ききっている。この小説を読んで改めて「現実とは何か?」を自問したよ。もちろん、単なる「青春小説」として読んでも面白いけどね」

御景 「めがねッこもおったしね!」

フジモリ 「それはいいって!てなわけで、「リアル」を描く「フィクション」。まさに「リアル・フィクション」を冠するに相応しい一作。それが、今回の感想かな?」




御景 「ヴァーチャルとリアルの交錯かぁ。ウチも使い分けんとなぁ」

フジモリ 「いや、御景はヴァーチャルだけだから。この書評だけのキャラだから」

御景 「なに言ぅとん?書評ごとに眼鏡を変えるウチに向かって?」

フジモリ 「読者はわかんないって!」

御景 「ちなみに今回は本に合わせて銀縁眼鏡やけど」

フジモリ 「だからわかんないって!」

御景 「リアルのウチはセルフレームやけど」

フジモリ 「だからリアルの御景は存在しないって!」

御景 「あ、これセルフレームちゃうくてウルトラアイやった」

フジモリ 「わけわかんないよ!」

御景 「どぅわっ!(ピカーン!)」

フジモリ 「「どゅわっ」、じゃ、ねぇよ!」



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