| フジモリの脳内ラビリンス
〜a labyrinth in fujimori's brain〜 Onehundred-tenth bookshelf(ネタバレ感想) 新城カズマ『サマー/タイム/トラベラー(2)』 |
この街といっしょに。 彼女といっしょに。 フジモリ 「さて、新城カズマ「サマー/タイム/トラベラー」書評の後編です」 御影 「前回の書評に話戻して恐縮やけど、後編に続く、後編に続く言ぅて期待持たせたからには、ちゃんと伏線回収するんやろな?」 フジモリ 「もちろん。今回はわりかしシリアスバージョンでいきます。では御影、後編・・・もとい、「サマー/タイム/トラベラー(2)」のあらすじを」 御影 「・・・あんなぁ」 フジモリ 「ん?どうした?」 御影 「なんで全2巻完結なんに、「サマー/タイム/トラベラー(前編)」「サマー/タイム/トラベラー(後編)」とか、「サマー/タイム/トラベラー(上)」「サマー/タイム/トラベラー(下)」とかせぇへんかったんやろうな?」 フジモリ 「それは、このあとのお楽しみだ」 御影 「まだ引っ張るんかい!」 フジモリ 「いやいや。作者新城カズマは「なぜか刊行された時には1・2巻と表記されてました(苦笑)」といっていたが、フジモリは理由があると思っている。その持論をあとで話そうと思ってるんだ」 御影 「ほんまかいな。ほな、あらすじいくで。 <プロジェクト>を通して、自分の時空間跳躍能力に目覚めていく悠有。一方、辺里の町では不穏な出来事が進行していた。続発する放火事件と悠有に届けられた謎の脅迫状。そして花火大会の夜、悠有はタクトたちの前から姿を消した・・・。 ちゅう話や」 フジモリ 「まずは前回の書評の続きから行こう。前回、「サマー/タイム/トラベラー(1)」で「時空間跳躍能力」を発現した悠有。「プロジェクト」は第2段階に入り、悠有の能力の分析に入る。一方で、主人公タクトたちの住む辺里市では少しずつ異変が起こっていた。放火事件が続き、地域通貨「トリブル」の管理サーバが火事で損失し、辺里市経済に若干の狂いが生じ、街が次第に妙な雰囲気になっていく。前回の書評で強調した「地方都市の閉塞感」が飽和状態に達し、綻びを見せているわけだ」 御影 「んーで、物語は進み、悠有が突然「消えて」しまう。悠有を探すタクトに涼が、「時空間跳躍能力」が何故起こったのかを語りだすねんな。この語りは物語の(SF的な)一つの山場やねんけど、正直頭をフル回転させて読まへんと理解するんに苦労するわぁ」 フジモリ 「まあ、ここはアイヨシに任せてしまおう。今回の書評では言及しない」 御影 「任せるんかいっ!」 フジモリ 「餅は餅屋だ。今回の書評では「青春小説」にフォーカスを絞っているんで、論点の拡散を防ごうと思っている。で、「消えた」悠有が見つかるのだが、そこで悠有が衝撃の告白をする。自分の「意志」で、能力を発動できるようになったんだ」 御影 「前に進むイメージ、やったっけ?」 フジモリ 「そう。そしてプロジェクトは第3段階に入る。涼の狂言誘拐を行い、身代金の受け渡しの際に悠有の「能力」を使うこと。5人が日常という「閉塞感の打破」として選んだ手段だった。犯罪は成功し、束の間の「非日常」を味わう」 御影 「せやけど、このプロジェクトを進めながら、みんな不安を持ってたんやな。悠有の「時空間跳躍能力」について」 フジモリ 「悠有の能力は「未来」にしか進めない。「誰かと一緒に」飛ぶことはできない。悠有は「現在」を飛び越し、「未来」に去ってしまうのではないかという不安」 御影 「そうか!」 フジモリ 「なんだよ」 御影 「悠有の能力は「キング・クリムゾン」言ぅより、「メイド・イン・ヘブン」やったんやね!世界は一周する!」 フジモリ 「一周しないって!まあ、悠有の能力を使えば自身が歳をとらずに「未来」に行くことが可能になる。コールドスリープみたいなもんだ」 御影 「まが・・・」 フジモリ 「ネタバレ禁止ーっ!他の作品なんだからね。ネタバレ神社に流されるよ。・・・話を戻そう。狂言誘拐が成功した5人。しかし、再び悠有がいなくなるんだ」 御影 「放火事件の犯人やった涼に攫われたんやね。涼はメモ魔やってんけど、それは多重人格による記憶の喪失があったから。そして「放火犯」である涼の人格は「辺里市」という「閉塞」を放火によって打破しようとしたわけや」 フジモリ 「みんな辺里市という閉塞感を打破したかった。饗子は「プロジェクト」を起こし悠有の能力を使い自分を閉じ込めている<お山>から脱出したかった。涼は自分の檻である辺里市を放火によって破壊したかった。そして放火犯の人格の涼は悠有をこの街から「脱出」させないために、悠有を攫ったというわけだ」 御影 「タクトは炎上する校舎から悠有を助ける(そして、悠有の能力によって助けられる)。ここで物語はクライマックスを迎え、悠有との「別れ」にストーリィが収束していくわけやな」 フジモリ 「悠有は「閉塞感の打破」として未来に行きたがっていた。それを留める「檻」は家族(兄)やタクトたちプロジェクトのメンバだったんだ。悠有の兄、鉱一の死。枷が一つ外れた悠有は、「未来」に旅立つ決意をする。タクトとの別れ。そして、タクトが悠有との別れの後を語っていく・・・」 御影 「その後の世界情勢は、新城カズマお得意の「社会的虚構(ソサイエティ・フィクション)」盛りだくさんの内容やなぁ。「被著作人権」やら「情報税」やら、実際に今後ありそうやし、またそれだけで小説一冊かけるネタを惜しげもなく単語の羅列のみで記していきよる」 フジモリ 「圧巻だね。「情報税」なんて真剣に考察すると論文書けそうだよ。・・・で、最後にこの「独白」をしているタクトが50歳近い年齢であり、実は事件直後ではなく、遠い過去を「回想」していたのだという種明かしがあるんだ」 御影 「これは伏線もあったしなぁ。 「ああいうふうにしゃべる大人だって、いたかもしんねえだろ」 「いなかったわよ」 「じゃあ、そのうちいるようになんだよ」 コージンは居間のソファに座り込んで腕組みをすると、爪先で(どういうわけか)ぼくの脹脛をつついたものだ。(p62) ちゅうくだりや」 フジモリ 「事件直後の回想ではなかった、というどんでん返しは衝撃度としては少なかったけど、「こういう文体で物語を綴る大人」という「未来」が記されていて、この文体自体が「社会的虚構(ソサイエティ・フィクション)」の一つだったというオチには構成の深さを感じたよ」 御影 「せやけど、切ない別れやなぁ。青春小説、ちゅう感じや」 フジモリ 「そうだね。夏の終わりと別れ。青春小説を彩るアイテムだよね。最後に未来(タクトにとっては現在)の辺里市の地図が提示される。余韻と想像の余地を残す終わり方で爽やかな読後感を残した。この物語が他の青春小説と異なるのは、ベクトルが前、「未来」を向いていることだ。これも、爽やかな読後感の一因だと思うよ」 御影 「そやなぁ。タクトたちは悠有に会うために未来を引き寄せようとする。10年先の未来を自身の努力で5年後に縮められれば、それだけ早く悠有に会えるかもしれへんからなぁ」 フジモリ 「この小説は「未来」を描いた物語だ。「閉塞感」の「現在」とその打破、そして古今東西の様々なタイムトラベル(=TT)作品の引用を描くことで、逆説的に未来を描いていたんだ」 御影 「うーん。深いなぁ」 フジモリ 「そこで、最初に御影が発した疑問に戻るわけだ。なぜこの物語は全2巻なのに「前・後」とか「上・下」とかつけなかったのか」 御影 「編集部の気まぐれちゃうん?」 フジモリ 「多分そうだと思うけど、そこを 御影 「え?ウチ、なんか言ぅた?」 フジモリ 「言った言った。「前回に戻る」という言葉。御影、この「前回」っていうのは何を意味してる?」 御影 「ん?そりゃ、「以前」のこと、過去のことやろ?」 フジモリ 「そう。「前」という言葉は「以前」「過去」「before」を意味する。「前に戻る」というのは「過去に戻る」ということだ。「後」は逆に未来を示すよね。この物語で「前編」にあたる「サマー/タイム/トラベラー(1)」は「後編」である「サマー/タイム/トラベラー(2)」より過去のことだ」 御影 「そやなぁ。まあ、全ての物語が「後編は前編より未来の出来事を書いている」っちゅうことはないけど、この作品に限ればそうやね」 フジモリ 「しかし、物語で悠有は未来に行く為のイメージをこう語る。 「あのね、違うの。もっと、こう・・・・・・前に『進む』つもりでやるとね。うまくいくの。連続技って」(p156) ・・・つまり、悠有にとって「前」とは「先」、未来のことなんだ」 御影 「そうか!「前」っちゅう言葉に「以前(=過去)」と「先(=未来)」の2種類の相反する意味があるから、あえて「前編」「後編」ってつけへんかってんな!」 フジモリ 「同様に「上・下」とすると「未来」が「下」になる。この物語では未来は「前」でなければならないんだ。だからこそ、苦肉の策ではあるが「1・2」とつけた、というのが理由ではないかと思うわけだ」 御影 「ほんま、こじつけやな」 フジモリ 「でもまあ、一理ある意見だろ?とにかく、この物語では「閉塞感の打破」として「未来」を据え、「前に進む」悠有を描きながら「未来」を描いた。SF文献の列挙や独特の文体など読み手を選ぶ小説のように見えて、実は青春小説として核心部分は直球過ぎるほど直球だった」 御影 「そやなぁ」 フジモリ 「仲間との絆、そしてそれを超える程の「未来への渇望」。5人はそれぞれ別の道を歩むが、絆はつながっている。「未来」を描いた青春小説。新城カズマ節が遺憾なく発揮された作品だったね。それが、今回の感想かな?」 フジモリ 「いやあ、ほんと良い本読んだよ。読み応えはあるけど、読んで損はなかった。大満足だ」 御影 「未来なぁ。未来もわりかし悲観したものちゃうんやなぁ」 フジモリ 「それこそ、時空間跳躍能力でもなければ未来なんてわからないけどね」 御影 「・・・そや!」 フジモリ 「なんだよいきなり」 御影 「ヒロインたるもの、時空間跳躍能力のひとつも持ってなあかんな!」 フジモリ 「待て待て待て!ツッコミどころ多いけど、まずヒロインってなんだよ!それにヒロイン全てが時空間跳躍能力を持ってるわけじゃないから!」 御影 「まあ、全てのヒロインが持ってるわけちゃうけど、ウチも悠有みたいに時空を旅するでぇ!時空の旅人や!」 フジモリ 「ヒロインっていうツッコミはスルーかい!」 御影 「よし、ほなちょっくら「前」に行ってきまぁ〜す!」 フジモリ 「え?前って?」 御影 「♪とぉ〜きぃ〜をぉ〜(忽然と消える)」 フジモリ 「ほんとに消えたよ。・・・ん?「前」って、「未来」じゃなくって、ひょっとして「以前」、「前編」に行ったのか?(前編の書評を読み返す)・・・ああ〜っ!あの時駆け抜けていったのはタイムトラベルした御影だったのかよ!って、「♪駆け抜けてゆぅ〜くぅ〜」って曲変わってるよ!ああ!もう!ツッコミどころ満載なのにツッコミ対象の御影がいないのかよ!(かよ!かよ!かよ!・・・)」 御影 「フジモリの声は、空しくこだまするだけだった・・・」 フジモリ 「って、もう帰ってきたのかよ!」 |