| フジモリの脳内ラビリンス
〜a labyrinth in fujimori's brain〜 Onehundred-seventh bookshelf(ネタバレ感想) 秋山瑞人『イリヤの空、UFOの夏(3)』 |
どこまでも逃げてやる、と浅羽は思う。 この白い手を引いて、どこまででも逃げてやる。 アクセルを開ける。 逃避行が始まる。 フジモリ 「さて、急転直下の「イリヤの空、UFOの夏」3巻だ」 御影 「この巻から怒涛の展開になっていくんやね」 フジモリ 「そうだね。起承転結のまさに「転」の巻だ。まずは御影、あらすじをお願い」 御影 「はいなぁ。 「無銭飲食列伝」 浅羽を巡る恋の三角関係が進行中、ということで、ついに伊里野と晶穂の正面切ったバトルが発生!最終決戦の場となった「鉄人屋」では・・・。 「水前寺応答せよ・前後編」 突然、園原基地付近で起こった爆発。北からの攻撃、輸送機の事故、UFOの墜落とさまざまな憶測が飛び交う中、水前寺はひとり、爆発事件の取材に向かった・・・。 ちゅう話や。うう。あらすじ話すだけでも気が滅入ってくるわぁ」 フジモリ 「まあまあ。まずは「転」に向かう前の話から進めようか。「無銭飲食列伝」。鉄人屋でのフードファイター勝負で、イリヤと晶穂の女の戦いにひとまず終止符が打たれるわけだ」 御影 「なんや、男二人が川原で殴りあった後に寝そべって、「へっ、いいパンチ持ってるじゃねえか」「お前もな。はははは」ちゅう感じやね」 フジモリ 「どんな感じだよ!まあ、言い得て妙だけどさあ」 御影 「晶穂が根性あったんはこれまでの巻でわかっとったけど、イリヤも結構根性あってんなぁ」 フジモリ 「そうだね。主人公の浅羽がヘタレで、ヒロイン二人が強い。強いからこそ相手を認める。まあ、中学生ぐらいだったら男子が弱くて女子が強いってのは一般的かもね」 御影 「そぉかなぁ?」 フジモリ 「統計とってないんでよくわからないけどね。で、ここまでは前巻からの流れと同じく、楽しい学園生活が続いていたわけだ。イリヤと浅羽の交流、イリヤとクラスメイトとの交流などがほのぼのと描かれていたね」 御影 「しかし、事態は「水前寺応答せよ」から急転直下すんねんな フジモリ 「そう。ボーリング場で浅羽たちと楽しむイリヤに榎本が近づき、連れ去ってしまう。翌日現れたイリヤの髪は真っ白になっている。これから、日常という歯車が少しずつ狂っていくわけだ」 御影 「せやけど、それまでほろにが学園生活の描写を延々続けとって、いきなり戦争と逃避行に持ち込むんやから、読者もショックでかいわぁ」 フジモリ 「読者を幸せな気分にしといて落とす。「猫の地球儀」でも同じような手法を使ったけど、今回は狙いすましたかのように3巻の中盤、起承転結の「転」の位置に持ってくる。この構成の妙は秋山瑞人ならではだね」 御影 「この手法、「うしおととら」の「藤田和日郎」も使っとったやんね」 フジモリ 「そうだね。島本和彦「燃えよペン」内で藤田和日郎のパロディとして登場する富士鷹ジュビロもこう言っている。 世界中の子供たちに愛と勇気をね! 与えてあげる前提で、−−−まず怖がらせるだけ怖がらせてあげちゃうよ−ん!一生残る恐怖と衝撃で、一生残る愛と勇気をね!(12巻、p139) 画像はこちら」 御影 「うん、この手法、「富士鷹メソッド」って名づけよか」 フジモリ 「勝手に造語するなよ!」 御影 「いや、けっこうこういう手法あるやん?めっちゃ効果的やし」 フジモリ 「確かにね。「富士鷹メソッド」によって読者は「感情の落下」を味わい、否応なく浅羽の逃避行に感情移入し、ぐいぐい引き込まれていく」 御影 「ここからだんだん読む側の心が痛ぉなる展開になっていくわけや」 フジモリ 「戦争は激化を極め、ついに浅羽の住む街にまで及ぶ。避難警報、集団疎開。頼りになるスーパー部長水前寺は行方不明。そして、世界を救うであろう少女イリヤを連れて浅羽は逃亡する」 御影 「若気の至りやなぁ」 フジモリ 「そうとも言えない。浅羽の行動力はこれまでのヘタレっぷりからすると格段の進歩だ。「世界の崩壊」と「一人の少女(=イリヤ)」を天秤にかけて、後者を選んだ」 御影 「お、「セカイ」と「個人」の同一視。セカイ系やね」 フジモリ 「そうだね。「イリヤの空、UFOの夏」が「セカイ系」と称される所以はここにある。「セカイ系」とは「個人の問題が中間段階をすっ飛ばし世界の問題と直結するような物語」とのことだそうで、有川浩「塩の街」や高橋しん「最終兵器彼女」、新海誠「ほしのこえ」などが代表作だ。中間階層をすっ飛ばして「個人」と「世界」を同一化する。この考え自体は現実問題ありえるものだ」 御影 「そやなぁ。「50億の生命」言われたら一つぐらいなくてもええか、思うけど、「あなたの生命」が大事であるんはわかるもんなぁ」 フジモリ 「そのとおり。この「セカイ系」というジャンル、利点が二つあると思っている」 御影 「なんなん?」 フジモリ 「一つは、「中間階層をすっ飛ばせる」が故に、「中間階層の描写、設定が不要」なことだ」 御影 「う。確かに」 フジモリ 「ロボットもので言うなら地球防衛軍の組織体制だとか、作中の政治情勢だとか、そういった舞台設定は必要ない。逆にいえば、その部分の舞台設定がなくても物語は成立可能なんだ」 御影 「なんやえらいこと言っとぉ気ぃすんねんけど」 フジモリ 「製作者からすれば楽だよね。ただ、そうやって手を抜くと「リアリティ」の部分でどうしても齟齬が生じる。「セカイ系」への言及は多いけど、代表作品と呼べるものが少ないのはここに起因するんじゃないかな」 御影 「ほんまに?」 フジモリ 「うーむ。フジモリの知識が少ないだけかも。ご指摘はメールや掲示板でお願いします」 御影 「せやけど、「イリヤの空、UFOの夏」はすっ飛ばされた中間階層も結構リアリティ持っとぉやんな」 フジモリ 「そこが秋山瑞人の凄いところだよね。「セカイ」と「個人」の対比ですっ飛ばされる部分が丁寧に書き込まれている。榎本や椎名のつらさは読者の胸を打つものがあるよ。まあ、だからこそ、この作品が「セカイ系」の代表作とされているんだろうね」 御影 「なるほどなぁ。んーで、もう一つの利点は?」 フジモリ 「舞台に「世界」と「個人(きみとぼく)」を配し、それ以外の部分を極力排することによって、汎用性を持たせることができる、という点だ」 御影 「汎用性?」 フジモリ 「アイヨシが「世界の中心で、愛を叫ぶ」の書評をしたときに言ってたけど、行間を増やすことで読者に脳内補完させること。それによって、作中の「きみとぼく(=個人)」を自分に置き換えることができる、と言うわけだ」 御影 「ふむふむ。主人公の立場が自分やったら、ちゅう考えやね」 フジモリ 「「個人」とはなにも作中の主人公のことを言っているだけではないわけだ。「ぼく(主人公)」イコール「ぼく(読者)」と読み替えられる。アイヨシは米澤穂信「さよなら妖精」の書評でこう言っている。 ちなみに、”セカイ系”とは「個人の問題が中間段階をすっ飛ばし世界の問題と直結するような物語」のことで、学校とか家族とかの社会問題を現実感を持って認識できない世代間の共通言語の役割を持つ物語として理解されたりしてます(←アイヨシ意訳)。 中間階層に位置する社会問題に対して現実感を感じない、これはフジモリが上遠野浩平「僕らは虚空に夜を視る」の書評で言っていた「現実のなかでの非現実感」に通じるものがあるね。本来であればそれこそが「世界」であるのに、それを現実として認識できない。虚無感、現実への諦観。その想いが「社会」の一つ上に存在する「セカイ」を生み出したんだろう。むしろそれこそが非現実である「セカイ」。しかし、それは「個人」と同一であるとする「セカイ系」の物語。抽象的であるが故に普遍性をもっているわけだ」 御影 「全は一!一は全!そういうことやったんやね」 フジモリ 「ま、まあ違うけどそんな感じだ」 御影 「んーで、3巻では浅羽が「イリヤ」を世界と同一視し、天秤にかけ、イリヤとの逃避行を選ぶわけやね。一方イリヤは・・・ちゅうのが4巻の重要なポイントになんねんな」 フジモリ 「そうだね。4巻(最終巻)で詳しく話すけど、「個人」と「世界」の同一視、これは「イリヤの空、UFOの夏」のテーマの一つだ。「イリヤの空、UFOの夏(1)」の書評で、この作品の要素として「ラブコメ」「ノスタルジィ」「ハードSF」を挙げた。3巻の展開は前半が「ラブコメ」部分、そして中盤以降は「コメ(=コメディ)」が抜け、「ハードSF」要素が強まっていく。しかし、その根幹は「ボーイミーツガール・ストーリィ」だ。出会いがあれば別れがある。やがて迎えるであろうイリヤとの別れによって浅羽は夏が去ったことを知るだろう。最後に「ノスタルジィ」というほろ苦さが残るわけだね」 御影 「その「ラブ」の部分を支えているのが「世界」と「個人」ちゅう考えや、ちゅうことやね」 フジモリ 「そういうこと。今作は最終巻の避けられない結末に向けてのターニングポイントだ。「起」「承」と続いた「ラブコメ」分を一気に覆し、加速度を上げる。浅羽とイリヤの逃避行の先に待つものは何か?もはやこれ以上語るまい。ここまできたら一気に最終巻まで読んで余韻に浸りたい。そう思わせる巻だった。それが、今回の感想かな?」 御影 「それにしても、ほんま衝撃の展開や。富士鷹メソッド、おそるべしや」 フジモリ 「上げといて落とす、落としといて上げるというテクニックは読者の感情を揺さぶるからねぇ」 御影 「・・・よし!」 フジモリ 「また変なこと思いついたな」 御影 「ウチらの書評にも「富士鷹メソッド」導入や!激しく感情揺さぶって、読者のハートをがっちりキャッチするでぇ!」 フジモリ 「言うと思った。具体的にどうするんだよ?」 御影 「んーと、まず真面目に書評してぇ」 フジモリ 「ふむふむ」 御影 「しかるのちウチのボケで落とす!シリアスとコメディで感情を揺さぶるでぇ!」 フジモリ 「いつもと同じじゃねぇかよ!」 御影 「えっ!?ほな、ウチらの書評は「富士鷹メソッド」やったん?」 フジモリ 「全然違うって!愛も絶望も与えてないって!」 |