| フジモリの脳内ラビリンス
〜a labyrinth in fujimori's brain〜 Onehundred-sixth bookshelf(ネタバレ感想) 木村航『さよなら、ぺとぺとさん』 |
なんでもないあいさつが嬉しかった。 なんでもないごはんがおいしかった。 なんでもない宿題がスリリングだった。 なんでもないラジオ体操が楽しみだった。 なんでもないフォークダンスが大イベントだった。 なんでもないスクール水着が宝物だった。 なんでもない毎日だった。 なのに、どれもこれも、特別だった。 フジモリ 「今回取り上げるのは木村航「さよなら、ぺとぺとさん」だ」 御景 「おはよーさーん」 フジモリ 「えーっと、御景のほう?」 御景 「そやでぇ。「癒し系関西弁」で「妹」の話言ぅたらウチの出番やわぁ。今作は以前書評した「ぺとぺとさん」の続編やねんなぁ」 フジモリ 「そう。じゃあまず、あらすじをお願い」 御景 「おう。めっさ気合入れていくでぇ」 フジモリ 「いや、そんなに張り切らなくてもいいから」 御景 「ほな、普通に。 シンゴの家は、この夏四人の居候を抱え込んだ。妖怪「ぺとぺとさん」のぺと子とその母のまる子、「カッパ」の沙原くぐるとその妹のちょちょ丸だ。なんかいいなーと思うシンゴだが、妹の智恵は気にくわないようだ。 そして、今日も騒動が起こる。 ラジオ体操、キャンプ、一日署長、いもてん、父娘の再会。そして、別れ・・・。 ちゅう話やわぁ」 フジモリ 「さっき御景が言ったけど、この話は「ぺとぺとさん」の続編。ミにょコンが終わり、仲直りしたちょちょ丸とくぐる、そして藤村鳩子ことぺと子がシンゴの家に居候しているところから物語が始まる」 御景 「舞台は鮎川町という小さな街、人間と妖怪(作品内では「特定種族」と呼ばれる)が共存する世界やな。んーで、まずぺと子たちは「にょみの里」のコンパニオーンとして銀座に行くねんな」 フジモリ 「そう。そこでクラスメイト前田カンナの兄、言海に出会う。言海は妖怪の彼女を連れていて、非常に仲良くしている。妖怪に異常なまでの敵対心を持っていたカンナだけど、前作では「なぜ妖怪嫌いになったのか」について掘り下げてはいなかった。それは、今作でこのエピソードを書く伏線だった、ってことだ」 御景 「そやなぁ。カンナは東京にある兄のアパートに忍び込み、彼女と幸せそうにしている写真を見んねんな。「妖怪に誑かされた」と思っていたカンナは衝撃を受けるわけや。兄は本当に彼女を愛している、と知ったカンナは、妖怪に対して心を閉ざしていた自らを恥じ、ぺと子たちに対しての心境が変化すんねん。この言海と彼女の姿に代表されるように、種族間を超えた恋愛、つまり人間と妖怪との恋愛、ちゅうのがこの作品の一つのテーマやねんなぁ」 フジモリ 「そのとおり。今作のテーマの一つが「愛」だと思う。まあ、それは後でゆっくり話すとして、話を進めよう。その後、キャンプや一日署長など、「なにげない、でも楽しい日常」が続く」 御景 「なんか、あずまきよひこ「よつばと!」を彷彿とさせるわぁ」 フジモリ 「そうだね。あの作品もなにげない日常の楽しさを伝えているね。で、途中重要な鍵を握る妖怪が「化けダニ」。成仏出来なかった人間の怨念が変化した妖怪で、人の不幸やマイナスの感情を求めて集まる習性がある。これが友里先生の家に住み着いていたわけだ。で、そんな楽しい日常を過ごしながら、ぺと子はちょちょ丸に「専属モデルになって、一緒に博多にきて欲しい」とスカウトされる。ぺと子は思い悩む。シンジのこと、みんなのこと。そして、ぺと子は博多に行く決意をするわけだ」 御景 「このぺと子の決意は胸が苦しゅうなるなぁ」 フジモリ 「そうだね。シンゴを好きがゆえに、自身の体質(愛しい人に触れると、ぺとっとくっついてしまう)がシンゴに迷惑を与えてしまい、身を引き、くぐるとシンゴをくっつける計画「プロジェクト・アケガラス」を行う覚悟をするわけだ。ぺと子は自身がストーカー妖怪だと言うことにコンプレックスを持っている。この「愛することで相手を傷つけてしまう」というジレンマは、なにもぺと子とシンゴの問題に限ったことではない。「自身の愛が相手への負担になっていないか」と思うことは決して珍しい例ではないと思うし、ぺと子とシンゴは「種族間の違い」に悩むわけだけど、現実世界でも「身分の違い」「民族の違い」など恋愛の障壁は多々ある。この「さよなら、ぺとぺとさん」ではぺと子の悩みをシンゴが受け止め、それに応えることでハッピーエンドになるわけだけど、ぺと子の「種族間の違い」による悩みはぺと子からシンゴに発信されるベクトルだった。それにシンゴが応える、つまりお互いの意思を確認するということで二人の繋がりがより強化された、というわけだ」 御景 「そやなぁ。「愛」は大事やでぇ。なにせ、「未来(mirai)」には「愛(ai)」が不可欠なわけやし」 フジモリ 「ほぉ」 御景 「んで、「愛」の中には「心」がある」 フジモリ 「うまいこというね」 御景 「「心(heart)」は「聞くこと(hear)」なくしてありえへんわけや。「聞くこと」、つまり相手の想いに耳をすまし、受け止めることが必要なわけやね」 フジモリ 「なんか凄く良いこと言ってるよ!何だ今回の書評は!」 御景 「前作もそうやけど、めっちゃメッセージ性に富んだ作品やねんもん。こっちもメッセージを発信せな!(ちなみにさっきのフレーズは、とある詩をアレンジしましたぁ)」 フジモリ 「ま、まあな」 御景 「あんなぺとぺとする癒し系関西弁の娘になんか負けてられへん!」 フジモリ 「対抗意識かよ!いいって!そんな対抗心抱かなくって!」 御景 「せやってぇ、ぺと子のおかげで癒し系関西弁キャラランキングのTOPの座を追われてんもん〜」 フジモリ 「最初からTOPにいなかったって!」 御景 「えぇ〜。ウチ内のランキングでは長期にわたってTOPを維持しててんよぉ」 フジモリ 「お前の脳内ランキングかよ!じゃあTOPの座を追われるなよ!」 御景 「せやかてぇ、ぺと子にはかなわへんやん。最後の化けダニのときもそうやん?」 フジモリ 「確かに。終盤で、ぺと子たちは化けダニの大群に襲われる。そこでシンゴが見たものは、ぺと子のつらい記憶。「化けダニは人の不幸やマイナスの感情を求めて集まる」シンゴの頭に友里先生の言った言葉が蘇る。研究室で「実験体」として扱われるぺと子。寝かせられた診察台の冷たさ。ホーローびきの洗面器に満たされた消毒薬のかすかなにおい。医者の言葉、「学名なんだっけ、これ」・・・。その凄惨な過去は今までほんわかした気分で読んでいた読者に冷水を浴びせる。シンゴと読者は気付くわけだ。ぺと子が「なにげない日常」を楽しんでいたのは、「なにげない日常」を過ごせなかった過去があるから。そして、だからこそ、ぺと子は「なにげない日常」をかけがえの無いもの、宝石のように大事なものとして受け止めているのだと。否応無く、読者は現実世界での「なにげない日常を過ごすことのできない人たち」を思い浮かべ、重ね合わせてしまうだろう」 御景 「さっき例に出した「よつばと!」の主人公、小岩井よつばもそうやんなぁ。おそらく重い過去を背負ってんやろうけど、それがあるからこそ、日々を楽しめる。 大丈夫大丈夫。 あいつは何でも楽しめるからな。 よつばは、無敵だ。(1巻、p222) とーちゃんもこぉ言っとぉし」 フジモリ 「そうだね。前半で「なにげない日常」を丁寧に書き込んだのはこのクライマックスを引き立たせる為だ。前作では妖怪と人間の関係をクローズアップし「平和」とか「家族愛」をテーマにもっていたが、今作では「愛」と「日常」をテーマとして持っている。シンゴはこれらのテーマを受け止め、それでもぺと子を「好きになっていく」決意をするわけだ。読者がカタルシスを得る瞬間だね」 御景 「そやなぁ。けっこう重いテーマを持った作品なんやなぁ」 フジモリ 「とはいうもの、ぺと子やシンゴ、くぐるなど個性豊かなキャラクタのやりとりで、ぐいぐい読者を引き込む勢いがあるし、YUGさんの描くイラストが楽しいキャラクタの掛け合いに彩りを添えている。イラストと本文の良い相乗効果だね。重いテーマを持ちながらも読者に清涼な読後感を与える。表紙やイラストで敬遠することなく、いろんな人に読んでもらいたい作品だった。これが、今回の感想かな?」 御景 「うーん、めっちゃえぇ本やったわぁ」 フジモリ 「そうだね。読んだ後、なにげない日常を過ごすことのありがたさに感謝したくなるよ。日々が輝いて見えるね」 御景 「せやけど、「さよなら、ぺとぺとさん」やねんもんなぁ。これでさよならかと思うと、なんや読み終わるのがもったいなくなるわぁ」 フジモリ 「まあ、「さよなら」と言っても永遠のものではないし、ぺと子とシンゴは遠く離れ離れになっても心が通じ合ってるわけだし」 御景 「そやなぁ。さよならは別れの言葉じゃなくて再び会うまでの遠い約束やねんもんなぁ」 フジモリ 「古いなぁ」 御景 「最後もメッセージ性を込めてみました」 フジモリ 「わけわかんないよ」 御景 「いや、ぺと子たちセーラー服やん」 フジモリ 「だからかよ」 御景 「それに、誰しも心の中に機関銃を持っとおし」 フジモリ 「うまいこと言ったつもりかよ!余計わけわかんないよ!」 御景 「あなたのハートに機関銃!」 フジモリ 「エスパー魔美かよ!仁丹の代わりに機関銃打ち込まれたくないよ!」 |