フジモリの脳内ラビリンス

〜a labyrinth in fujimori's brain〜

Onehundred-fourth bookshelf(ネタバレ感想)
森博嗣『τになるまで待って』


註!今回の書評には内容に関するネタバレがあります。未読の方はご注意ください。



「わかった」海月は片手を広げた。「悪かった」


舞奈 「♪待って待って待って待って、待って〜」

御影 「何やねんその歌」

舞奈 「えーっと、粋歌っていうマイナーコミックバンドの「泪の終電車」」

御影 「それフジモリのバンドやろが!読者が全く知らん歌を歌うなや!」

舞奈 「でも、じゃすらっく通さないから思う存分歌えるでしょ。あ、CD欲しい方はこちら」

御影 「募集するなぁっ!無いって、宛先なんて無いって!」

舞奈 「というわけで、今回取り上げるのは森博嗣の「τになるまで待って」です」

御影 「いつにもましてエッジ効かせたツカミやな」

舞奈 「まあまあ。いつもお約束ばかりじゃつまらないでしょ?賛否両論あるぐらいぎりぎりまで削るのが面白いんだから」

御影 「舞奈の話は論旨よりも対象読者を削ってるような気ぃすんねんけど」

舞奈 「事実なんでコメントしません。話戻して。今作は、Gシリーズ3話目になります。では御影、あらすじお願い」

御影 「うう。ほないくで。

森林の中に佇立する<伽藍離館(がらりかん)>。
“超能力者”神居静哉(かみいせいや)の別荘であるこの洋館を、7名の人物が訪れた。雷鳴、閉ざされた扉、つながらない電話、晩餐の後に起きる密室殺人。被害者が殺される直前に聴いていたラジオドラマは『τ(タウ)になるまで待って』。この密室に、海月、山吹、加部谷らが挑む・・・。

ちゅう話や」

舞奈 「今回も若干ネタバレでいくわよ」

御影 「若干なんや」

舞奈 「うん。「バカウケ」「ややウケ」「ドッチラケ」でいうところの「ややウケ」ぐらいかしら」

御影 「読者の9割置いていっとぉ!」

舞奈 「いや、8割ぐらいじゃない?まあいいわ。今回の舞台は嵐の山荘。もうこの言葉使うの飽きたけど、ほんと「直球」よねぇ」

御影 「せやけど、連続殺人とまでいかんかったなぁ。次々と殺される来訪者!犯人はお前や!ゆぅんもなかったし。そもそも、犯人が不明やし」

舞奈 「そうね。これまでの森作品って「動機」をあえて書き込まないという定評があったけど、今作は「犯人の提示」すら放棄している。新しいわよね」

御影 「一応、この人ちゃうんかな?という含みはあったけどなぁ。次作以降に持ち越しなんかなぁ?」

舞奈 「書かれなかったとしても驚かないけどね。まあ、今回は海月をはじめとする登場人物の人間模様と、シリーズ全体の伏線という繋ぎ的な話だったように思うわ」

御影 「Gシリーズの「G」と思われる、「Greek(ギリシャ文字)」やね。今回はラジオドラマのタイトル「τになるまで待って」。このギリシャ文字はMNIと呼ばれる宗教団体と関連性がありそう、いぅことやね」

舞奈 「そうね。MNIと真賀田四季とのつながり。そして、赤柳初朗というキャラもその存在感を増してきたわ」

御影 「明らかに偽名やんなぁ。元ネタは「青柳ういろう」やもん」

舞奈 「今のところ分かっているのは、

・男である。髭は付け髭ではない。(睦子が「年季が入った」という表現をしている)
・保呂草と知り合い。
・喋りのイントネーションで保呂草は赤柳の正体がわかった。「那古野」のイントネーション?
(※名古屋人は「名古屋」の「ご」にアクセントをつけます)
・保呂草と「船で一緒だった」らしい。
・各務は赤柳を知らない。
・西之園萌絵と会ったことは無い?
・睦子と知り合い?以前は髭がなかった?

ぐらいかなぁ。もし今までのシリーズに登場したんだったら、「森川素直」か「秋野秀和」あたりが臭いんだけど。以前のVシリーズの仕掛けと違って、今回は確信が無いわ」

御影 「まあ、今後徐々に明らかになっていくやろ」

舞奈 「そうね。このシリーズ、「シリーズ通しての謎を叙述トリックで」、「作品自体のトリックは王道の物理トリックで」と使い分けてる気がする。二重に楽しめそうね」

御影 「あとは、登場人物の人間模様な」

舞奈 「そうそう、忘れてたわ。今作は加部谷がいろんな意味で大活躍。この感情の動きも面白いわね。「電波系」海月と「ツンデレ系」山吹の間で揺れ動く女心・・・。くぅ!いけずぅ!」

御影 「・・・」

舞奈 「・・・」

御影 「・・・・・・」

舞奈 「・・・・・・」

御影 「えーっと、どこかで聞いたお話やねんけど」

舞奈 「そうよ。以前「わたしたちの田村くん」という本を書評したときに話したもん。「電波少女とツンデレ少女の間で揺れ動く田村くん」というのを、ジェンダーをひっくり返すと、「電波(海月)とツンデレ(山吹)の間で揺れ動く加部谷」という構図になるでしょ?」

御影 「前回の話も前フリやったんかい!」

舞奈 「ネタフリの三重底。エッジ利かせてみました」

御影 「利かせすぎやって!」

舞奈 「でも、言われれば「なるほど」、って思うでしょ?「何を考えているかわからない」電波属性(まあ、この場合は少しマイルドに「無表情」属性としましょうか)の海月に、加部谷は必死にコミュニケーションを図ろうとしてる。その感情のベクトルが強いんで、現在加部谷の心は海月に傾いているわ。一方、山吹は加部谷に冷たく接する。つまり「ツン」な状態ね。でも今回は加部谷を少し気遣うところも見せてるし、「デレ」の兆候があるわね」

御影 「Gシリーズってそういう作品やったん?」

舞奈 「んーん。違うと思う。でも、こういった視点から見ると新たな楽しみ方が出来るでしょ?私たちの書評は「いかに作品の面白さを伝えるか」をモットーにしてる一方で、「いかに読み手が想像つかなかった作品の楽しみ方(視点)を提示できるか」も重要視していきたいと思ってるの。少なくとも、「私たちの田村くん」ほど恋愛恋愛してないけど、「電波」と「ツンデレ」の配置という共通点から比較するというのも面白いと思うわ。現在のところ海月が一歩リードだけど、予断を許さない状況ね」

御影 「ひねくれもんやなぁ」

舞奈 「重々承知の上よ。もともとマイナー属性だしね」

御影 「そうなんや」

舞奈 「マイナーって言うな!ニッチって言え!」

御影 「わけわからんわ」

舞奈 「ともあれ、作品単体としては各所に謎を残すけど、S&MシリーズもVシリーズも3話目は似たようなもんだし(しかも館という共通点もあるけど)、残された謎に素直に「?」となってみるのも一興ね。Gシリーズ自体に興味をもたせる本、それが今回の感想かしら」




御影 「あんなぁ」

舞奈 「何?」

御影 「物事をなんでも「ツンデレ」だとか「電波」だとか萌え属性カテゴライズするんは、あんま良ぉない思うねんけど」

舞奈 「どうしてよ?あらゆる方向から物事を見る!それが本読みの醍醐味じゃないの!」

御影 「そうは言ってもなぁ」

舞奈 「例えば、ドストエフスキーの「罪と罰」を本格ミステリとして書評する人だって、世の中のどこかにはいるかも知れないわよ?」

御影 「えぇ〜。まさかぁ〜」

舞奈 「そうよね〜。今のは言いすぎたわ。そんな人、いるわけ無いわよねぇ〜」

御影 「そうやんねぇ」

舞奈御影 「「あはははは〜」」



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