フジモリの脳内ラビリンス

〜a labyrinth in fujimori's brain〜

Onehundred-third bookshelf (ネタバレ感想)
竹宮ゆゆこ『わたしたちの田村くん(2)』


註!今回の書評には内容に関するネタバレがあります。未読の方はご注意ください。



何度もごめん、と繰り返した。
俺だってずっと好きだったと、繰り返した。
弱くてごめん、ばかでごめん、何度も何度もそう繰り返した。


舞奈 「今回の書評は竹宮ゆゆこ「わたしたちの田村くん」2巻です」

御影 前回は「電波少女」「ツンデレ少女」の説明で終わったような気ぃすんねんけど」

舞奈 「「気がするん」じゃなくって実際そうだったでしょ。あ、その前に」

御影 「なんやねん」

舞奈 「前回の書評で不適切な発言があったことをお詫びいたします(ぺこり)」

御影 「お詫びするぐらいやったら最初から言うなぁっ!だいたい、この書評、連チャンでやっとんねんから、お詫びする前に修正できるやろが!」

舞奈 「前回のオチで「ディアボロ」を「ツンデレ」って言ったけど、あれ実際には「ディアボロ」が「ツン」で「ドッピオ」が「デレ」だったんで、厳密に言うと「ツンデレ」じゃなくてただの「二重人格」だったのよね。不適切でした。失敗失敗、てへっ」

御影 「謝るところそこ!?」

舞奈 「さ、禊も済んだんでサクサクいくわよ。まずはあらすじお願い」

御影 「うう。人の話聞かん分フジモリよりタチ悪いわぁ。ほな、いくで。1巻のダイジェストも交えながらのあらすじや。

電波少女、松澤小巻に想いを伝えたオレ、田村雪貞(主人公)。松澤もオレの想いに応えるが、家庭の事情で転校してしまう。新たな気持ちで迎える新学期、オレはツンデレ少女相馬広香と親しくなり、キスまでしてしまう。夢うつつで帰宅したオレに届いた松澤からの手紙。
 「相馬さんって、誰?」
オレは、どちらの想いに応えたらいいのか?折りしも、松澤が陸上の大会でオレの街に来ることになり・・・。

ちゅう話や」

舞奈 「ありがと。えーっと、今回の書評はネタバレです。この本でいうネタバレは「田村くんがどちらの女性を選んだか」ということ。未読の方はご注意ください」

御影 「・・・に、しても、田村くんって最低やなぁ。二股はあかんやろ」

舞奈 「まあ、ラブコメの主人公って優柔不断がお約束だから。読者はその優柔不断さに突っ込みいれたりイライラしたりと一緒になって感情を揺らすことで物語を楽しむわけだから」

御影 「そやけどなぁ」

舞奈 「それに、ちゃんと田村くんも「電波少女」松澤を選んで結論出したじゃない」

御影 「まぁなぁ。そうそう、この小説でおもろいんが、ダブルヒロインの松澤と相馬が「一度も出会っていない」ことやね。普通、「恋の鞘当て」を描くときは、ダブルヒロインが主人公を巡って丁々発止するさまを楽しむもんやん?」

舞奈 「修羅場とも言うわね」

御影 「生々しいなぁ。で、この「わたしたちの田村くん」ではそれが一切ない。「田村くん」を通じて互いの存在を知るわけやろ?この手法は結構斬新やと思うわ」

舞奈 「確かに。まあ、ラブコメってフジモリの書評の脆弱性なんで他に事例があるかもしれないけど、少なくとも私にとっては初めてのシチュエーションだったわ」

御影 「そやね」

舞奈 「でも、「ヒロイン同士の対決」が無い分、余計「田村くん」の心の動きがクローズアップされるってわけよ。タイトルに偽りなし、この物語の主人公は正真正銘「田村くん」なわけ」

御影 「確かに。田村くんが二人の間で板ばさみになるとこは読んでおもろいもんなぁ」

舞奈 「そうね。で、その苦悩が滔々と続き、自身に対するヒロインの想いに気づき、自分がどちらを選べばいいのか気づく。その一連の流れは、今までの葛藤を知り「田村くん」に感情移入してきた人ならカタルシスを得ることうけあいね。そして想いに気づいた後の一直線な行動。読者は田村くんの「バカさ」が「若さの特権」であることに思いを馳せるわけね。同世代の読者ならそのエネルギィに背中を押され、過去「田村くん」だった世代は「ノスタルジィ」を得る」

御影 「なるほどなぁ。それに、田村くんがきちんと結論を出したところが偉いわ。一人を選んだとき、もう一人は傷つく。その苦しみから逃げず、結論を出す。この「決断」を作者がきっちり書ききっとぉもんなぁ。まあ、含みを持たせたラストはご愛嬌やけど」

舞奈 「で、選んだ答えが「電波少女」松澤だったってわけよ」

御影 「まあ、読者の好みもあるやろからどっちを選んでも賛否両論あるやろけど、どうなん、この結論は?」

舞奈 「うん、非常に順当な結論だと思うわ」

御影 「そぉなん?」

舞奈 「理由は二つ。一つ目は、田村くんが最初に松澤と両想いになったから。いくら遠距離になったからとはいえ、これで松澤蹴って相馬とくっついたら「小説の」倫理上収まりが悪いわよね。ま、現実世界だったらありそうだけど」

御影 「不謹慎なこと言うなぁ!」

舞奈 「つまり、「小説」としてこの結論は妥当だったわけよ。他に例を挙げると漫画「いちご100%」かしら。最初に主人公と付き合った「サブヒロイン」と一緒になったのよね。あ、ネタバレだったらごめんなさい」

御影 「確かに、「恋愛小説」のパターンとしては妥当かもなぁ。田村くんは松澤を「最初に好きになって」「最初に両想いになってる」わけやもんなぁ。「いちご100%」は主人公が「最初に好きになった人」と「最初に付き合った人」が別だったからドロドロしたわけやけど」

舞奈 「でも、そこで「最初に好きになった人」じゃなくって「最初に付き合った人」を選んだところがあの作品の面白いところでもあるわね。で、二つ目の理由。それは、松澤が「電波少女」だったこと」

御影 「は?」

舞奈 「「電波少女」と「ツンデレ少女」では、主人公が「電波少女」を選ぶのはしょうがないのよねぇ」

御影 「えーっと、突っ込むところ?」

舞奈 「ところが違うのよ。前回の書評で「電波少女」「ツンデレ少女」をじっくりと説明したのは今からする話をきちんと理解してもらうため。まず、「電波少女」。この属性は「何を考えているのか分からない」のが特徴。実際、田村くんは「電波少女」である松澤のことを知ろうと努力し、コミュニケーションを図るわ。そして途中で彼女の過去を知った時点で「自分が知ろうとしていたのは彼女の上辺だけだった」と自己嫌悪に陥るの。そして、再度松澤を理解し、心に触れようとするわけ。これは非常に能動的な行為。感情の発し手は田村くんなの」

御影 「ふむふむ」

舞奈 「一方、「ツンデレ少女」相馬は田村くんを気になりだし「デレ」状態になった後は、お弁当を作ったり一緒に登下校したりと果敢にアタックを仕掛ける。田村くんはアタックしてくる相馬の想いに「応える」という「受動的な行為」なの」

御影 「感情のベクトルで言ぅと、

 松澤 ← 田村くん ← 相馬

なわけやね」

舞奈 「そう。あくまで「ベクトル」であって、松澤から田村くんへの想いもあるし、田村くんから相馬への想いもあるんで、上記は相関図でないところがポイントね」

御影 「そやな」

舞奈 「で、「能動的な想い」と「受動的な想い」では、感情の量として前者の方が大きい。田村くんに「松澤と相馬、どちらが好き(=どちらへの「好き」の気持ちが大きい?)」という問いを投げかければ、能動的に想いを「発して」いた松澤を選ぶというのは当然の帰結ってわけ」

御影 「ほぉ。すごい理論やなぁ」

舞奈 「ちなみに、このネタはアイヨシさんからいただきました」

御影 「ばらすなや!」

舞奈 「まあまあ。でも、言われてみればそうでしょ?それに、フジモリも常々言ってたけど、「一旦感情がある方向に向かって動くと、軌道を変更するのにエネルギィが必要となる。感情が大きければ大きいほど必要なエネルギィはそれに比例する」と言ってたわよ」

御影 「ま、そりゃそうやな」

舞奈 「これを「感性の法則」と言います」

御影 「駄洒落やん!」

舞奈 「でも、「感情」という物理法則から逸脱したものに対しても「慣性の法則」が成り立つってのが凄いわよね。そういう意味も込めてます」

御影 「またうまいこと言いよるし」

舞奈 「そういうわけで、前回の書評で「電波少女」と「ツンデレ少女」を配したことの巧さを褒めたけど、主人公に対する感情のベクトルが正反対という意味で非常に効果的な配置だったわけ」

御影 「なるほど。深いなぁ」

舞奈 「ちなみに、松澤と相馬、実際に読者からの人気があると思われるのは相馬でしょうね。理由は三つ。一つ目の理由は、現実世界に「電波少女」が居ても引くだけだから」

御影 「身も蓋もないこと言うなや!」

舞奈 「事実でしょ?あくまで現実世界である「私達」は、小説を読んでいる間は主人公に感情移入しても「どちらが好きか?」と聞かれたら「小説世界に居る松澤と相馬」ではなく「現実世界に居る松澤と相馬」にディメンション・シフトして考えるでしょ?となると、「電波系」よりも「ツンデレ」が人気になるってわけ。まあ、松澤が「天然ボケ」「ドジ」レベルだったらこれが逆転するんだけどね」

御影 「えっと、これ、「萌え属性講義」の続き?」

舞奈 「あ、似てるかも。で、二つ目の理由が、「役割」に対する読者の感情ね」

御影 「役割?」

舞奈 「そう。昔から「判官贔屓」って言うでしょ?「恋に破れる役割」を与えられている相馬に人気(同情票含む)があるのは、さもありなん、なわけ」

御影 「ああ、それは確かにそうやなぁ」

舞奈 「三つ目が、相馬が「ツンデレ」だったこと」

御影 「結局それかいっ!」

舞奈 「んーと、「松澤と相馬が現実世界に居て、自身に「田村くん」という役割が与えられていたら」という前提条件で二者択一した場合、「相馬」は自身に「想い」を向けているわ。相手の「好き」が確認できるってわけ。それに、「他の人は知らない彼女の一面」という現象を「ツンデレ」という属性で具象化しているわよね。「白馬の王女様」なんて言葉もあるぐらいだし、恋愛では受動的な方が楽だもんね。てなわけで、相馬が「ツンデレ」の時点で「勝負あった!」わけよ」

御影 「もはや今回の話って書評から大幅にずれとぉような気がすんねんけど」

舞奈 「書評からずれるってのはいつもどおりでしょ。まあ、作品に話を戻すと、ストーリィとしてはラブコメの王道「恋の鞘当て」に、「電波少女」と「ツンデレ少女」という絶妙な配置を行い、しかし主人公は「選択」から逃げていないわ。田村くんの苦悩をともに味わい、カタルシスを得る。そして「恋愛」に必要不可欠な「相互理解」もきっちりと書いているわ。恋愛という要素以外に読者が考えさせることがあると思う。ラブコメに敬遠している人にこそ読んでほしいわ。それが、今回の感想かしら?」




御影 「いやぁ、結構おもろい話やったなぁ」

舞奈 「どう?単なる「萌えキャラ」の「萌え属性」について語るだけじゃないでしょ。私だってたまには真面目な話をするのよ」

御影 「うん、ちょっと見直した」

舞奈 「まあね。このメガネは伊達じゃないってわけよ(きらーん)」

御影 「いや、メガネかけてないやろ」

舞奈 「でも、松澤さんがメガネかけてたら人気のバランスがとれてたかもね」

御影 「いや、その話はもうええって」

舞奈 「「電波」属性単体では「ツンデレ」に対抗するのはキツいもんね。別の属性加えて対抗しないと」

御影 「はぁ」

舞奈 「というわけで、あなたも簡単に萌え属性を加えられる魔法のアイテム!萌えデータベース〜(ドラえもん風に)」

御影 「使いまわしやん!」

舞奈 「じゃあ、私の魅力を更に増す属性を追加しよっと。えーっと、「メガネ」で、「委員長」で、「ドジ」な、・・・「スタンド使い」。よし、これだぁっ!・・・ゴゴゴゴゴゴ・・・」

御影 「2回連続でジョジョオチかいっ!」



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