フジモリの脳内ラビリンス

〜a labyrinth in fujimori's brain〜

Onehundred-First bookshelf(ネタバレ感想)
森博嗣『θは遊んでくれたよ』


註!今回の書評には内容に関するネタバレがあります。未読の方はご注意ください。



「誰が、顔や手にそれを書いたんですか?」


舞奈 「(暗闇の中、スポットライトが当たりながら)え〜、間違いというものは誰にでもあるわけでしてぇ〜」

御影 「お、新しいツカミやな」

舞奈 「(自身の額に指をコツコツと当てて)んー、一度先入観を持ってしまうとぉ、訂正が入っても頭の中で修正するのが難しいものですぅ〜」

御影 「ふんふん」

舞奈 「(鼻声で)以上、『ぶる゛ばだに゛ん゛ざぶろ゛う』でじだぁ」

御影 「待て待て待てぇいっ!」

舞奈 「♪ちゃちゃちゃ(2拍3連符)ちゃちゃちゃ(2拍3連符)〜ちゃちゃ〜ちゃちゃ〜ん〜(ぱらぱっ♪ぱらぱっ♪)」

御影 「待てちゅうに!何で古畑任三郎やねん!しかも『ぶる゛ばだに゛ん゛ざぶろ゛う』って全部に濁点付いとぉやん!付けすぎやって!」

舞奈 「(鼻声で)ん〜、今泉クン、何か言ったかな?」

御影 「今泉ちゃうわ!わけわからんわ!」

舞奈 「・・・と、いうわけで、今回読んだのは森博嗣「θは遊んでくれたよ」です」

御影 「なんで「と、いうわけで」やねん」

舞奈 「まあまあ。そのうち分かるって。まずはあらすじからいきましょ。御影、お願い〜」

御影 「うーん、あとでじっくり問いただしたろ。ほな、いくで。

 飛び降り自殺とされた男性死体の額には「θ(シータ)」と描かれていた。
 半月後には手のひらに同じマークのある女性の死体が。
 さらに、その後発見された複数の転落死体に印されていた「θ」。
 自殺?連続殺人?
 「θ」の意味するものは?
 N大病院に勤める旧友、反町愛から事件の情報を得た西之園萌絵らの推理は……。

 ちゅう話や」

舞奈 「このシリーズ、「Gシリーズ」と呼ばれるシリーズの2話目になります」

御影 「以前の書評「φは壊れたね」で、Qシリーズ言ぅてしもてんけど」

舞奈 「そうなのよ、講談社のメルマガに「Qシリーズ」と書いてあったんで頭に残ってたのよね。記憶を思い起こすと、その後「Qシリーズではなく『新シリーズ』」とメルマガで訂正版がきてました。まさに叙述トリック!」

御影 「いやいや、そういう使い方するもんちゃうから。で、それがさっきの「先入観」の話につながるんやね?」

舞奈 「それだけじゃないけどね。さてさて、今回は死体に連続して残る「θ」という文字の謎を解く話です。前回の書評でも話したけど、核となるトリック部分は実に「直球」、スタンダードなものよね」

御影 「アガサクリスティの某作品やね。それと、古畑任三郎の某作品・・・って、そういうことかいっ!」

舞奈 「そういうこと。アガサの某作品というより、古畑任三郎で同じネタやってたわよね。「異なる死因を持った死体に同一のマークをつける」「マークをつけるのは死体が病院に運ばれてから」「本命を殺害し、自らマークをつける」「犯人は検死関係者」。私、そんなにミステリィ知らないんで、それ以外にあるのかもしれないけど」

御影 「古畑のパクリなん?」

舞奈 「うーん、森博嗣ってほとんどテレビ見てないそうだし、違うと思う。それに、古畑よりブラッシュアップされてるしね」

御影 「ブラッシュアップ?」

舞奈 「そうね。私も古畑の某作品見てたんで、あらすじ読んだだけでその可能性に思い至ったわ。ただ、読み始めると、

・第1の死体には発見当時から「θ」のマークがついていたこと。
・第2、第3の死体は第1の死体と同じ口紅で「θ」と書かれていた(ように犯人が証拠を改竄した)こと。
・第1の自殺者が見ていた「θ」のサイトを意味ありげに引っ張り、第3の死者も死ぬ前にメールを見ており、関連性があるようにミスリーディングしていること。
・第5の死者が頬に「θ」を書いて自殺したこと。

など、巧みにその「可能性」を排除するよう水を向けていってる。まんまと騙された、ってわけ。最初に言った話と矛盾するけど、先入観があり、答えとしてはそれと同一ながらも一旦読者に否定の可能性を見せる手法は巧いと思うわ。ちなみに、冒頭のセリフは犀川が事件の話を聞いて最初に発したセリフ。実は、この事件の核心を突いていた一言なのよ」

御影 「うーん。せやけど、同じトリックなわけやろ?なんか釈然とせんわぁ」

舞奈 「そうかしら?たとえトリックが同じで後発の作品でも、後世の読者が読むときは古典も現代もフラットに触れるわけでしょ?実際、フジモリだって「占星術殺人事件」の前に「金田一少年の事件簿」の某作品を「読んでしまった」わけだし。極論すると、後出しジャンケンだろうが「面白い」「洗練されている」作品が「オリジナル」だと思われる可能性は充分あるってこと。音楽なんかで「このフレーズパクりだ!」って思う曲がたまにあるけど、受け手が元ネタを知らずにそのグループの曲聞き、そのあとでオリジナルの曲を聞いたら元ネタとパクリ先を逆転して認識する可能性があるものね。・・・あー、まどろっこしい。具体名出していい?」

御影 「駄目やって!・・・まあ、極論かも知れへんけど、言いたいことはわかるわぁ。せやけど、それやったら、ほんま後出しジャンケン、後発が有利なんちゃうん?」

舞奈 「だからこそ、受け手は経験を積み、たくさんの作品に触れて、ブック・リテラシー(造語です)を持つ必要があると思うの。古典Aという作品と同系統のトリックを使った現代作品Bがあったとして、読者がAより先にBを読む可能性は充分あると思うし、BのあとにAを読んで「Bがオリジナル?」という勘違いをしてもやむをえないことだと思う。ただ、それに対して鬼の首を取ったかのように間違いを指摘する必要はないと思うわ。その代わり、読者はAがオリジナルであることを知ったうえで改めてBを評価するという手順は必要かと思うのよ。まあ、それが難しいんだけどね。私も含めて」

御影 「ふうん。ほな、今作は過去の作品を踏襲しながらも、それをブラッシュアップしているっちゅう意味で面白かったわけやね」

舞奈 「まあ、この作品だけじゃなくって、Gシリーズ全体に共通することかもしれないけどね。今後出る作品も含めて」

御影 「んーで、国枝研のメンバーも相変わらずやったね」

舞奈 「そうね。Vシリーズでも登場人物がそれぞれ推理を持ち出しの討論してたけど、このシリーズでもそれを踏襲しているわ。いくつもの推理が提示されては否定されていくやりとりは非常にスリリングよね」

御影 「そぉいや、途中「葉っぱは見られ、鳥は死なない」って暗号があったけど、あれはどういう意味やったん?」

舞奈 「んー、まあ、「葉っぱは見られ→見る葉→観る葉→観葉」、「鳥は死なない→不死鳥」から、「フェニックス(phoenix)」というキーワードが導き出せるってわけ。観葉植物にも「フェニックス」ってのがあるのよ」

御影 「へぇ、そうなんや」

舞奈 「作中で山吹と海月が話していたけど、「フェニックス」と「φ」の関連性っていうのも今後の伏線かもね」

御影 「それに、前作に出てきた赤柳初朗が保呂草とつながっとったりして、Vシリーズみたいにシリーズ通しての仕掛けもありそぉやんな」

舞奈 「うん、それについては次作以降でゆっくり話すことにするわ。とにかく、今作も「古典」を踏まえた直球ミステリィ。古典を読んだ人はその違いを楽しめるし、読んでない人はこの作品単体でその仕掛けに驚くことができ、さらにその後古典を読むことでさらに楽しめる。その楽しみ方を提示するためにあえて同系統の仕掛けを用いたのかと裏読みしてしまうわね。今回の感想は、こんなところかしら?」




御影 「古典の踏襲かぁ。まあ、ウチらの書評もパロディ満載やしなぁ。元ネタ知らん人が読むことやってあるんやもんね」

舞奈 「(額に指をコツコツしながら)んー、今泉くん」

御影 「せやから今泉ちゃうって」

舞奈 「どう?似てるでしょ?」

御影 「いや、テキストやから読者にはわからんと思うねんけど、きっぱり似てへんで」

舞奈 「ウソぉ?田村正和の再来と呼ばれた私が?」

御影 「いや、誰も呼んでへんし、「再来」言ぅ単語を使う意味もわからへんし」

舞奈 「おかしいなぁ。んっ、んー(咳払い)・・・だむ゛ら゛でず」

御影 「せやからその濁点をやめいちゅうに」

舞奈 「あ、ごめん、鼻つまってた」

御影 「わけわからんわっ!!」



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