フジモリの脳内ラビリンス

〜a labyrinth in fujimori's brain〜

Ninty-seventh bookshelf
今野緒雪『マリア様がみてる』




「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
さわやかな朝の挨拶が、澄みきった青空にこだまする。


フジモリ 「今回取り上げるのは今野緒雪の「マリア様がみてる」だ」

御影 「ごきげんよう」

フジモリ 「ご、ごきげんよう」

御影 「また来週(手を振って立ち去る)」

フジモリ 「帰ってどうすんだよ!会った時の挨拶だろ、「ごきげんよう」って」

御影 「♪ハイカラさんが通る〜」

フジモリ 「わけわかんないって!なんだよいきなり」

御影 「まあ、挨拶代わりのボケっちゅうことでぇ」

フジモリ 「どんな挨拶だよ。・・・この「マリア様がみてる」を出版しているのは集英社コバルト文庫という少女小説レーベル。フジモリにとって、未知の領域だね」

御影 「なんで読もうと思ったん?」

フジモリ 「この小説、非常に評判が高く、本来のターゲットである中高生の少女たち以外が読んでも面白いとの噂を聞いたんで、まあ、後学のために挑んでみたわけだ」

御影 「よぉレジに持っていけたなぁ」

フジモリ 「まあ、背広着たサラリーマンがレジに持っていくには恥じらいがあるが」

御影 「恥じらいってなんやねん。気持ち悪いなぁ」

フジモリ 「え、ま、まあ、少女小説チックに」

御影 「それこそわけわからんわぁ。・・・あらすじ行くでぇ。

純粋培養の乙女達が集う、私立リリアン女学園。
清く正しい学園生活を送るため、高等部には「姉妹(スール)」と呼ばれるシステムが存在していた。
ロザリオを授受する儀式を行って姉妹となることを誓うと、姉である先輩が後輩の妹を指導するのである。
高等部に進学して、まだ姉を持っていなかった福沢祐巳は、憧れの「紅薔薇のつぼみ(ロサ・キネンシス・アン・ブウトン)」である二年生の小笠原祥子から、突然「姉妹宣言」をされるが・・・。

ちゅう話やね」

フジモリ 「では感想に入ろうか。まず、舞台がすごいよね」

御影 「そやねぇ。十八年通えば温室育ちの純粋培養のお嬢様が箱入りで出荷される、私立リリアン女学園。執行部は「赤薔薇さま(ロサ・キネンシス)」「黄薔薇さま(ロサ・フェティダ)」「白薔薇さま(ロサ・ギガンティア)」の3人をはじめとする「山百合会」によって運営されていて、彼女らは学校の「アイドル」に近い存在、正に一般生徒の「憧れの的」や」

フジモリ 「「姉妹(スール)という制度があったり、なんというか、「ファンタジィ」の領域だよね」

御影 「確かに「異世界」やわなぁ。この舞台を楽しむだけでも読む価値はあるわぁ」

フジモリ 「ファンタジィ、ひいては「架空世界(異世界)もの」というのは「剣と魔法の世界」というイメージが強いけど(まあ、最近では時代設定を現代にした「スタンド能力もの」が主流かな)、自分たちと同じ時代、同じ世界背景でもこういった「異世界」を作り出すことができる。例えば新城カズマ「蓬莱学園シリーズ」なんていうのはこれに該当するけど、舞台である「蓬莱学園」は学園の規模や中身がひとつの「国家」に匹敵している。「架空世界」の「架空」を前面に出し、読者が「架空」を楽しむ内容だ。しかし「マリア様がみてる」はあくまで現実にこんな学園ってありそうだな、と思わせる設定でありながらも、その「架空」が楽しめるという、「蓬莱シリーズ」とは異なるベクトルを持っている」

御影 「あんたが男やから、ちゅうことが大きいけどなぁ」

フジモリ 「まあ、そうなんだけどね。とにかく、この「舞台設定」の上で、ストーリィが進められているわけだ」

御影 「ストーリィはどうやったん?」

フジモリ 「うん。この「マリア様がみてる」、シリーズ全般を通して、二つのテーマがあると思う。「成長」と「恋愛」だ」

御影 「ほうほう」

フジモリ 「まずは「成長」という要素。主人公、福沢祐巳はひょんなことから学園の執行部である「山百合会」幹部の妹、「赤薔薇のつぼみ(ロサ・キネンシス・アン・ブウトン)」小笠原祥子の妹に抜擢される。一作目である「マリア様がみてる」ではその過程を描いているんだ。祐巳は取り立てて特徴もない「普通」の女の子。生まれも育ちも、考え方も、極めて普通。いわば、読者寄りの立ち位置のキャラクタだ。しかし、この「普通」であることが「リリアン女学園」という「異世界」では逆に特長となり、純粋培養のお嬢様の面々の中では「珍しい」んだよね」

御影 「「普通」であるがゆえの「異端」かぁ。ちょっと倒錯しとぉよねぇ」

フジモリ 「で、祐巳が姉である祥子様や他の山百合会の人たちと触れることにより、周りにも影響を与え、自らも成長していく。これが、「マリア様がみてる」の根底にあるテーマのひとつだと思うよ」

御影 「「普通」であることに引け目を感じながらも、悩み、そして成長していく祐巳の姿は、ほんま主人公の王道っちゅう感じがするわなぁ」

フジモリ 「読者が感情移入しやすいしね。この「普通であること」が映えるのも、「リリアン女学園」という「異世界」ならでは。そういう意味で、「世界」と「キャラクタ」がうまくかみ合っているよね」

御影 「うんうん」

フジモリ 「「普通であること」自体が他人に影響を与える作品ってのはけっこうあるけど(那須きのこ「空の境界」もそうだね)、「マリア様がみてる」では「普通」の「異端さ」が前面に押し出されずに強調されている。矛盾した表現だけど、この匙加減が絶妙だよね」

御影 「確かになぁ。「異端である(=『普通』である)」ことだけを楽しむ話でもないし」

フジモリ 「それだと「ワールド・ギャップ・ストーリィ(異世界との差異によって起こるトラブルを楽しむ物語。フジモリの造語で、「撲殺天使ドクロちゃん」などに代表される)」になっちゃうからね」

御影 「あくまで現実に存在しそうな舞台の中に「異世界」を構築し、その差異を楽しみながらもそれがメインではない。ほんま、倒錯やねぇ」

フジモリ 「倒錯といえば、もうひとつのテーマ「恋愛」もそうだ。女学園という世界での恋愛はもちろん女性同士のものであり、「姉妹(スール)」という制度なんてまさしく「結婚」と同位置にあるものだ。しかし、恋愛といっても「男女間の恋愛感情」とイコールではない。あくまで、「憧れ」「慈しみ」のレベル(まあ、一部それ以上の感情を持っているキャラたちもいるけど)。しかし、だからこそ、「恋愛」に伴う様々なものが際立ってくるんだ」

御影 「具体的には?」

フジモリ 「「姉妹」として「付き合い」ながらも、お互いに遠慮したり、変なところで気を使ったりする。一方で嫉妬したり喧嘩したりする「姉妹」もいる。これが本当の男女間の恋愛だと、もっとドロドロしそうなものだけど、「マリア様がみてる」ではあくまで爽やかだ」

御影 「ほんまよねぇ。なんでなん?」

フジモリ 「まあ、推測でしかないんだけど、「同性同士」なので「プラトニック」の域を超えることは(少なくとも「マリア様がみてる」では)ない。だから、読者も安心して読めるんじゃないかな?」

御影 「安心?」

フジモリ 「男女間の恋愛だと、それこそ否が応にも「現実」と直結してしまう。ぶっちゃけて言うとセックスだとか結婚だとかそういう話。でも、「マリア様がみてる」内の「恋愛」は、決してゴールにたどり着くことはないし、期間も姉が卒業するまでだ。ゴールもないし(「姉妹」はゴールではなく、スタート)、期間も限られている。だからこそ、「恋愛」の純粋な部分のみ抽出されるわけだ」

御影 「でも、好きとか嫌いとか、嫉妬とか喧嘩とか、けっこうドロドロしとぉ部分もある思うねんけどぉ」

フジモリ 「うーん。その部分も含めて「恋愛」の楽しい部分じゃないかな。本人たちはともかく、少なくとも読者は」

御影 「言われてみればそうやなぁ。読者からしてみると、二人の行く末を心配することもなく恋愛の過程を「味わう」ことができるもんなぁ」

フジモリ 「さっきの異世界の話と同じく、設定を倒錯させることでテーマを蒸留させ、際立たせる。普通の恋愛小説以上に「恋愛要素」を楽しむことができるよね」

御影 「確かに」

フジモリ 「舞台設定に「倒錯」を用いることで、「恋愛」「成長」といったテーマを際立たせ、読者が純粋に、しかもその部分だけに集中して楽しめる。しかもその「倒錯」があくまで控えめにその存在をアピールしている。これだけ話題になっているのも頷けた。まあ、理屈つけて説明してきたけど、読む人は細かいことを考えず、「姉妹」たちの恋愛模様や祐巳の成長、そして友情を楽しんでもらいたい。それが、今回の感想かな?」




フジモリ 「いやあ、面白かった。剣と魔法がなくても、きっちり「異世界」を表現することができるんだなぁ。勉強になったよ。特に、「姉妹」という制度ってのはカルチャーギャップだったよなぁ。まあ、フジモリが今までこの小説を知らなかっただけなんだけど」

御影 「ごきげんよう」

フジモリ 「いや、それはもういいって」

御影 「ん?なんで?ウチ、初めて挨拶したんやけど」

フジモリ 「なに言ってんだよ、さっきまで一緒に「マリア様がみてる」の書評をしてただろ」

御影 「?」

フジモリ 「いや、だから」

御影? 「再びごきげんよう」

フジモリ 「えっ!?(二人を見比べながら)あ、あれ、ひょっとして、さっきまで書評してたのは御影(おかげ)の方かよ!」

御影(おかげ) 「漢字は一緒やから地の文で嘘ついたわけちゃうよぉ」

フジモリ 「まぎらわしいんだって!」

御影(みかげ) 「そういえば御影(おかげ)」

御影(おかげ) 「なんです、御影お姉さまぁ?」

御影(みかげ) 「御影(おかげ)も、早く妹を作らないといけませんのことよ(と言ってロザリオを見せる)」

御影(おかげ) 「そうですわねぇ」

フジモリ 「・・・って、お前ら姉妹(スール)制度の姉妹だったのかよ!」

御影(みかげ) 「紫の薔薇の妹(ロサ・ルゴサ・スカブローサ・アン・ブウトン)として恥ずかしくないようにおし」

御影(おかげ) 「はい!わたし、しっかり「紅天女」を演じます!」

フジモリ 「しかも「ガラスの仮面」かよ!いろいろ混ざっちゃってるよこの人たち!」



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