フジモリの脳内ラビリンス

〜a labyrinth in fujimori's brain〜

Ninty-fifth bookshelf(ネタバレ感想)
北村薫『朝霧』


註!
今回の書評ではトリックのネタバレはありませんが、
ストーリィについて決定的なネタバレをしております。未読の方はご注意ください。



ここは墓所である。《鈴ちゃん》は、ここに、心を葬った。


舞奈 「えー、毎度ばかばかしいお笑いを・・・」

御影 前回からの続きかいっ!」

舞奈 「こらっ!この書評から読む人もいるでしょ!前の書評を読んでることを前提にするなんていう、読む人を無視した発言はやめなさい!」

御影 「え・・・ウチ・・・なんで怒られてるん・・・?」

舞奈 「というわけで、今回読んだのは北村薫「朝霧」です。この本は、「空飛ぶ馬」「夜の蝉」「秋の花」「六の宮の姫君」に続く、日常本格「円紫(えんし)師匠と私」シリーズ第5弾です」

御影 「この日常本格(註:日常で起きた些細な不思議を論理によって解き明かす本格ミステリィのこと。フジモリの造語。詳しくは加納朋子「月曜日の水玉模様」書評を参照のこと)、北村薫が先駆者で、「空飛ぶ馬」「夜の蝉」でそのジャンルを確立させてんけど、「秋の花」からその色合いが変わってきてんよね」

舞奈 「そうね。で、今作も、日常のなかでありそうでない中篇が3本収められています。あらすじ行きましょうか」

御影 「そやね。

大学を卒業し、出版社に就職した「私」。
先輩編集者に連れられ、「六の宮の姫君」で私に「謎」を与えてくれた作家の先生に再会したことから紡がれた、「俳句」の話(「山眠る」)。
結末を伏せた物語(リドル・ストーリー)を私、先輩編集者、そして円紫師匠の3人で推理する話(「走り来るもの」)。
祖父の日記に記された「暗号」と、それに秘めた悲しい「心」に触れる話(「朝霧」)。巡りあわせの妙に打たれ、「私」の心にも変化が訪れる・・・。

ちゅう話や」

舞奈 「落ち込んだりもしたけれど、私は元気です」

御影 「魔女の宅急便かい!」

舞奈 「違うでしょ!そこは「糸井重里かい!」っていうツッコミでしょ!」

御影 「ぎゃ、逆切れ・・・」

舞奈 「この「円紫師匠と私」シリーズ、作者、北村薫の名前を世に知らしめたまさに看板作品。今回も、日常本格というジャンルからはちょっと外れているけど、根底に流れるものは変わらないわよね」

御影 「そやね。なんちゅうか、「温かみ」があるやんね。円紫師匠のキャラもあんねんけど、北村薫の「温かな目線」「温かな筆致」を感じるわぁ」

舞奈 「このシリーズ、決してハッピーな結末が多いというわけではないわ。むしろ、「悪意」「嫌なこと」を嫌が応にも知ってしまう話のほうが多いと思う。でも、「私」はそれを受け止め、それでも前向きに進んでいく。北村薫の他の作品、「スキップ」「ターン」に通じるところがあるわね」

御影 「読むほうも、この主人公のひたむきさに心うたれるんやね」

舞奈 「そうね。そして、円紫師匠の存在も大きいわ。突き放すでもなく、かといって優しくするのでもない。謎の解明はするが、「解決」は「私」にゆだねる。言うなれば理想の父親像よね」

御影 「殴ったね!父さんにも殴られたことがないのに!」

舞奈 「ふーん」

御影 「スルーかい!」

舞奈 「まあまあ。この温かさが読者の心に良い読後感を残す。そして、今作「朝霧」もそうね」

御影 「今作で、「私」は無事大学を卒業、社会人になるやんね」

舞奈 「回を重ねるごとに、「私」を取り巻く環境も変化するわ。そして、今作では外的環境だけでなく、「私」の内面にも変化が訪れる」

御影 「偶然であった男性に再度出会い、その人にほのかな恋心を抱く。くぅ!ほほえましいわ!」

舞奈 「ほんとね。鍬とか機雷とか最初に言い出したのは誰なのかしら?」

御影 「え?・・・ウチ・・・かな・・・?」

舞奈 「ああ、そういえばそうだったわね」

御影 「肯定!?」

舞奈 「だって、せっかく同音異義語でボケたのに突っ込んでくれないんだもの」

御影 「わかるかいっ!」

舞奈 「わかりなさい」

御影 「今度は命令!?」

舞奈 「続けます。「彼」との最初の出逢いは、先輩編集者にもらったチケットでコンサートに行った時、「私」の隣に座っていたのね。で、先輩編集者の結婚式でまたその人を見かける」

御影 「ただ「気になる」存在だけの人やってんけど、「朝霧」の最後でその人のことを「知りたい」と思うようになる。ほんま、劇的な変化やんね」

舞奈 「今作の3つの話、とくに後ろ2つは「恋愛」にまつわる話。「走り来るもの」では身を引き裂かれるほどの裏切りを受けた女性作家の話に触れ、そして「朝霧」では葬られた「恋心」に触れる。特に「朝霧」で決して表に出なかった「秘められた恋」を数十年の時を経て「解き明かした」ことによって、自身の心が「秘められた」ものであることに気付いたんでしょうね」

御影 「「私」も一歩ずつ、一歩ずつ「前」に向かっとぉ。読む側にとっては愛娘が巣立っていくようで、嬉しくもあり、寂しくもあるやんなぁ」

舞奈 「そうね。そして、次作で「私」がどうなるのか、楽しみになるわ。温かい読後感、そして円紫師匠の「落語談義」。なんていうか、前に進んでいきながらも「安定感」がある一冊よね」

御影 「「落語談義」も相変わらずおもろいなぁ。舞奈が「毎度ばかばかしいお笑いを・・・」言ぃたぁなる気持ちもわかるわぁ」

舞奈 「ほんとね。フジモリも、「円紫師匠と私」シリーズを読んで落語に興味を持ったって言ってたわ。「六の宮の姫君」もそうだけど、ためになって、ほろりとして、温かい読後感を得られる。安心して読めるミステリィよね。それが、今回の感想ね」




御影 「せやけど、ほんま、「私」の恋の行方が気になるやんね。まさに一目惚れ」

舞奈 「一目出会ったその日からぁ〜」

御影 「古いなぁ」

舞奈 「恋の花咲く時もあるぅ〜」

御影 「なんや、物真似して」

舞奈 「(髪をかきあげる仕草をして)新婚さぁん、いらっしゃぁい〜」

御影 「番組変わっとるがな!」

舞奈 「えー、桂エンシでございますぅ〜」

御影 「地口オチかいっ!ベタすぎるわっ!!」



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