| フジモリの脳内ラビリンス
〜a labyrinth in fujimori's brain〜 Ninty-thrid bookshelf (ネタバレ感想) 森博嗣『赤緑黒白』 |
「また、会えますか?」彼女はきいた。 「紅子さんが、そう思えば、いつだって」保呂草は答える。 彼女は頷く。 「じゃあ、さようならは、やめておこう」紅子は最後にそう言った。 フジモリ 「Vシリーズもついに最終話。今回読んだのは、森博嗣「赤緑黒白」です」 御影 「最終話だけあってボリューム満点やったね」 フジモリ 「今回は、「赤緑黒白」の感想と、Vシリーズの総括をしたいと思う。まずはあらすじから。御影、よろしく」 御影 「Vシリーズも最後かと思うと、感慨深いものがあるわ。ほな、いくで。 深夜、マンションの駐車場で発見された死体は、全身を真っ赤に塗装されていた。数日後保呂草は、被害者の恋人と名乗る女性から、事件の調査を依頼される。解明の糸口が掴めないまま発生した第二の事件では、色鮮やかな緑の死体が・・・。 赤?緑?黒?白? 紅子、保呂草たちがシリアル・キラに挑むVシリーズ最終話! ちゅう話や」 フジモリ 「今回は一風変わった話。赤、緑、黒、白に塗られた死体の謎を紅子たちが解く話だ」 御影 「シリアル・キラーやね」 フジモリ 「うむ。こういう「見立て」殺人ってのに真正面から取り組むっていうパターンは珍しいよね」 御影 「「詩的私的ジャック」は?」 フジモリ 「あれもシリアル・キラだったけど、あちらは殺人に明らかな「意図」があった。今作の「装飾殺人」は「殺人」そのものが目的だ。同じ連続殺人だけど、内容が全然違うよね」 御影 「Vシリーズ第一話「黒猫の三角」から流れる、Vシリーズのテーマそのものやね」 フジモリ 「そうだね。「人はなぜ人を殺すのか」「なぜ人は人を殺してはいけないのか」これが、Vシリーズに流れるテーマだったように思える。今回の犯人は純粋に「殺人」そのものを楽しんでるし、それゆえに通常の殺人と違って容疑者を特定しにくい、という特徴がある。これは実際の事件でもそうだし、こと「ミステリィ」というジャンルにおいてもそうだ」 御影 「確かに。普通「ミステリィ」ゆぅたら、「孤島もの」に代表されるように「この状況ではこの犯人しかおらん!」ゆぅて探偵が犯人を指摘するパターンやもんね。それが、通り魔殺人みたいに「被害者は誰でもよかった」となったら探偵の出番はないもんなぁ」 フジモリ 「そうなったら警察の領域だよね。地道な聞き込みと現場証拠で容疑者を炙り出す。それだったら小説にはしにくいもんね。読者のカタルシス解消においても」 御影 「せやから、今作「赤緑黒白」でも容疑者候補がおって、「あなたが犯人ですね」という場面が出来とぉ」 フジモリ 「誰が犯人かも目星がついてる。動機も「ただ死体に色を塗りたかったから」という、ある意味理解できず、ある意味理解できる「純粋な」理由ということが分かっている。読者の興味は、「どうやって自分がやったということを認めさせるか」の一点に絞られるわけだ」 御影 「そこで、紅子が犯人のミスを誘うわけやね」 フジモリ 「「刑事コロンボ」あるいは「古畑任三郎」風だよね。それほどまでに強敵だったわけだ」 御影 「なるほどなぁ。せやけど、Vシリーズはトリックも、舞台も、めっちゃバラエティに富んどったよなぁ」 フジモリ 「S&Mシリーズよりも直球で、それでいて登場人物たちが「こ、これは密室殺人だ!」などと大仰なリアクションもせず、あくまでシンプル、シャープに語られてるよね」 御影 「それがVシリーズの特徴やね」 フジモリ 「今作はVシリーズの集大成、という感じがした。根本のテーマである「なぜ人は人を殺してはいけないのか」を純粋に殺人を楽しむシリアル・キラを配することによって逆説的に提示し、密室トリックを使いながらもそれをあっさりと流す。保呂草や紅子など登場人物も勢ぞろいでそれぞれに見せ場があったし」 御影 「最後の保呂草と紅子との別れはちょっと切なくなるなぁ」 フジモリ 「うむ。今までのキャラクタの関係にも、「保呂草の旅立ち」と言う形で一区切りついた。Vシリーズの面白さに一つに、キャラクタ同士の人間関係ってのもあるけど、紅子と保呂草の危うい関係(変な意味じゃなくてね)は特に楽しめたよ。最後の別れはなんか、「くぅ!大人ぁ!」って感じのさっぱりとした、それでいて余韻が残るシーンだったね。ほんと、「最終話」と呼ぶのにふさわしい。それが、今作の感想かな?」 御影 「んーで、Vシリーズの裏設定も明らかになったわけや」 フジモリ 「だね。フジモリが「捩れ屋敷の利鈍」の書評などで予想してた通り、Vシリーズの舞台は時系列的にS&Mシリーズの前。そして紅子は犀川創平の母親。「へっくん」は「創平」というわけだ」 御影 「作品内で携帯電話が使われておらんかったし、そして極めつけ、最後に幼き頃の真賀田四季が出てきとぉもんね。んーで、祖父江七夏の娘が儀堂世津子」 フジモリ 「そう。犀川とは腹違いの兄妹ってわけだ。喜多助教授が「有限と微小のパン」で初めて犀川に妹がいることを知ったのもこれですっきりするよね。儀堂世津子が犀川を「創平君」と呼んでるし、犀川が外車を「フォルクスワーゲンしか知らない」(「笑わない数学者」より)のも、保呂草の車がワーゲン(=ビートル)だからだし」 御影 「「朽ちる散る落ちる」でへっくんのグローブに「S・S」のイニシャルが書かれていたのも、「犀川創平」のフルネームをはめればぴたりとはまるしね」 フジモリ 「そして、犀川創平の「父親」である林。これも、「林」は苗字ではなく、「名前」であることがわかれば「なーんだ」って思うよね。フルネームは「犀川 林」。「黒猫の三角」でも、 「いいえ、彼、まだ独身よ。名前は林さん」 (中略) 「あら・・・だって、変わってるでしょう?」ますます無邪気な笑顔の紅子。「あの漢字・・・」(文庫版p149) というくだりがあった。紅子が「風変わり」ということを読者が認識してのやりとりなんで、まんまと「苗字が林か」と誤誘導されたはずだ」 御影 「せやけど、ほんまうまいよなぁ。Vシリーズ第1話にしてこんな伏線を張っとぉもんね」 フジモリ 「もっと言えば、S&Mシリーズのころからね。ほんと、森博嗣の伏線には恐れ入るよ。S&Mシリーズのころから、この設定があったってことだもん。昨今の「あとづけで設定を作る作者」に見習わせたいよね」 御影 「そやねぇ。例えば・・・」 フジモリ 「だぁかぁらぁ、実名はいいっての!」 御影 「いやぁ、ほんま、Vシリーズって奥が深いなぁ」 フジモリ 「まだまだあるぞ。実はこのVシリーズ、各話がS&Mシリーズと作品の構造、プロットが対になっているんだ」 御影 「対?」 フジモリ 「一番分かりやすいのはS&Mシリーズ第8部「今はもうない」とVシリーズ第8話「捩れ屋敷の利鈍」かな。どちらも、時系列が異なってるだろ?(「今はもうない」は過去、「捩れ屋敷の利鈍」は未来) 御影 「あ、ほんまや」 フジモリ 「そう。それに、例えばVシリーズ第3話「月は幽咽のデバイス」とS&Mシリーズ第3部「笑わない数学者」。これ、どちらもトリックの鍵は「館が動く」ことだ」 御影 「!!確かに!」 フジモリ 「「黒猫の三角」で登場した犯人(秋野)が「赤緑黒白」で再登場する。これは、「すべてがFになる」の犯人(真賀田四季)が「有限と微小のパン」で再登場するのと構造が似てるよね。そんな風に、VシリーズとS&Mシリーズではそれぞれ似通った部分があるってことだ」 御影 「・・・ほんまに全部そうなん?」 フジモリ 「そこまで言うなら全作品の類似点を挙げてみよう。
どうだ?」 御影 「ほんまや・・・」 フジモリ 「さらに凄いのが、それぞれ「対」になっているのが、「線対称」ではなく、「点対称」だということ。例えば「笑わない数学者」では建物が水平に動いているが、「月は幽咽のデバイス」では垂直に動いている。「今はもうない」は過去、「捩れ屋敷の利鈍」は未来。つまり、まるっきり逆のベクトルで「対」になってるわけだ。「すべてがFになる」では真賀田四季と西之園萌絵は「部屋の中」で会っているが、「黒猫の三角」では紅子と秋野は「部屋の外」で会っている。逆に、「有限と微小のパン」では真賀田四季と犀川が「部屋の外」で会っているし、「赤緑黒白」では紅子と秋野は「部屋(=牢獄)の中」で再会する。この「外と中」の逆転はS&MシリーズとVシリーズの対称の最たるものだし、Vシリーズの終わりに「中」での対話をもってきたあとに時系列的にその直後となる作品「すべてがFになる」で同じく「中」での対話をもってくるところなんて、ほんと、くらくらするよね」 御影 「ほんま、すごいの一言しか言えへんわ」 フジモリ 「ああ。S&MシリーズとVシリーズをそれぞれ最初から読み返したくなるよ。これらのシリーズ、それぞれ1作1作ごとも面白いけど、今回みたいに「シリーズ通しての仕掛け」も面白い。さらに、二つのシリーズに渡って「仕掛け」を張り巡らせてしまう。Vシリーズという一区切りがつき、改めて森ミステリィの奥深さを感じたよ。それが、今作、そしてVシリーズの感想だな」 御影 「これでVシリーズも終わり。寂しくなるなぁ」 フジモリ 「ほんと、好きな漫画の最終回もそうだけど、「いい終わり方をして嬉しい」と思う反面、「もっと続きを読みたかった」と寂しくなるよね。まさに、作者の思う壺なわけだけど」 御影 「ほんま、寂しいわぁ」 フジモリ 「御影もいつになくセンチメンタルだね。そんなに名残惜しいのかい?」 御影 「え、いや、Vシリーズが終わりなのも寂しいけど、これでフジモリの書評が終わりかと思うと、寂しゅうて寂しゅうて」 フジモリ 「まだ終わりじゃないって!勝手に書評を最終回にするなって!」 御影 「フジモリの次回作にご期待ください!」 フジモリ 「ジャンプの打ち切り漫画じゃないんだから!」 御影 「ほんま、フジモリの出番がこれで終わりかと思うと、寂しくなるわぁ。長い間、お疲れさん。♪さくらぁ〜ふぶぅ〜きのぉ〜♪さらいぃ〜のそらでぇ〜」 フジモリ 「勝手に人を卒業させるなぁっ!!」 |