フジモリの脳内ラビリンス

〜a labyrinth in fujimori's brain〜

Seventy-fifth bookshelf
新城カズマ『無謬邸は暁に消ゆ』




「推理するとは、疑うことだ。しかし、探偵するとは信じることだ」


フジモリ 「今回は新城カズマの「無謬邸は暁に消ゆ」の感想です」

御影 「ん?これって、前フジモリが書評しとった『屍天使学院は水没せり』の続編やね」

フジモリ 「うん。まあ、続編といっても登場人物、世界設定が同一というだけで、この本から読んでも楽しめる一品だ。したがって、今回もネタバレなしで」

御影 「新城カズマって、フジモリがイチオシしとぉ作家やね」

フジモリ 「その通り。まだ書評していないけど、ハードSF「星の、バベル」やスペースドタバタ活劇「ジェスターズ・ギャラクシー」シリーズ、はたまた本格ファンタジー「イスベルの戦賦(うた)」など、最近では多ジャンルにわたって快作を発信している作家だ」

御影 「んーで、今作が本格ミステリィ、「浪漫探偵・朱月宵三郎」シリーズの第2弾なわけやね」

フジモリ 「本格というか、「新変格(作者談)」なんだけどね。では御影、あらすじを」

御影 「前作はあらすじにするんは難しかってんなぁ。えーっと、

 演劇部の合宿で温泉にやってきた主人公・深草真夜たち。
 彼女らが泊まるのは山の周囲を螺旋状に、麓から頂までをぐるぐると蛇のようにとりまく奇妙な屋敷、「無謬邸」。
 そしてその夜、事件が起こる。なんと、真夜と同室の乃乃子に毒が盛られたのだ。
 部屋にいたのは二人だけ。
 はたして、浪漫探偵・朱月宵三郎は事件を解決できるのであろうか!?

 ・・・。あ、あれ?けっこう簡単にあらすじになってんけど」

フジモリ 「そうだね。・・・今作は作者があとがきでも言ってたけど、「前作よりも謎を簡単かつ単純にしてみました(p260)」とのことで、まあ、前作「屍天使学院は水没せり」が世界設定・登場人物紹介をメインにしている分、今作は純粋に謎解きを全面的に押し出せたんじゃないかな?」

御影 「そやったら、やっぱ前作読んどかなあかんやん」

フジモリ 「う、うむ・・・。まあ、「ルールド・ミステリ(西澤保彦『転・送・密・室』の書評の際に使ったフジモリの造語)」の宿命かなぁ・・・」

御影 「ちゅうことは、今作も「ルールド・ミステリ」、つまり「ある規則によって構成されている世界におけるミステリィで、多くはその規則がトリックの鍵を握っている推理小説」なん?」

フジモリ 「ところが、今作はそうでもない。もちろん、道具立ては幻想的なものを用いているし、ある意味「この世のものならざる論理」によって浪漫探偵は事件を解き明かそうとするけど、きちんと考えればトリックも犯人もわかる(らしい)。けっこうミステリィよりになった作品だね」

御影 「でも、事件で使われた毒薬って「この世のものならざる」ものやったやん?」

フジモリ 「ああ、「炎帝宮」ね。この毒薬が今回の事件のキモなんだけど、ちょっと説明しとこうか。この毒薬には4つの魔術的効果がある」

御影 「そやね。
   1.水に濡らしてはいけない
   2.太陽の光をあてない
   3.真夜中に餌を与えてはいけない
   ゆぅやつやね」

フジモリ 「そりゃグレムリンだろが!っていうか、4つじゃないだろが!」

御影 「えっ!?ほな、
   1.インダス文明
   2.メソポタミア文明
   3.エジプト文明
   4.黄河文明
   のほう?」

フジモリ 「「ほな」じゃないって!そりゃ世界4大文明だろうが!4つだったらいいってもんじゃないの!」

御影 「ほな、ドナウ文明も加えとこか」

フジモリ 「マスターキートンじゃねぇかよ!っていうか、まだ発見されてねぇよ!」

御影 「んなん言ぅてもしゃあないやん!」

フジモリ 「何でそこで逆切れすんだよ・・・。話を戻します。毒薬「炎帝宮」の効果とは、
 1.毒の威力が発揮されるのは服毒から正確に六時間後であること。
 2.その威力とは被害者の体温を十秒に一度ずつ上げていくということ。
 3.『炎帝宮』の熱は、被害者の身体から外には漏れないこと。(周囲の冷水を唯一の例外とする)
 4.『炎帝宮』を飲ませる際に加害者が被害者と同じ室内にいなければ第一から第三の効果が発揮されない、まったく無害の液体であるということ。
 の4つだ」

御影 「答えは2番!」

フジモリ 「クイズ番組かよ!残りの3つは嘘なのかよ!」

御影 「えー。ちゃうん〜?」

フジモリ 「違うって!話の腰を折るんじゃないっ!」

御影 「むぅ。しゃあないなぁ。・・・にしても、えらいトリッキィな毒薬やね」

フジモリ 「でも、きちんとした「ルール」に従っているだろ?こういった特殊な毒薬は、城平京『名探偵に薔薇を』に出てくる「小人地獄」が有名だね。ぱっと見トリッキィかもしれないけど、ルールを明確にしている分、舞台は現代社会ながらも「えっ!?そんなのあり!?」っていうミステリィに比べたらよっぽとフェアだと思うよ」

御影 「そやなぁ。例えば・・・」

フジモリ 「具体例をあげるなぁっ!・・・で、今作「無謬邸は暁に消ゆ」も「新変格ミステリィ」と謳いトリッキィな作品のように見せているけど、実は、作者新城カズマが古今東西のミステリィへのリスペクトをふんだんに詰めた作品に仕上がっている」

御影 「そやねぇ。引用文に小栗虫太郎、ヴァン=ダイン、カーなどなど出してきたりしとぉしね」

フジモリ 「それだけじゃない。例えば、

 「でしょう?そうですとも、錠前や蝶番の全盛期はもう過去の話なんです。今は新たなる黄金期。叙述トリックと心理的陥穽こそが未来の王道なんです(p119)」

 とか、

 「すべては疑い得ると豪語している、あの『読者』と呼ばれる特権的一族でさえ、必ず何かを信頼している。いや、信頼せざるを得ないのだ。
 なぜなら、本当に全てを疑ってしまったら話が面白くならんからだ。そして読者にとっては、それこそはゆずることのできない、最低限の一線なのだ(p190)」

 など、ミステリィについて教授が生徒に講義をするがごとく、鋭い視点、的を射た分析で説明していく。で、これらが単なる薀蓄ではなく、事件の解決にもうまくつながっていく、というところもこの作品のすごいところだね」

御影 「ほぉ。うまいなぁ」

フジモリ 「「名探偵、みなを集めてさてと言い」の解決編、どんでん返し、主人公たちの危機など、古典ミステリィのメソッド(手法)に沿った血湧き肉踊る展開はあるし、ミステリィ好きなら思わずニヤリとするぐらい作者のミステリィへの「愛」が詰まった作品だ」

御影 「まぁたベタ褒めしとぉ」

フジモリ 「いやいや、実力に見合った評価だって。前作ではトリッキィな舞台設定とそれを最大限に利用したミステリィを展開し、今作ではさらにそれがパワーアップしている。ミステリィにあまり縁のなかった人も、ミステリィに造詣が深い人も満足させられる懐の広さを持ったミステリィ。是非ともご賞味いただきたい。それが、今回の感想かな?」




御影 「そういや、今回の舞台の「無謬邸」って、めっちゃ奇妙な屋敷やったなぁ」

フジモリ 「確かに。増築に増築を重ね、山を蛇のように取り囲んだという奇妙な屋敷だね。そこに住んでいる一族といい、怪奇な雰囲気をかもし出しているよねぇ」

御影 「ゆぅても、ミステリィにはこんな変な屋敷はつきものやけどなぁ」

フジモリ 「そういう意味でも、古典ミステリィへのリスペクトがこめられているよね。斜めになったり、捩れたり・・・」

御影 「?、捩れた屋敷なんてあったっけ?」

フジモリ 「ふふふ。それは次回書評でのお楽しみということで・・・」



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