フジモリの脳内ラビリンス

〜a labyrinth in fujimori's brain〜

Seventy-third bookshelf
乙一『GOTH』




僕が欲しかったのはただひとつ、森野の優美な白い手だけだった。


フジモリ 「さて、今回取り上げるのは乙一の「GOTH」だ」

御影 「お、この書評では初めて見る名前やね」

フジモリ 「そうだね。乙一自体は結構有名だけど、今まで読んだことはなかった。フジモリの書評も結構作家が偏ってるんで、たまには新しい風を吹かせよう、と一念発起、乙一を読んでみたわけだ」

御影 「ほぉ」

フジモリ 「というわけで、御影、あらすじを」

御影 「はいな。

 殺す人間と殺される人間がいる。僕は前者だ。
 「殺すこと」に興味を持っている「僕」と「殺される」ことに興味を持っているクラスメイトの森野。
 森野が連続殺人鬼の日記を拾ったことから始まる物語「暗黒系」など、6編の物語。

 ちゅう感じかいな?」

フジモリ 「まあ、いいんじゃないかな。さて、フジモリはこの本から乙一に入門したんだが、どうやらこれ、出た当時は異色作とか言われてたみたいだね」

御影 「まあ、乙一ゆぅたら、「暗いところで待ちあわせ」とか「きみにしか聞こえない」みたいないわゆる「せつない」系のストーリィテラー言われとぉからな、今作みたいな異常殺人者たちの話ゆぅたら、今までの乙一と違っとったんちゃうん?」

フジモリ 「うーん。そういう先入観がなくこの本を読めたんで、フジモリは幸せだったのかもしれないなぁ」

御影 「ちゅうことは、おもろかったん?」

フジモリ 「面白いも面白い。今までなんで乙一を読んでなかったんだろうと思うぐらい、そのあと乙一にはまったよ。「GOTH」を読んだあと、他の本も片っ端から読んだからね」

御影 「へぇ。ほな、そのあと「せつない」系の本ばっかやから、ギャップに驚いたんちゃうん?」

フジモリ 「うんにゃ」

御影 「は?・・・(ぽんと手を叩き)ああ、やっぱあんたそういうセンシティブな回路が欠けとったんやね。かわいそうに。メモリ増設したろか?」

フジモリ 「勝手に人を欠陥ロボット扱いするな!」

御影 「ああ、心臓がないんか」

フジモリ 「ブリキの木こりかよ!」

御影 「脳みそがないん?」

フジモリ 「かかしじゃねぇかよ!だんだん離れていってるよ!次は勇気とか言うなよ!」

御影 「♪キミを守ぉるたぁめ〜そのために生ぅまれてぇ来たんだぁ〜」

フジモリ 「「らいおんはーと」じゃねえかよ!ライオンしか合ってないよ!」

御影 「最初に「心臓」ってボケたやろが!」

フジモリ 「逆切れでボケの説明をするなよ!わけわかんないよ!話戻すぞ!」

御影 「やれやれ、これだから素人さんは」

フジモリ 「なに呆れてんだよ!俺が悪いみたいじゃねぇかよ!」

御影 「まあまあ。たまには思う存分ボケさせてぇや。・・・で、なんで「せつなく」なかったん?」

フジモリ 「唐突に戻るなぁ。えーっと、フジモリの印象としては、乙一は「せつない」物語を書くのがうまいのではなく、日常と「奇妙」を融合させるのが非常にうまい作家なんじゃないかって思ったんだ」

御影 「奇妙?」

フジモリ 「そう。奇妙。例えば、担任教師に地味ぃにいじめられた「僕」が見る「青」(「死にぞこないの青」より)、腕に書いた動く刺青(「平面いぬ。」より)、ある日かかってきた空想の携帯電話(「Calling You」より)など、ちょっとした「奇妙」を日常に紛れ込ませ、ちょっとだけ逸脱した「日常」を描く。この「ちょっとだけ」のさじ加減の上手さが乙一の乙一たる由縁なんだと思うよ」

御影 「ふぅん」

フジモリ 「そういう意味で、「GOTH」は乙一らしさが存分に発揮されている本だと思う。「僕」と「森野」が出会う異常殺人者たち。彼らは日常から「ちょっとだけ」逸脱しているんだけど、その「ちょっと」が異常さを際立たせているんだ」

御影 「確かに。「隣人は殺人鬼」ゆぅシチュエーションが一番怖いからなぁ」

フジモリ 「「突撃!隣の殺人鬼!」みたいなもんだね」

御影 「ヨネスケかい!しゃもじ持ってインタビューに行くんかい!」

フジモリ 「「さて、今日の殺人鬼は?」「はい、リストカットを少々・・・」みたいな感じかな?」

御影 「わけわからんわ!」

フジモリ 「いや、ボケじゃなくって、「GOTH」もそんな感じだった」

御影 「ボケとらんかったんかい!」

フジモリ 「まあ、御影と違って、フジモリは無意味なボケはしないから」

御影 「失敬な!ウチやって意味のあるボケぐらいするで!ぷんぷんっ!」

フジモリ 「ほぉ、じゃあ、やってみて。お題は「GOTH」で」

御影 「えっ!?えっ!?えっ!?そんな、いきなり言われても!・・・えぇ、「GOTH」とかけましてぇ〜」

フジモリ 「笑点風だねぇ。「GOTH」とかけまして!」

御影 「「クラッカー・ヴォレイ」と、ときますぅ〜」

フジモリ 「し、しぶいねえ。えー、「クラッカー・ヴォレイ」とときます。で、そのココロは!」

御影 「そのこころは、「ジョジョのトリック」!「ジョジョズトリック」!じょじゅ・・・」

フジモリ 「うわー!うわー!うわー!」

御影 「な、なんやいきなり。じょじゅ・・・」

フジモリ 「今回ネタバレ禁止なの!危ないボケはしない!」

御影 「えー。めっちゃ意味ありげなボケやん〜」

フジモリ 「「意味のある」と「意味ありげ」は違うの!・・・ったく。まあ、「GOTH」ってミステリィと銘打ってはいるけど、実際ミステリィに慣れている読者だったらキモの部分はすぐに分かるんだけどさぁ」

御影 「そぉなん?」

フジモリ 「うん。だからフジモリも言っただろ?「GOTH」は乙一らしさが発揮された「奇妙」を描いた小説。確かに、ミステリィ風な手法で書かれているけど、決してミステリィではない。どちらかというと、乙一風「古畑任三郎」かな」

御影 「なんでやねん」

フジモリ 「毎回、「僕」と「森野」が個性的なゲストと出会う。そのやりとりを楽しむ小説なんだと思うよ。そしてその「個性(=奇妙)」こそ、乙一の真骨頂。発売当初は「せつなくない」「乙一らしくない」といわれていたこの本だけど、第3回ミステリ大賞を受賞するなど高い評価を受けたのも納得がいく」

御影 「ほんまやなぁ。確かに、今までのミステリィ小説にはなかった作風やもんなぁ」

フジモリ 「うん。そして、ちょっとネタバレになっちゃうけど、異常殺人者たちと出会う「僕」が、彼らを裁くでも真実を暴くでもなく、ただ「観ているだけ」というのも今までのミステリィと違い、新鮮だよね。文庫版「詩的私的ジャック」の解説で菅聡子が「あらゆるミステリィにおいて、<探偵>と<犯人>は本質的に同一の存在である。(p471)」と言っているけど、「GOTH」はまさしく、「僕(=探偵)」と「犯人」が非常に近い位置、同じ境界上に立っている。しかし、近い位置にはいながらも、決して同一にはならない。その危うさ、微妙な距離のとりかたが、が乙一の「ちょっとだけ」のさじ加減の上手さであり、「GOTH」が高い評価を受けている理由であると思う。「せつない」系と呼ばれているのも、この距離のとりかたの上手さに起因するんじゃないかな」

御影 「なるほどなぁ」

フジモリ 「まあ、フジモリはミステリィではなく「奇妙」系小説として読んだけど、実際ミステリィとして読んでも面白いし、「僕」と「森野」の恋愛小説と読んでもさしつかえない。異常殺人者たちが出てくるだけあってけっこう残酷な場面もあるんだけど、後味は悪くないという不思議な本だ。この本から乙一に入ったフジモリはある意味幸せだと思うし、非常に良い作家に出会えたと思う。そう思わせるだけの力を持った、いろいろな意味で面白い小説だった。それが、今回の感想かな?」




フジモリ 「いやあ、それにしてもいい本に出会えた。乙一作品はまだまだたくさんあるし、読書の楽しみが増えたなぁ」

御影 「そやなぁ。いい本に出会えるって、それだけで幸せな気分になれるもんなぁ」

フジモリ 「お、たまにはいいこと言うねぇ」

御影 「へへん。まあ、英国作家のうけうりなんやけどね」

フジモリ 「ほぉ」

御影 「・・・「愛してその本を得ることは最上である。愛してその本を失うことはその次によい」ウイリアム・M・サッカレー 19世紀英国作家・・・ゴゴゴゴゴゴ・・・」

フジモリ 「・・・ツェペリさぁん!!・・・って、ジョジョじゃねぇかよ!・・・ていうか、そりゃ「本」じゃなくって「人」だろが!」

御影 「乙一だけに、ジョジョネタで締めてみましたぁ!」

フジモリ 「勝ち誇った顔でわけのわからないボケをするんじゃないっ!!」



TOPページにもどる