| フジモリの脳内ラビリンス
〜a labyrinth in fujimori's brain〜 Seveny-second bookshelf(ネタバレ感想) 森博嗣『有限と微小のパン』 |
触れたかった。 尋ねたかった。 確かめたかった。 騙されたかった。 フジモリ 「長らくのご愛読、ありがとうございました!」 御影 「のっけからジャンプの打ち切り漫画みたいな終わり方すなぁっ!!いったい何やねん!」 フジモリ 「いや、今回の書評は森博嗣の「有限と微小のパン」、つまりS&Mシリーズの最後を飾る本だからね」 御影 「ほな、フジモリのくだらん書評シリーズも終わりなん?」 フジモリ 「くだらんって言うな!・・・もちろん、書評は続くよ。森博嗣があとがきでも言ってたけど、「有限と微小のパン」でS&Mシリーズは一段落つくけど、二人(犀川と萌絵)の物語が続いていくようにね」 御影 「ウチとあんたの掛け合い漫才なら続けていきとぉないねんけどな・・・」 フジモリ 「掛け合い漫才じゃないって!書評なんだって!とにかく、今回取り上げるのはさっきも言ったけど、森博嗣の「有限と微小のパン」だ。とりあえず、御影、あらすじを」 御影 「はいはい。ほな、いくで。 日本最大のソフト会社「ナノクラフト」の経営するテーマパークを訪れた萌絵と友人達。 ナノクラフトの社長である萌絵の幼なじみ、塙理生哉が彼女を迎える。 しかし彼女達の到着とほぼ時を同じくして起こる殺人事件。 事件の影に垣間見える「彼女」の姿。 すべてがあの天才の手によるものなのだろうか? と、こんな話や」 フジモリ 「今回はネタバレ全開で行こう。まずは、今作単体でのお話から」 御影 「塙ってやつが出てきたなぁ」 フジモリ 「うん。今回の物語の鍵を握る男、塙理生哉は、8巻「今はもうない」の最後の方で萌絵と遊んでいた子供の一人(もう一人は前作出てきた大御坊)だ。ま、こいつの大掛かりないたずらが、今回の事件の引き金となるわけだ」 御影 「今回は最終巻だけあって、大掛かりなトリックやったね」 フジモリ 「そうだね。まあ、「演技のはずが本当に殺された」ってのは昔からあるトリックだけど、森博嗣のすごいとこは、「本当の死体」と「フェイクの死体」を織り交ぜたところ。それによって、読者は混乱させられる」 御影 「最初は「死体のふり」がほんまに殺されとって、次はほんまの「死体のふり」。で、最後は「騙しなし、ほんまの殺し」やもんね」 フジモリ 「このトリックを際立たせているのが、萌絵の友人、反町愛だ。医学部の彼女が最初の死体を「死体」と断定したことで、萌絵たち(=読者)は次のフェイクの死体も本物と思い込む。うまいよね。反町愛は、今回の「死亡確認!」のために出てきたキャラだと言っても過言ではない」 御影 「え?うちのライバルキャラとして出てきたんちゃうん?」 フジモリ 「んなわけあるか!・・・で、彼女の登場を不自然にさせないために前巻「数奇にして模型」から登場させるという念の入れよう。複数巻に渡った伏線の張り方は、森博嗣ならではだね」 御影 「深いなぁ」 フジモリ 「「死体」の「死」を疑うこと。今までの森ミステリィと同じく、前提条件を疑うことで真実が見えてくるという基本に沿いながら、今回はその「世界」すら疑うという非常に壮大な仕掛け。それは「すべてがFになる」で犀川が言っている「ヴァーチャルな世界」と密接に絡んでくる」 御影 「そういや、「今のところ、虚構の世界に現実を築くよりも、現実の世界に虚構を築くほうがコストが安い」みたいなセリフもあったしなぁ」 フジモリ 「フェイクの死体と本物の死体。犀川と真賀田四季が会ったヴァーチャルの世界とリアルな世界。虚虚実実が入り乱れた今作は、S&Mシリーズの一つのテーマ「現実と虚構」について、非常に考えさせられたね」 御影 「最終巻だけあって、今までの集大成のテーマが流れとぉわけやな」 フジモリ 「そうだね。では、次にS&Mシリーズの長編の最後という位置付けでこの本を見てみよう。「すべてがFになる」から10冊続いたS&Mシリーズだが、さっき言った「虚構と現実」というテーマ以外に、その根底には大きなテーマが流れている」 御影 「「犀川の喪失と、萌絵の解放」やね」 フジモリ 「うん。このシリーズの総評は以前やったんで詳しくはそちらを参照してほしいが、「すべてがFになる」で登場した「天才」真賀田四季が、またしても出てくる」 御影 「再登場やね」 フジモリ 「いや、再々登場だよ」 御影 「?、そやったっけ?」 フジモリ 「うん。真賀田四季、今回は偽名の「瀬戸千衣」は、5巻「封印再度」の最後で登場している。この時点で、森博嗣は今回の話を考えていたんだろうね」 御影 「5作前に伏線はっとんや。すごいなぁ」 フジモリ 「森博嗣は、こういった伏線の張り方が非常にうまい。例えば、1巻から5巻まであった「登場人物表」、6巻(「幻惑の死と使途」)、7巻(「夏のレプリカ」)ではないんだけど、なんでか分かる?」 御影 「そういえば。・・・なんでやろね?」 フジモリ 「だって、8巻(「今はもうない」)では登場人物表は出せないからね。いきなりなくしたら怪しまれるんで、6巻7巻と外したわけだ」 御影 「はぁ〜、なるほどぉ〜」 フジモリ 「そうやってみると、このS&Mシリーズ、10巻で一つ、ということがわかるだろ」 御影 「そやねぇ」 フジモリ 「で、話を戻すと、今作「有限と微小のパン」で再々登場した真賀田四季、彼女によって始まった物語を、彼女によって終わらせている。英題も「The Perfect insider」と「The Perfect outsider」。うまいよねぇ」 御影 「せやけど、今回は「Perfect」に「outside」にはおらへんかったような気ぃすんねんけど?「すべてがFになる」では、「胎内」という「Perfect」な「inside」におったわけやけど・・・」 フジモリ 「そう思うだろ?しかし、これも伏線がはられている。第3作「笑わない数学者」で「ねえ、外と中はどうやって決めるの?」(中略)「君が決めるんだ」(文庫版p479)という台詞がある」 御影 「「外」と「中」・・・」 フジモリ 「そう。そして今回の「外」は、我々一般世界で定義する「外」とはちょっと違う」 御影 「一般社会の「外」?」 フジモリ 「例えば、真賀田四季が本来いると思われた「ここではない世界」、真賀田四季の肉体はすでになく、電脳世界に「彼女」がいる、これも「Perfect」に「outside」なわけだ」 御影 「うんうん、こっちのほうがそれっぽいわ。まあ、電脳世界ゆぅたら「甲殻機動隊」になってまうけど」 フジモリ 「確かに。しかし、ハード的な問題もあるけど、今回あえてこういう「外」に彼女を置かなかったのかについては、他に理由があると思う」 御影 「他に理由?」 フジモリ 「外と中の定義は各々が決める。そして彼女、真賀田四季は、「犀川」の「外」にいたんだ」 御影 「犀川の?」 フジモリ 「一般世界の「中」でありながら、犀川の「外」。犀川の妹の家の隣というのは、まさしくその境界線なんだよ」 御影 「境界線ぎりぎりにおったん?」 フジモリ 「真賀田四季は、犀川に興味を持っていたからね。普通、身内の妹の家といえば、(たとえ母親が違ったとしても)本人にとっては「中」なはずだ。しかし、犀川は喜多に妹のことを話していなかったように、彼にとっては身内ですら「外」なわけだ」 御影 「身内なのに「外」。確かに犀川らしいなぁ」 フジモリ 「それを真賀田四季は読みきっていた。だから、今回の真賀田四季の居場所は、「犀川」にとって、「Perfect」に「outside」だったんだ」 御影 「せやけど、最後には見つかってもぉたよね」 フジモリ 「そう。犀川は「喪失」あるいは「解放」し、自らの境界線が広がったということ。それが、真賀田四季と犀川との「リアル(現実世界)」での邂逅につながったわけだ。そしてそれは逆説的に、真賀田四季と犀川との「別離」でもある。今作の英題「The Perfect outsider」はそういった意味がこめられていたんだと思うよ」 御影 「深いなぁ。しかし、なんか話だけ聞くと、このS&Mシリーズって、「犀川を巡る萌絵と真賀田四季を描いた恋愛小説」みたいに思えるねんけどね」 フジモリ 「そういう見方もできるね。で、さっき言った、犀川にとっての「外」と「中」の移り変わり、犀川の「成長」「喪失」「解放」の過程を振り返れば、S&Mシリーズがまた違った輝きが出てくると思うよ。今作はまさに「総集編」という感じで、各章の引用文はこれまでの作品からもってきている。シリーズのクライマックス感をいやがおうにも高める、非常に心憎い演出だね」 御影 「せやけど、これでS&Mシリーズも終わりかぁ。なんかさびしくなるなぁ」 フジモリ 「彼らの「その後」については短編などで語られている。ひとまずは、再び出会うことのない「犀川」と「真賀田四季」の別れの余韻をじっくり味わうとしよう。今作「有限と微小のパン」の終わり方は、まさしく余韻を味あわせるかのような、一種突き放した終わり方だ。この余韻の残し方が、森博嗣の特徴なんだよね」 御影 「はあ、またS&Mシリーズ、読み直したくなったわぁ〜」 御影 「いやぁ、これでS&Mシリーズも終わり。寂しくなるなぁ」 フジモリ 「まあ、何度も言ってるけど、このあとの二人の物語も短編で語られているんでこの「世界」が終わったわけではないけどね」 御影 「よし、今回を機に、うちらの書評もリニューアルして、新メンバー加えよか!」 フジモリ 「新メンバーって?」 御影 「うちの妹の御影(おかげ)と・・・」 フジモリ 「字面かわんねぇよ!まぎらわしいよ!」 御影 「>ジモリとフジもリとフジモりも加えとこか。虚虚実実のフジモリが入り乱れる書評!さて、本物は誰だ!」 フジモリ 「俺しかいないって!」 御影 「なるほど。ほな、犯人はお前や!」 フジモリ 「最後の最後までわけのわからんオチでしめるなぁっ!!」 |