フジモリの脳内ラビリンス

〜a labyrinth in fujimori's brain〜

Seventieth bookshelf(ネタバレ感想)
森博嗣『そして二人だけになった』


註!
今回の書評には内容に関するネタバレがあります。未読の方はご注意ください。



ずっと一緒だよ。
どちらかが死ぬまでは・・・。


御影 「は〜い、みなさん集合〜」

舞奈 「なに、なに?」

メージャ 「いきなりなんだよ」

ドクトル 「またゲーム日記ですか?」

御影 「ちゃうわ!えーっと、今回は森博嗣の「そして二人だけになった」の感想なんで、みなさんに集まってもらうことにしましたぁ」

舞奈 「なんで?」

御影 「あとで説明するわ。その前に、一応初めてみんなの名前を見る人もいるかも知れへんから、自己紹介しとき」

舞奈 「えらく仕切ってるわね(笑)。えーっと、フジモリのマイナリティ人格を司ります、舞奈と申します。主に音評で出没しています」

メージャ 「同じく、音評にいますメージャです。フジモリのミーハー部分担当です」

ドクトル 「競馬欄担当、分析、解説役のドクトルです」

御影 「で、うちが書評担当の御影や。では、今回の作品の粗筋を。

巨大な海峡大橋をワイヤーで支えている構造物<アンカレイジ>。
その内部の<バルブ>と呼ばれる空間で殺人事件が起こった。
コンクリートの塊という密室の内部にいた人間は6人。原因不明のプログラムの異常により彼らは<アンカレイジ>内に閉じ込められたのだ。そして次々と殺人が起こり、最後には盲目の天才科学者とそのアシスタントの2人だけが残る。

 いう話や」

メージャ 「おお。すごい王道のミステリィだね」

舞奈 「んーで、どうなったわけ?」

御影 「まあ落ち着きや。今回はネタバレ書評なんでがんがん飛ばしていくで。この話、二転三転するんでうまく話さんとな。まず、この話の主人公は、盲目の天才科学者の弟。彼は、兄の影武者となっているわけや」

ドクトル 「ほうほう」

御影 「んーで、アシスタントにも妹がおって、今回の<アンカレイジ>連続殺人事件には妹の方がおったわけや」

メージャ 「二人とも、別人なんだ」

御影 「その通り。この小説では盲目の天才科学者、勅使河原潤の弟と、アシスタント森島有佳の妹の一人称が交互に進むんや。お互いがお互いを「本物」と思っとるんよ。そして、自分が「偽者」であることを言い出せへんでおるんや。そういったもどかしさがこの連続殺人事件に色を添えている、ゆぅことや」

ドクトル 「しかし、最後に残ったのは二人なんでしょう?どちらかが犯人じゃないんですか?」

御影 「そう思うやろ?でも、ちゃうねん。実は、二人がおった舞台は、大橋の端と端、連続殺人事件は2箇所で起きてたんや」

舞奈 「ええっ!?」

メージャ 「だったら、6マイナス2で4人、2箇所なんで計8人殺されていたのか?」

御影 「まあ、片方(有佳の妹)は殺され役が演技だった、ということも考えられんねんけどな」

ドクトル 「なんでそんな面倒くさいことしたんでしょうかね?」

御影 「まあ、理由については本編に書かれているから詳しくは言わへんけど」

舞奈 「トリックとしては面白いけど・・・、本当にそんなことできるの?2箇所でまったく同じことをしてるわけでしょ?殺人がらみのところだったら被害者役の演技でなんとかなるかもだけど、探偵役の二人(まあ、片方は犯人なわけだけど)の行動までは統制できないでしょ?」

御影 「それは大丈夫やろ。両端・・・分かりにくいんで、一人称が勅使河原潤の弟の<バルブ>を弟側、森島有佳の妹の<バルブ>を妹側とゆぅてみると、実際に殺人があったんは「妹側」。「弟側」は被害者がサクラなわけや。

「私の方は……、全部、本物だったわ」
「たぶんね。自信がある?」
「あります。あれは、本物の殺人でした」(ハードカバー版、p385)


ちゅうことは、「妹側」では、ほんまの殺人がおき、「弟側」では弟を除く5人がかりで弟をだましてたわけや。殺人者は「妹側」のパートナ・・・勅使河原潤やった、ちゅうことやね」

舞奈 「でも、トイレとかそういう行動まではつじつまが合わないでしょ?」

御影 「う〜ん。思うに、「弟側」と「妹側」では若干のタイムラグがあったんちゃうんかな?」

ドクトル 「なるほど。「妹側」では、「弟側」で起きた行動をそのまま再現するために、10分ぐらいあとに一連の事件が起きたわけですね」

御影 「そゆこと。んーで、最後の爆発で帳尻を合わせればええねんから」

メージャ 「でも、そうなると「弟側」のアシスタント(有佳)の行動はどうなるわけ?」

御影 「「弟側」の探偵役、勅使河原潤の弟は目が見えないふりをしなければならへんかったやん?逆にゆぅたら、目が見えとぉから、目に映る行動しか記憶してへん。ほんまの盲目やったら「音」がキーワードになり、「雑音」でばれる危険性もあるしな。有佳は弟の後ろにおったらええ。盲目の人は常人より聴力がええ思うから、例えば両側で通信しとった時の声とか、漏れ聞こえるもので怪しむかもしれへん。そのへんである程度の「弟側」における「弟」の操作もできるんちゃうんかな?」

メージャ 「なるほど。つまりこの「両側の<バルブ>でのパラレル殺人」は可能、ということだね」

舞奈 「うん、こういうトリックは初めて聞いたわ。やっぱ森先生はすごい作品書くわねぇ」

御影 「うんうん。森博嗣のすごさが分かったところで、次にいこか。んーで、ここまでのトリック、および殺人事件、実は実際に起きたことちゃうねん」

メージャ 「は?」

ドクトル 「どういうことですか?」

御影 「ここまでしっかりしたトリックで進めときながら、森博嗣はその舞台、詰め将棋の将棋盤をひっくり返すんや。実はこの事件、勅使河原潤の弟も、アシスタントの森島有佳も、その妹も、全部勅使河原潤の別人格やねん」

舞奈 「はあ!?」

御影 「そりゃ驚くわなぁ。登場人物、つまり二人の探偵役(勅使河原潤の弟と森島有佳の妹)も、犯人(勅使河原潤、森島有佳)も、全部同一人物。この話は、ある意味勅使河原潤の自作自演やったわけや」

ドクトル 「そ、それはある意味すごい話ですね・・・」

御影 「つまり「妹側」の事件は実際には起こっておらへん。それどころか、「妹側」の舞台そのものがあらへん。事件は「弟側」で行われ、兄である人格(勅使河原潤)が起こした殺人事件を、弟である人格とそのアシスタントである人格が解き明かしていく、いう話になるわけや」

メージャ 「わけがわかんなくなってきたぞ!」

御影 「そやろ。せやから、まず最初の話を整理してみてん。最初の話だけで、物語として充分成り立つやん?「密室殺人事件は、実は2箇所で起きていたものだった!」いう驚きや。しかしさらにそれをひっくり返す驚き。犯人、動機、舞台、すべてが違う「次元」になる。ほんま、おっそろしくすごい作品やわ」

舞奈 「しかし、最後は結局「夢オチ」みたいなもんでしょ?」

御影 「そやねん。せやから、この作品、読んだ人の中でも意見が割れとんねん。「うわ、すごい!」派と、「なんだそりゃあ!」派や。特に「なんだそりゃあ!」派は、最後の反転(多重人格という事実判明)に納得いってへんみたいやね」

ドクトル 「そりゃそうでしょう。まあ、一人称なんでフェアではありますけどね」

舞奈 「他にも多重人格オチのミステリィがあるしね」

メージャ 「でも、これがさらにひっくり返る、とかいうことはないの?「本当は、やはり「弟側」「妹側」の2箇所で事件が起きていた!」とか」

御影 「たぶんないやろな。「弟」「妹」の一人称、これは本人にとっての「真実」やけど、「事実」ではないわけや。「事実」については、宮原の独白で語られとる。ここで、物語は「収束」、つまり「固定」するわけや。これをひっくり返す推論(例えば、「勅使河原潤」「森島有佳」「勅使河原潤の弟」は実在していて、さらに「勅使河原潤の弟」は、「森島有佳の妹」の人格ももっとった、とかな)も考えられんねんけど、それやったら座りが悪いんで、宮原の「真実」を「事実」とすることでまとめたい、思ってん」

舞奈 「確かに、さらにどんでん返しがあったらすごいけど、読み手もついていけなくなるもんね」

御影 「そやねん。で、森博嗣のすごいところは、最初の反転(「<バルブ>は二つあった!」)で話を収束させてもええところを、あえてまた反転させた。さっきも話しとったけど、最初のトリックは物理的に可能なわけやし、それだけで一本の話になるわけやん?」

メージャ 「確かに」

御影 「せやけど、さらにそれをひっくり返した。事件を「点」とすると、まず舞台に2ヶ所あったゆう事で「点」が「線」になり、さらに複数人格、ゆぅことでそれが「面」になった。ひっくり返す、ゆぅんちゃうくて、「次元を高める」展開や、思ってん。ある意味、この作品はミステリィという意味では森博嗣の最高傑作かもしれん、そう思ったわ」


メージャ 「なるほど。この作品、純粋にミステリィとして読んでも楽しめる作品だね」

ドクトル 「ですけど、こんなたくさんの人格がでてくる作品ってちょっとないですよね」

御影 「そやねん!とりあえず、まずウチがこの作品を読んで思った感想をつらつら言ってきてんけど(ミステリィとしての完成度のことやね)、さらに思ったんが、この「人格について」や」

舞奈 「なるほど!だから私たちを集めたわけね!」

御影 「そゆこと。フジモリの音評、競馬、書評でガイド役になっとぉフジモリの人格の一部のみなさんに集まっていただいたんは、今回のこの書評、特に「多重人格部分」に彩りを添えるためや」

メージャ 「仙水忍みたいなものだ」

舞奈 「マサル会議みたいなもんね」

御影 「それぞれのボケをかますなぁっ!」

ドクトル 「しかし、物語の最後で勅使河原潤の弟(の人格)は兄(の人格)と森島有佳(の人格)を殺したわけですよね」

舞奈 「(御影を見ながら)あんたも、何度か書評でフジモリ(主人格)を殺しかけてるけど」

御影 「え?知らへんわ?それはウチの妹、「御影(おかげ)」の仕業ちゃうん?」

メージャ 「これ以上人格を増やすなよ!」

舞奈 「しかし、「多重人格もの」って題材、マンガや小説では結構あるけど、今作みたいなアプローチって珍しいわね」

ドクトル 「確か、S&Mシリーズの「真賀田四季」も複数の人格を保有してましたよね」

御影 「確かに、共通する部分はあるわな。S&Mシリーズでは犀川、西之園も複数の人格をもっとった。その辺については書評「森博嗣「犀川&萌絵シリーズ」を振りかえる」を読んでぇな。まあ、森博嗣に言わせれば、「誰しも人格は複数持っている、ただしその人格同士で相互にコミュニケーションが取れない状態が「多重人格症候群」と診断される」らしいねんけどね」

舞奈 「だったら、こうやって人格同士で脳内会議が出来るフジモリはまだまともなわけね」

ドクトル 「まともという使い方が間違っていますが、まあ、そうなんでしょうね」

メージャ 「まあ、「S&Mシリーズ」や「Vシリーズ」などで森博嗣は「複数の人格」について話してますから、そういう意味では、非常に「森博嗣らしい」結末だったんですね」

御影 「ある意味、この作品は「S&Mシリーズ」の裏にある話として読んでもおもろいんちゃうんかな?」




メージャ 「なるほど。深い書評だねぇ」

舞奈 「今回は御影の話に頷いてばっかりだっけど、まあ来た甲斐はあったわ」

ドクトル 「こうやって4人の人格が集まることがこの書評の伏線なわけだったんですしね」

御影 「はいは〜い、注目〜」

メージャ 「なに?」

舞奈 「なによ?」

御影 「(キンパチ先生の真似で)今から、ここに集まった人格のみなさんでぇ〜、ちょっと殺し合いをしてもらいます〜」

メージャ舞奈ドクトル「「「バトル・ロワイヤルかよっ!!!」」」



(註:当書評は掲示板でのご指摘を受け、2007/6/2に修正しました。ご指摘感謝です)



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