フジモリの脳内ラビリンス

〜a labyrinth in fujimori's brain〜

Fifty-ninth bookshelf
ウィリアム・ゴールディング『蝿の王』




蝿の王は、依然として彼の眼に曝されたままこちらを向いていた。


フジモリ 「今回は久々にミステリィでもSFでもない小説、ゴールディングの「蝿の王」を読んでみました」

御影 「蝿の王?ベルゼブブ?」

フジモリ 「うむ。といっても、ファンタジィじゃないぞ」

御影 「メガザルがやっかいなんよな」

フジモリ 「いきなりマニアックなボケをするんじゃないっ!」

御影 「せやかて、「蝿の王」ベルゼブブ(ベルゼブル)って悪魔のことやろ?しかも位の高い。それがタイトルになっとって、ファンタジィちゃうん?」

フジモリ 「ま、粗筋を聞けばわかる。

 大戦のさなか。イギリスから疎開する少年十数人を乗せた飛行機が無人島に不時着した。
 少年たちは生き延びるため、そして助けを求めるため一致団結するが、しだいに仲たがいをはじめ、そして殺し合いをはじめる・・・。

 という話だ」

御影 「ぶっちゃけてゆぅと、「十五少年漂流記」+「バトルロワイヤル」やね」

フジモリ 「ぶっちゃけるなよ。それに、「バトル・ロワイヤル」よりこっちの方が早い。まあ、内容に関しては御影の言う通り、漂着当初は生き延びるために協力し合い、火を起こしたり家を作ったりなど「無」から「有」を作っていく過程は「十五少年漂流記」を思わせるんだが、途中から雲行きが怪しくなる。食料の確保が元で争いが始まるんだ」

御影 「食いもんの恨みやな」

フジモリ 「ちょっと違うんだけどね。無人島で食料を取ろうとする「狩猟班」とあくまで助けを求めることを重要視する「首脳部」が対立するんだ。指揮統制にほころびが生じ、やがて埋められない溝ができる」

御影 「軍部と政府みたいやな」

フジモリ 「そんなもんだ。で、途中いろいろあり、ついに殺し合いが始まってしまうわけだ」

御影 「なんか・・・。「十五少年漂流記」のバッドエンド版みたいな感じやな・・・」

フジモリ 「けっこう重たい気持ちになるよ。しかし、スティーブン・キングのホラー小説などと違って、ただ読者を怖がらせ、重たい気持ちにさせるだけの小説ではない。根幹に流れるテーマがあるおかげで、よりいっそう重たくなっているんだ」

御影 「テーマ?」

フジモリ 「タイトルにもある「蝿の王」。少年たちは、見えないものにおびえ、見えないものに操られるかのように凶暴になっていった。しかし、途中で一人の少年が「蝿の王」と対話するんだ」

御影 「だから、「蝿の王」ってなんなん?」

フジモリ 「こればっかりは読んで確認してほしい。対話の中で、少年は自分たちが恐怖するものが何かを悟るわけだ。それは自身たちにある心の闇であり、恐怖の対象も自分自身たちの恐怖心の投影であることを知る」

御影 「幽霊の正体見たり、ってやつやな」

フジモリ 「その通り。しかしそれを伝えようとした少年は、恐怖と恐慌に駆られた少年たちに殺されてしまう」

御影 「うわ、えぐぅ」

フジモリ 「ラストは、救いのあるようで救いがない。生き延びた少年たちは、無人島の生活でイノセント、無垢なる心を失ってしまったからね」

御影 「闇は心にあることに気付いた少年が死んで、気付かずに闇を抱えつづけた少年たちが生き残る。皮肉な話やなぁ」

フジモリ 「そういう意味で、重たい読後感を残すわけだ」

御影 「せやけど、なんで殺しあいにまでなったんやろぉなあ?」

フジモリ 「そこがこの作者の凄いところだ。少年たちが殺し合いに至るまでの描写がうまいんだ。最初はうまくいっていたのに、些細なことから抗争が起き、単なる喧嘩のつもりが殺し合いになってしまう・・・。ときに読んでいて気分が悪くなるかもしれないが、その心の動きは読むものを唸らせるものがあるよ」

御影 「殺しあいまでの過程を重点的に描いとぉわけやね」

フジモリ 「だから、御影が模した「バトル・ロワイヤル」とはちょっと違うわけだ」

御影 「そやね。「バトル・ロワイヤル」は、いきなり殺し合いからスタートするもんな」

フジモリ 「「バトル・ロワイヤル」は「殺したくないのに殺し合いをしなければいけない」話、「蝿の王」は「殺す必要がないのに殺し合いになってしまった」話と、対照的だ。読み比べてみるのも面白いかもしれないね」

御影 「せやけど、あんた「バトル・ロワイヤル」は未読なんやろ?」

フジモリ 「話は聞いてるけどね。そのうち読んで書評するよ」

御影 「まあ、今回のはあんまり声を大にしてはオススメできへんなぁ」

フジモリ 「とはいえ、新潮文庫の100冊に選ばれているし、ノーベル文学賞も受賞している。文学作品として有名だから、読んでおいて損はないね。実際、フジモリも読んで重たい気分にはなったけど、得るものは大きかった。面白かったよ」

御影 「不謹慎やな」

フジモリ 「うーむ。他に適当な表現が思い浮かばないなぁ」

御影 「なんか、ぼろが出てきたんちゃうん?」

フジモリ 「ぼろってなんだよ」

御影 「いや、これ以上語り出すとフジモリのダークさが漏れ出してまうで」

フジモリ 「オレ自身が蝿の王なのかよ!・・・ま、まあ、あまり突っ込んだ感想をすると重たくなっちゃうんで、この辺にしとこうかな」

御影 「そやね。あくまで「感想」と「紹介」やもんね」

フジモリ 「読んでくれたらフジモリの言っている意味がわかると思う。たまには、ミステリィ以外の本も読んでみるもんだね。読む人の心に重たいものを残すと同時にいろいろと考えさせられる、すごい作品だと思うよ。これが、今回の感想かな?」




御影 「・・・「蝿の王」は自身の中にある、かぁ。荀子の「性悪説」を地でいく話やなぁ」

フジモリ 「恐れていた悪魔は、自分の内にあったわけだ。物語の根幹を流れるものを表現する、うまいタイトルだと思うよ」

御影 「もちろん、これに限ったことではないやろぉけどな」

フジモリ 「「青い鳥は自分の家にいたんだ!」ってのもそうだよね」

御影 「ま、まあ、まったく逆やけど、それもそうやな」

フジモリ 「「ラピュタは本当にあったんだ!」ってやつもそうだよね」

御影 「それは全然ちゃうやろっ!」



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