| フジモリの脳内ラビリンス
〜a labyrinth in fujimori's brain〜 Fifty-seventh 矢崎存美『ぶたぶた』『刑事ぶたぶた』『ぶたぶたの休日』 |
そこにはぶたのぬいぐるみが立っていた。 フジモリ 「さて今回は矢崎存美の「ぶたぶた」「刑事ぶたぶた」「ぶたぶたの休日」をとりあげます」 御影 「アイヨシも書評でとりあげとったやんな」 フジモリ 「うむ。フジモリもアイヨシの書評を読んで読みたくなったんだが、アイヨシが勧めるとおり、面白い本だったよ」 御影 「あれ?でもタイトルの並び順がちゃうんちゃう?」 フジモリ 「確かに、発行順では「ぶたぶた」「ぶたぶたの休日」「刑事ぶたぶた」だけど、「ぶたぶた」「刑事ぶたぶた」はもともと廣済堂出版で発行されたものだ。フジモリもそれにならい、発表順に読んだ、というわけだ」 御影 「・・・なんか意味あるん?」 フジモリ 「いや、特にない。単に、「短編集」「連作短編」「短編集」と読みたかっただけだ」 御影 「なんやねん、それ」 フジモリ 「ま、つまり、どの順番で読んでも楽しめる、ってことだ。というわけで、御影、粗筋を」 御影 「自分で「短編集」ゆぅといて、粗筋も何もないやろっ!?ま、まあ、あえて粗筋を説明すると、 あるときはベビーシッター、またあるときは料理長。はたまたあるときは刑事と、さまざまなシチュエーションで登場人物たちの前にあらわれる山崎ぶたぶた(男、妻子持ち)。実は彼は、ピンク色をしたかわいいぶたのぬいぐるみなのだった。 この小説は、ぶたぶたと、ぶたぶたに出会う様々な人たちのやり取りを描いた、心温まる短編集である・・・。 こんな感じかな?」 フジモリ 「OK、OK。上出来だ。まず特筆すべきは、主人公、ぶたぶたのかわいさ。彼に出会う人たちは、始めはぶたのぬいぐるみということに驚き、そしてそのかわいさに魅了される」 御影 「ほんま、読むだけで目じりが下がるわぁ」 フジモリ 「そして、それぞれに悩みを抱えた登場人物たちが、ぶたぶたと知り合うことでそれが氷解していく様子が描かれている。その心の動きは、読むものにカタルシスを与えるね」 御影 「しかし、アイヨシも言ぅとったけど、この本の感想ってむずいなぁ」 フジモリ 「ぶたぶたかわいいっ!、の一言で終わらせてもいいからねぇ」 御影 「それで、終わりにせぇへん?うちもその方が楽やし・・・」 フジモリ 「だから、それじゃ感想にならないって!と、いうわけで、ちょっと考察を加えながら感想を述べてみることにする」 御影 「余計なことはせんほうがえぇ思うねんけどなぁ・・・」 フジモリ 「うるさいって!この3作の短編集、基本的には流れが一緒だよね。「ぶたぶた」と、初めてぶたぶたにあった人の心の動き」 御影 「みんなびっくりしとぉもんなぁ」 フジモリ 「そして、それ以外の人たちはぶたぶたと親しく接している。そこが、この物語の面白いところの一つでもある」 御影 「ほんま、「なんでそんなに普通に接してんねん!」って、突っ込みの一つも入れたぁなるもんなぁ」 フジモリ 「こういった、「日常にありえないもの」が登場するコメディとしては、漫画ではたくさんあるよね」 御影 「ドラえもん、オバQ、ハットリくん、怪物くん・・・藤子不二雄シリーズで多いやんなぁ」 フジモリ 「最近ではその流れを引き継いでいる、吉崎観音の「ケロロ軍曹」もあるね。いずれも、主人公の家に異世界からのかわいらしい住人が居候してくる話だ」 御影 「それを言ぅなら、空から落ちてきた虎皮のビキニ着た女の子やビデオから出てきた女の子の話もそうやな」 フジモリ 「ビ、ビデオガールはちょっと違うと思うが・・・。とにかく、これらの話では、異世界から来た住人が、主人公の世界(現実世界)とのギャップに驚くところなどが面白いところとして書かれているわけだ」 御影 「柳田國男が言う、「マレビトもの」やね」 フジモリ 「あれは民話だけどね。マレビトってのは異邦人のこと。民話の世界では、異邦人を妖怪にする話も多い。ドラえもんやオバQなんかもマレビトって言えばマレビトだからね」 御影 「んーで、ぶたぶたもそれらと同じく、マレビトや、ちゅうわけやね」 フジモリ 「そう。しかも、この「ぶたぶた」が面白いところはそれをさらにひとひねりしているところだ。本来ならばマレビトである「ぶたぶた」、動いて喋るぶたのぬいぐるみを、周りの人たちは「マレビト」として認識していない。人間と同じように接している。「マレビト」だと認識しているのは初めてぶたぶたに会った登場人物だけだ、というところが、この物語の面白さを増しているんだ」 御影 「むしろ、自分の方が「マレビト」やと錯覚してしまうところやね」 フジモリ 「落語の「一つ目国」みたいなもんだね。その登場人物の心の動きがこの小説の面白いところであり、そして次第にぶたぶたを受け入れるようになる過程が、この小説のハートフルなところでもあるんだ」 御影 「確かに、最初で笑わせときながらも、最後では心を温まらせ、ほんわか終わらせるもんなぁ。うまいわぁ」 フジモリ 「うまいね。各短編、それぞれに味があるし、単純に「ぶたぶたかわいいっ!」と読むのもよい。・・・そうそう、「マレビトもの」のジャンルが小説で珍しいのは、どうしてだと思う?」 御影 「?・・・そういや、そうやな。なんでやろ?」 フジモリ 「漫画は「マレビト」、異邦人の「特異さ」をビジュアルで表現できるからだ。見て一発で「この世界の人とは違う!」って読者に印象を与えることができるからね。小説だとそれが難しい」 御影 「なるほど。その点、ぶたぶたはよぉ出来とんな」 フジモリ 「読んで、一発でぶたぶたがこの世界(フジモリたちがいる世界)の住人ではないことが分かるし、そのかわいさも伝わってくる。 実ににこやかに−−−−と言ってもぬいぐるみの目は黒いビーズで、表情はよくわからないはずなのだが・・・。話す時は、突き出た鼻の先がもくもく動く。(p8) などと、ぶたぶたの描写が上手なんだ。そういったところも、ぶたぶたの魅力をひきだすうまさだね」 御影 「ほんま、ぶたぶたかわいいもんなぁ。うちにも一人ほしいわぁ」 フジモリ 「読むと、「ぶたぶた」じゃないけど、心がぬいぐるみのようにふかふか、ほんわかしてくる話だよ。笑えて、泣けて、心に良い余韻を残す。申し分ない小説だね。あらゆる人に読んでほしい本だ、というのが、今回の感想だね」 フジモリ 「しかし、ほんとぶたぶたってかわいいね。まあ、現実世界ではそうやって喋るぬいぐるみに会う機会なんてあるわけないけどねぇ」 御影 「うち、あるで」 フジモリ 「えっ!?」 御影 「この前居酒屋言ったら、喋るネコのぬいぐるみが焼き魚たべとった」 フジモリ 「おいおい、冗談言うのもいいかげんにしなさい」 御影 「ほんまやって!写真もあんねんから」 フジモリ 「えっ!?ほんと!?」 御影 「うん。ほら、見てみぃ」 フジモリ 「”ねここねこ”じゃねぇかよっ!」 |