フジモリの脳内ラビリンス

〜a labyrinth in fujimori's brain〜

Fifty-fifth bookshelf
エリザベス・ヘイドン『ラプソディ〜血脈の子〜』




さればこの歌を心に刻み
イル・アイレン・エル・イアチャド・ダエリキント
喜ばしき治癒の歌
癒えるまで歌い続けよ


フジモリ 「今回は久々にファンタジィものを読んでみました。エリザベス・ヘイドンの「ラプソディ〜血脈の子〜」上下巻です」

御影 「おお。ファンタジーものかぁ。しかも海外作品なんて、めっちゃひさびさなんちゃうん?」

フジモリ 「♪ラプソディ〜キ〜ィ〜ッス〜」

御影 「歌うなぁっ!しかも「ラ」ぁしか合ってへんやん!!」

フジモリ 「まあまあ。なんで歌ったのかはあとで説明するから。では、あらすじを。

 街の権力者、ミカエルに追われていた元娼婦、ラプソディはたまたま通りかかった二人組、アクメドとグルンソルに助けを求める。
 実は二人は、邪悪な火の精フドールから逃れ、彼の邪悪な計画を覆すために旅をしているのだった。
 ラプソディの「歌い手」としての才能に目をつけたアクメドはラプソディを旅に同行させる。
 長い長い<巨木の根>での旅の果てに三人がたどり着いたのは、千年後の世界だった・・・。

 という話だ」

御影 「おお、めっちゃファンタジーやなぁ」

フジモリ 「そうだろ?実はこの作品、「血脈の子」「大地の子」「大空の子」の3部作で、「血脈の子」は第1部にあたる。主人公であるラプソディたち3人組が冒険の旅に出かけ、一つの国を興し、とどまるところまでだ」

御影 「冒険!ええなぁ。いかにもファンタジーって感じやね!」

フジモリ 「やけにテンション高いね。で、読んだ感想なんだが、まず目をひくのはフジモリが大好きなイラストレータ、鶴田謙二氏による美麗な表紙だ。この表紙がきっかけでこの本を買ったといっても過言ではない」

御影 「この人の絵ぇとファンタジーって、めっちゃ相性ええやんなぁ」

フジモリ 「そうだね。作中に挿絵がないのは残念だけど、上下巻の表紙はそのまま飾っておきたいぐらいだ」

御影 「んーで、実際の中身はどうやったん?」

フジモリ 「うん。内容も表紙に負けず劣らず、楽しく読めた。まずは主人公、ラプソディ。元娼婦であり、「歌い手」という職業だ.これまでにはない主人公像だよね」

御影 「歌い手って、吟遊詩人(バード)みたいなもん?」

フジモリ 「そう思うだろ?しかし、そうじゃないんだ。「歌い手」とは「歌声によって事物の性質をも変えるもの」。真の名を与え、この世の物ならざる力を与える存在。つまり、魔法使いに近いわけだ」

御影 「魔法使い?ほな、歌い手の上級職が魔法使いなわけやな」

フジモリ 「ま、まあ、そんなもんだ。「ものに真の名を与える」ことで、ラプソディは傷を癒し、炎の中を潜り抜け、巨大な竜を眠らせる。この物語はある意味、ラプソディの成長物語でもあるんだ」

御影 「はぁ。ほんま、魔法やなぁ」

フジモリ 「そうだね、魔法っていうのはもともと「ものの真の名を扱う」ことと密接に結びついている。「真の名」という概念に関しては「ゲド戦記」なんかが有名だけど、中世の騎士物語でも真の名を隠し、互いに通称で呼び合っている。日本だって「忌み名」という概念があるし(起源は中国だけど)、「名前」という概念に関しては世界共通なんだと思うよ」

御影 「ほぉ」

フジモリ 「で、小説「ラプソディ」ではその「名前」を操る者が「歌い手」という設定なんだ。歌に乗せて「真の名」を操る!これが血沸き肉踊らずにいられるかっ!同じ歌い手として!!」

御影 「歌い手かいっ!・・・って、だからさっき歌っとったんかいっ!!
 ・・・い、いや、あんたが「同じ」歌い手かどうかゆぅんはおいといて、「歌」を「魔法」の代わりに設定するんはおもろいなぁ」

フジモリ 「そうだろ?ただ、補足しておくと、物語の中では火球を飛ばしたりといったRPGにあるような「魔法」も存在する。こちらは、「火の精フドール」に仕える邪悪な信者たちが使っているんだ」

御影 「僧侶が攻撃呪文をつかっとるんや」

フジモリ 「そういうことになるね。前半ではラプソディとアクメド、グルンソルの二人組との邂逅、そしてその旅の中でラプソディが成長していく過程が描かれていく。ひらたくいえば、RPG風味だね」

御影 「ほぉ。で、旅の途中ロマンスの一つや二つ生まれるわけやな」

フジモリ 「ところが、そうではない。説明し忘れていたが、アクメドとグルンソルは見た目が怪物のような種族だ。混血により二人はそれぞれ全く違う容貌をしているんだけど、グルンソルは他のファンタジーで言うところのオーガのような種族。怪力を誇る、強い戦士だ。同じくアクメドはフィルボルグ族といって「他人の鼓動を感じることができる」という能力を持つ優秀な狩人。そういった意味で、3人の間には恋愛感情ではなく、純粋に「友情」で結ばれていくんだ」

御影 「へぇ。異種族による変則的なパーティの冒険なんやぁ」

フジモリ 「うん。で、ひかわ玲子氏の解説で指摘されてたけど、この物語にはアメリカという「多種族」国家という背景がある。「ハリー・ポッター」がイギリスの「階級社会」を背景としているようにね。前半はこの全く異なる3人が冒険を通じて互いを信頼しあう「仲間」になり、後半ではこの3人が、「国家」を築いていくんだ」

御影 「国家ぁ!?また、壮大な話やな」

フジモリ 「サブタイトルの「血脈の子」というのは、実はアクメドのことだ。後半では、長い長い冒険の後、自分たちが元いた世界には戻れないことを知った3人が、辿りついた世界のことを知るために冒険する。その途中、アクメドと同じ種族が無秩序に住んでいる土地で国家を興していく、というわけだ」

御影 「なんか、ほんま、アメリカちっくな話やなぁ」

フジモリ 「しかし、正義の押しつけを思わせるほどではない。自分の居場所がなかったアクメドは、ここで自分の「故郷」を造っていくんだ。前半がRPGだとしたら、後半は建国シミュレーションだね」

御影 「豪華やなぁ」

フジモリ 「もちろん、この3人以外にも個性豊かなキャラクタは登場してくるし、世界の謎もさまざまな形で伏線として出てくるけど、第1部である「ラプソディ」は単純に3人の冒険譚として読むだけで充分だと思うよ」

御影 「冒険譚かぁ。ほんま、ファンタジーの王道やな」

フジモリ 「日本のファンタジィが悪い意味でRPG化しているんで、市場は低迷気味だ。しかし、「ファンタジィ小説」そのものが低迷しているわけではない、そう思わせるほどの面白さを持った小説だったよ。ファンタジィ好きだったら読んで損はないね」

御影 「おお、言いきりよった」

フジモリ 「硬派だけど読みやすいファンタジィだ。「いつもとは違ったジャンルの本を読みたい」という人にもオススメだね。ボリュームはあるけど、読みごたえがあって、とても面白かったよ」


御影 「歌い手の話かぁ。ま、あんたも歌い手の端くれや。ラプソディとまでは言ぃへんけど、歌で人の心を揺さぶれるぐらいにはならんとなぁ」

フジモリ 「?、なにをスケールの小さいことを言ってんだ」

御影 「???」

フジモリ 「歌い手たるもの、夢はもちろん、世界征服、・・・もとい、世界制服だ!」

御影 「制服着せてどないすんねんっ!!」



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