フジモリの脳内ラビリンス

〜a labyrinth in fujimori's brain〜

Fifty-fourth bookshelf(ネタバレ感想)
森博嗣『数奇にして模型』


註!
今回の書評には内容に関するネタバレがあります。未読の方はご注意ください。



「もし、彼女を殺したら、僕は貴方を殺します」


フジモリ 「今回は森博嗣のS&Mシリーズ文庫版第9部、「数奇にして模型」の感想です」

御影 「このタイトル、「好きにしてもOK」からとったんやってなぁ」

フジモリ 「もともとは英題「NUMERICAL MODELS」が先にあって、そこから邦題が浮かんだそうだけどね」

御影 「全10冊のうち、9冊目かぁ。いよいよ大詰めやな」

フジモリ 「その通り。シリーズとしても、いろいろと急展開をみせている。というわけで、粗筋を」

御影 「はいな。

 模型交換会会場となる公会堂の一室で、コスプレモデルの死体が発見された。
 死体の首は切断されており、密室状態となった部屋で昏倒していた大学院生に嫌疑がかけられたが、彼には同じ頃に大学で起こった密室殺人の容疑もかけられていた。
 彼にかかった容疑を晴らそうと、西之園萌絵は奔走するが・・・

 いう話や」


フジモリ 「今作では、いろいろと語る点があるんだけど、まずはシリーズものとしての感想から語っていこうか」

御影 「ほな、まずはうちのライバル、ラヴちゃん登場のとこから行こか」

フジモリ 「いつからライバルになったんだよ」

御影 「え、いや、関西弁話す子ぉはみんなライバルやから」

フジモリ 「おまえ日本の女性の約半分をライバルにするつもりか!
・・・とまぁ、それはおいといて。御影の言うとおり、今作では、金子君の彼女、反町愛ことラヴちゃんが出てきたね」

御影 「金子君はレギュラーメンバやったけど、ラヴちゃんの登場はいきなりやね」

フジモリ 「そうだね。フジモリも最初読んだときは、「え?ラヴちゃんって前々から出てきてたっけ?」と思ってしまったが、今回初登場だ。もっとも、名前だけは「幻惑の死と使途」で出てきたけどね。しかし、役どころとしては萌絵の数少ない友人として彼女の力になり、一方で彼女と同じ境遇を持つ金子の彼女として萌絵と金子の「繋ぎ」となる、物語のキーパーソンなわけだ」

御影 「せやけど、なんでいきなり登場したんかなぁ?」

フジモリ 「ま、ぶっちゃけて言うと、第10部への伏線だね。彼女の存在は覚えておいた方がいい。それと、今まで「犀川研」の一員としてあまり物語の中心に出てこなかった金子をクローズアップさせるため、というのもあるだろうね」

御影 「せやな。今回、金子君大活躍の巻やったもんなぁ」

フジモリ 「そうだね。今作では、金子が萌絵と同じく旅客機事故で肉親を失っているという過去が明らかになる。今まで金子が彼女に接する態度の理由はそれに起因してたわけだ。そして、シリーズの核心とも言える、萌絵の「死にたがり」という一面を指摘する」

御影 「あそこのやりとりは、この話の山場の一つやな」

フジモリ 「そう。萌絵が「殺人」(そう、「殺人事件」ではなく、「殺人」だ)に興味を抱いている理由、そして危険だとわかっているのにそれに飛び込んでいく「無謀」の理由を、「両親の死」によるものと指摘するわけだ。萌絵は反発するが、それは的を射ていたからだ。まだ詳しくは話せないけど、このことはS&Mシリーズの主題の一つでもある。これもまた、第10部の予習として覚えておいた方が面白いと思うな」

御影 「せやけど、ほんま、萌絵って無茶しよんよなぁ。死にかけたんが、第2部、第3部、第4部、第6部かぁ。7部(「夏のレプリカ」)やって場合によっては殺されとったかもしれへんもんなぁ。実際、読者の中もこの萌絵の無謀っぷりには頭にきとる人がおるかもしれへんしなぁ」

フジモリ 「しかも、今回の危機は最高級だ。犀川が間に合わなかったら間違いなく死んでたからね。犯人と犀川とのやりとり、ここがこの物語一番の山場だね」

御影 「あのゼムクリップが伏線になっとったんやからなぁ。うまいわぁ」

フジモリ 「それに、S&Mシリーズでは初めてのアクションシーンだったしね。メンバーも、いつものメンバーに儀同世津子、喜多教授、そして新キャラ大御坊も登場して、非常に豪華な一作だったね」

御影 「「今はもうない」の最後らへんで、5歳の頃の萌絵と遊んどった男の子の一人って、大御坊やろ?」

フジモリ 「その通り。とにかく、これまで一番の厚さ(まあ、10部はもっと厚いんだけど)を誇るだけあって、読みどころ満載の一作だよ」


御影 「シリーズとしてもおもろかったけど、この話だけ取り上げてもおもろかったよなぁ」

フジモリ 「うん。今作で一番クローズアップされるところは、犯人像だね」

御影 「異常、と一言で片付けれらへんもんなぁ」

フジモリ 「まあ、作られた常識の外にあるものとしてマスコミとかが良く使う表現だよね、「異常」って。しかし、犀川も言っていた通り、犯人は「自分の特異性を明確に識別し、社会との相対性も把握している」、非常に明晰な頭脳を持っていた。単なる社会常識が皆無なオタクが「これをやったらどうなるか?」という想像力なく犯した犯罪とは次元が違うわけだ」

御影 「きっついなぁ」

フジモリ 「そうか?きわめて普通の感想だと思うが。まあ、この小説がフィクションだと思わせる部分は、そのへんに言及してないところだね。普通だったら、死体の模型を持っている容疑者なら、容疑者の段階でも週刊誌の一社や二社リークしててもおかしくないから。マスコミって特異なジャンルの趣味を持っている犯罪者に対して無駄に厳しいからね」

御影 「せやけど、それはこの作中でも言っとるように、安易な「動機付け」をしたいからちゃうん?」

フジモリ 「そうだろうね。「犯罪をするような性格だから、○○を趣味にしている」のかもしれないのに、「○○を趣味にしているから犯罪を犯す」という論点のすり替えが起こるからね。そういう点では、今作は特異な動機を持つ犯人について書くことにより、マスコミや警察が行う「安易な動機の決め付け」についてアンチテーゼを訴えている、と深読みできなくもない」

御影 「深読みやろ」

フジモリ 「そうかなぁ。でも、実際思わない?フジモリがもしそういう犯罪をするとしたら、失敗したあとのことも考えて、身の回りからそういう痕跡を一切消すけどなぁ」

御影 「・・・・・・」

フジモリ 「・・・・・・」

御影 「・・・・・・」

フジモリ 「・・・・・・」

御影 「・・・ま、まあ、聞かなかったことにしたろ」

フジモリ 「こ、こら!フォローしてくれなきゃ本気に取られるだろうが!」

御影 「ま、あんたが犯罪者になったときは、このページが「週刊女性」とかに載っとるやろうけど、気にせんといて」

フジモリ 「す、すっげえひとごとみたいな言い方。もちろん、今のは冗談だけど、よくマスコミが犯罪者の趣味で面白おかしく取り上げる「ゲーム」「マンガ」「アニメ」なんかは、芸能人のスキャンダルと同じで、エンタテイメント性、ゴシップ性があるから取り上げるわけだ。犯人心理からすれば「万引きをする女子高生」となんら変わりはないのにね。犯人自体ではなく、犯人の趣味に「特異性」があるという取り上げ方をするのが、マスコミ(特に大衆紙)の特徴だ。今回読んだ本、「数奇にして模型」の犯人も模型オタクだったわけだけど、彼の行動、心理を通して、実世界で起こっている犯罪との重なりを考えてしまったね」

御影 「ほんま、S&Mシリーズとして読むだけやのぉて、この話だけとりあげて読んでもいろいろと考えさせられる本やったなぁ」

フジモリ 「文庫版になって改めて読んだわけだけど、今作は単体としても十分な面白さを持っている本だ。いろいろなことを考えながら再読できる、非常に面白いミステリィだね。そう思ったよ」


御影 「そういや、この事件の犯人は模型オタクやったわけやけど、あんたはどうなん?」

フジモリ 「突然のフリだなぁ。フジモリは模型を全くやらないよ。昔やって、懲りたからね」

御影 「えっ!?「昔」って、あんた、模型なんかやっとったん!?」

フジモリ 「ああ。小学校の頃、ガシャポンで「ズゴック」を作ろうとしたんだが、腕がハマんなくて壁に叩きつけたよ。それ以来模型は、やってないなぁ」

御影 「・・・たった4つのパーツでリタイアすなぁっ!!」



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