フジモリの脳内ラビリンス

〜a labyrinth in fujimori's brain〜

Book's Floor


Fifty-first bookshelf
森博嗣『スカイ・クロラ』





 僕はまだ子供で、
 ときどき、
 右手が人を殺す。
 その代わり、
 誰かの右手が、
 僕を殺してくれるだろう。


フジモリ 「さて、51作目の本を迎え、背景も変わりました」

御影 「今回の本に合わせとんのやな」

フジモリ 「そう。今回取り上げる本は森博嗣の「スカイ・クロラ(Sky Crawlers)」。直訳すると、「空を這うもの(たち)」という意味だ」

御影 「装丁がめっちゃ綺麗やな。青空に雲。カバーが透明のビニールやし」

フジモリ 「この綺麗な表紙のためだけに1700円出す価値はあるかもしれないね。フジモリも、海の青より空の青の方が好きだ」

御影 「別にあんたの趣味嗜好は聞いてへんから」

フジモリ 「あ、そう?では、あらすじを。御影、お願い」

御影 「えーっと、

 新任のパイロット「カンナミ・ユーヒチ」は草薙水素の部隊に配属される。
 カンナミたちは、「民間企業」に所属していて、思想も敵も知らず、飛行機「散花」に乗り、相手を撃ち、殺す。
 そしてカンナミは、草薙も自分と同じ「キルドレ」であることを知る・・・。

 てな感じでどない?」

フジモリ 「OK、OK。上出来だ。今回の小説はミステリィじゃないけど、ストーリィの根幹の部分は伏せておこう。で、感想だけど、どうだった?」

御影 「なんか・・・。物語として解決してへんのやけど・・・」

フジモリ 「確かにね。おもむろに登場した敵役「黒豹」との決着や前任のパイロット「ジンロウ」の死因、「キルドレ」の正体(まあ、これは三ツ矢が「仮説」として語ってるけど・・・)など、広がった風呂敷がたたまれていないね」

御影 「S&Mシリーズをはじめ、含みを残したラストって多いし、わざとなんかなぁ?」

フジモリ 「わざとはわざとだと思うけど、ちょっと座りが悪いよね。とまあ、これが第一印象」

御影 「せやけど、あつかっとる中身は結構重いわなぁ」

フジモリ 「そうだね。「黒猫の三角」で主人公、瀬在丸紅子が

 「遊びで殺すのが一番健全だぞ」
 「仕事で殺すとか、勉強のために殺すとか、病気を治すためだとか、腹が減っていたからとか、そういう理由よりは、ずっと普通だ」

 って言ってるけど、戦争も同じなんじゃないかな。本当は国益のための戦争なのに、思想だとか、宗教だとか、人権主義だとかを掲げたものよりも、企業(作中では「戦闘企業」と称される)が純粋に利益のためだけに殺し合いをする、というのが「スカイ・クロラ」の舞台だし、パイロットたちがゲーム感覚で戦闘機に乗っているほうが健全だ、という設定で話が進んでいる。それが正しいことかそうでないことかはさておき、一理ある意見だと思うよ」

御影 「なんかきな臭い話やな」

フジモリ 「行き着くところは「倫理とはなにか」だからね。そして、それの答えなんて昔から出ている。「時代や社会において猫の目のごとく変化する」のが「倫理」と呼ばれるものの正体だ。ま、当たり前のことなんでフジモリが取り立てて書くことでもないか。とにかく、今作「スカイ・クロラ」は架空の戦記をモチーフに、「戦争」というテーマを取り扱っているのは事実だ」

御影 「あと、「キルドレ」ゆうニュータイプが出てくんねんな?」

フジモリ 「ニュータイプ・・・。確かにそうだけど・・・。「キルドレ」ってのは「キル」+「チルドレン」から作った造語だと推測してるんだけど、「無限の生を生きる子供」として物語で重要な役割を担っている。「無限の生への苦悩」ってのは手塚治虫の「火の鳥」を出すまでもなく、さまざまな作品で取り上げられているしね」

御影 「「無限の住人」とか」

フジモリ 「マニアックな例えをするな!で、まあ、カンナミと草薙という二人のキルドレの苦悩っていうのがこの物語の鍵であり、それを前提に再読すればまた新たな面白さが発見できると思うよ」

御影 「テーマは「戦争」と「無限の生」やな」

フジモリ 「一読して「なんだ、この話は!」とあっけにとられた人も、そういったテーマを頭に入れて読み直すと、意外と、余韻が残る良い終わり方だって思うんじゃないかな?」

御影 「しっかし、ついて来れる人だけついて来いっちゅう森イズムばりばりの本やな」

フジモリ 「空の話を書いてるからか、誰にも手の届かないところに存在するイメージもあるね。ともあれ、森ファンは買って損はない本だ。あと、装丁に惹かれた人もね。森作品ってシリーズ以外は変則的なものが多いけど、慣れればその奥のものを読み取れる。そんな感想を持ったね」


御影 「なあ」

フジモリ 「ん?」

御影 「さっきから「装丁がいい」ってゆぅとぉけど、未読の人のために表紙を見せたほうがええんちゃうん?」

フジモリ 「そうだね。御影、探してきて」

御影 「はいな。(ごそごそと本棚を漁る)・・・あったあった」

フジモリ 「よしよし」

御影 「青空に雲が浮かんでて、ビニールのカバーに包まれている本やな」

フジモリ 「そう。いい装丁だよなぁ」

御影 「では、未読の方に。・・・これが表紙です!

フジモリ 「・・・って、違うだろがっ!!」



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